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魔族IT革命  作者: 白樹春來
魔京都 会社設立編
34/68

34話 新たな敵

 稲荷地区から遥か東に位置する、古びた教会の一室。


 ここでは、緊迫した空気の中で司祭と金等級の冒険者が密談を繰り広げていた。


 教会内はひっそりとしており、厳かな雰囲気が漂っている。


「復帰早々で悪いが、早速情報を共有してもらえないか?」と司祭が低い声で言葉を切り出した。


 冒険者は静かに膝をつき、騎士のように礼儀正しく頭を垂れる。重厚な空気に包まれたまま、彼は神聖な場にふさわしい振る舞いを見せている。


「戦闘区域では未知の魔族の脅威により、冒険者たちは想定よりも進軍を進めることができず、すべての部隊が壊滅しました」と冒険者は落ち着いた口調で報告するが、その声には失望と屈辱がにじみ出ていた。彼らの自信をもって臨んだ戦いは、圧倒的な魔族の力の前に打ち砕かれたのだ。


「神に与えられた肉体と魔術を駆使してもか?」司祭は眉をひそめ、疑念の表情を浮かべる。


 神の加護を受けた存在が、なぜこのような敗北を味わうことになったのか。彼には理解できなかった。


「おっしゃる通りです」と冒険者は淡々と応じたが、その言葉の裏には悔しさが滲んでいた。


 司祭は一度瞑目し、神の啓示を仰ぐかのように天を仰ぐ。


 彼の視線は高く、天井を越え、神の存在へと向かっているようだった。


「この世界は神によって創られている。我々人間がレベルアップで肉体を強化できるのも、魔術で自然の摂理を捻じ曲げることができるのも、スキルという恩恵が得られるのも、すべては神の御業だ。神の恩恵には感謝しなければならない」


 冒険者はその言葉に頷く。この世界のすべてが神の意思で動いていることを、彼も理解していた。人間が手にする力のすべては、神の慈悲によって与えられたものなのだから。


「神から授けられたこの力には、果たすべき役目がある。人類は、全ての魔族を殲滅するという使命が託されているのだ」と司祭は厳かに告げる。


「はい、理解しております」と冒険者は神妙な顔つきで答えた。その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。


 司祭は少しの間を置いて、慎重に次の問いを口にした。


「此度の贄奉祭にえほうさいはどうする? このままでは必要数には届かないぞ?」


 贄奉祭にえほうさい――それは、魔族をいけにえとして神に捧げ、その力を高める神聖な儀式だ。しかし、現状の戦況では、必要な数の魔族を確保することは難しいと見られていた。


「ギルドマスターの派遣を要請します!」冒険者は即座に答えた。


 その声には焦りと緊張がにじんでいた。ギルドマスターは彼ら冒険者にとって、まさに最後の切り札。彼の強大な力があれば、魔族の殲滅を進め、迫り来る贄奉祭にえほうさいの準備を整えることができる。


 司祭はその言葉を聞き、静かに頷いた。彼の瞳に宿る光は、冷静でありながらも強い決意を示している。


「ならば、私が司祭として、直々に出立の使令を出そう」と、威厳を込めて応えた。


「ありがとうございます、司祭様」と冒険者は頭を垂れ、感謝の意を示した。しかし、その直後、司祭は申し訳なさそうに金等級の冒険者を見つめた。


 その視線には一抹の憐憫が込められていた。


「すまないな、お主が今まで積み上げてきたものを、情報を持ち帰るためだけに、そのようなビルドにさせてしまって……」司祭の声には、どこか哀れみが感じられた。


 冒険者は一瞬、何かを考えたように目を閉じたが、再び顔を上げ、微笑みながら答えた。


「いえいえ、全ては神の名のもとに。私は何も後悔していません」


 その言葉に、司祭もまた微笑みを返した。


 神に忠実であることが、彼らにとって最大の誇りであり、すべての行動の指針であるのだ。


 魔族との戦いはまだ終わらないが、2人は共に神の導きの下、次なる戦いへの準備を始めた。


◇◇◇


 ウィルとうさみは、冒険者掃討戦を繰り広げていた。


 1番エリアから100番エリアまでを丹念に練り歩き、冒険者を見つけては完全に有利なポジションから確実にキルを重ねていく。


 彼らの進撃は止まることを知らなかった。


 うさみが報告してくる情報は、まさに啓示と呼ぶにふさわしかった。


 彼女のスポッターとしてのスキルは、もはや神の領域に達しており、その精度はウィルを感嘆させるほどだった。


「うさみさん、すごいね。これほどまでに上達するなんて」とウィルはつぶやきながら、彼女の今後について思案していた。


(スナイパーもかっこいいし、暗殺者としての技術も磨けそうだな……どちらが適しているか悩むところだ)


 ふと自分の好みが入っているのではないかと思い、ウィルは苦笑する。


(いや、あくまでうさみさんに最適な選択肢を提供するだけで、選ぶのは彼女自身であり、そこはしっかり線引しないと……)


『ウィル、彼女が最近『死の照準(デス・エイム)』って呼ばれているの、知ってる?』


 アイが軽快な口調で割り込んでくる。


「そうなのかい?彼女はその呼び名に気分を害していないか?」とウィルが心配そうに尋ねた。


『むしろ、称号がつけられることに喜んでいたわよ』とアイが答える。


「なら、よかったじゃないか。新たな戦力として使えるようになって、俺も嬉しいよ」とウィルは安堵の表情を浮かべた。


 うさみから次の敵の居場所が報告される。


『さっさと殲滅するわよ』


 ウィルは気合を入れ、戦場へと再び向かった。


 スライムワイヤーを使うたびに、フィードバックがアイに送られ、最適化が進められていた。そのおかげで、ウィルのワイヤー操作は神がかり的な精度に達していた。


 瞬く間に戦況を有利にし、ウィルは魔術師を優先して排除していく。ビルを縦横無尽に飛び回り、魔術師に補足されないよう立ち回った。詠唱を始めようとする魔術師は、自分の首が跳ねられていることに気づかないまま詠唱を続けるが、認識した時には既に視界が宙に舞っており、ただ何が起こったのか理解できなかった。


 魔術師を失った冒険者パーティーはバリアを展開することができず、恐怖に怯えて各々逃げ始める。しかし、逃げる方向をうさみに誘導されてしまい、結果的に袋小路へと追い込まれた冒険者たちはウィルの餌食となり、次々に倒されていった。


 90番エリアに到達する頃には、ウィルとうさみのコンビで既に200キルを超えていた。


 このまま順調に終わるかと思った矢先うさみから敵影報告が知らされる。


「敵影確認、距離600メートル。真正面、道のど真ん中を歩行しています。人数は1人。片手剣を2本持っていて、鎧を装着している模様。今までの冒険者とは何か違和感があります」と、うさみさんが報告する。彼女の声には微かに戸惑いが含まれていた。


「うさみさんが感じる違和感……これはただの冒険者ではなく、強敵かもしれないな」と、ウィルは慎重に状況を考察する。


「強襲はやめて、観察しましょう。他の部隊にも警戒するように伝えてください。ひとまず、私とうさみさんで対応します」


「承知しました」


 うさみさんは全体チャットに警告を送り、各部隊に情報を共有した。


「要警戒せよ」という内容が迅速に伝達され、全体マップには各部隊が確認したことを示すスタンプが次々と表示されていく。その中には、ハンター協会で申請され登録された「うさみさんスタンプ」もあり、「了解」という文字とともにうさみさんのシルエットが描かれていた。それを見たウィルは、きっと彼女は喜んでいるんだろうなと心の中で察した。


「うさみさん、敵の呼称はとりあえず『目標X』とし、引き続き偵察をお願いします。もし敵に発見された場合は、すみやかに撤退してください」と、ウィルは慎重に指示を出した。


 ウィルはいつでも助けに行ける位置に移動し、うさみさんが提供している映像をもとに、敵の動向を観察していた。


「道のど真ん中で堂々と歩いている冒険者……こいつは物凄く強いか、物凄く馬鹿のどっちかだな」


『ええ、そうね』とアイも同意し、2人はその奇妙な存在を引き続き監視した。

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