33話 初心者うさみのガチ勢進化論
翌日、ウィルはうさみと一緒に戦闘区域へと足を踏み入れていた。
まだ戦闘経験の少ない彼女だったが、ウィルはうさみのハイディングの才能に驚かされていた。
「すごいよ、うさみさん。ハイディングが得意だって聞いてたけど、こうやって見ると、まるでどこに隠れているか全然わからないよ」
ウィルは心底感心しながら声をかけると、うさみは照れくさそうに笑みを浮かべたが、褒められ慣れていないせいか、少し控えめな口調で返した。
「いえ、そんなことは……まだまだです」
うさみの表情からは、褒められた喜びを隠しきれていないのが目に見えてわかる。
元々、うさみは向上心が強く、ウィルが教える戦闘技術に対しても、次々と質問を投げかけてきた。その真剣な姿勢がウィルにとっても刺激となり、彼女にもっと教えたいという気持ちが湧いてきたのだ。
最初は少し距離を感じていた2人だが、今では自然な会話が交わされるようになり、息の合ったコンビネーションが少しずつ形になってきている。
突然、ウィルのマップに敵影が映った。
「うさみさん、敵の様子を確認してもらえる?」
「了解です」
ウィルはスライムワイヤーでうさみをビルの屋上に引き上げた。うさみはすぐにゴーグルを装着し、慎重に周囲を見渡す。そして、敵を発見した。
「敵影、右方向2時の位置に900メートル。アタッカーが2人、ビルの真下にいます。剣を装備しています」
「了解」
うさみの正確な報告をもとに、ウィルは敵の裏を取るためにスライムワイヤーを使って素早く移動し、アタッカーの背後に回り込んだ。相手はまだ気づいていない。完璧なタイミングでウィルは成形炸裂弾を生成し、狙いを定めた。
敵が後ろを振り向く瞬間、炸裂弾が直撃し、2人のアタッカーの顔面がはじき飛んだ。ウィルは冷静に着地し、次の指示を求めた。
「うさみさん、次の目標は?」
「前方のビルに新たな敵部隊を発見しました。魔術師とリーダーらしき人物が2人。魔術師が魔術を展開しようとしています。魔術の展開規模からかなり強力なものだと推測します」
(広範囲魔術でここら一体を吹き飛ばすつもりか?)
冒険者との戦闘スタイルが、少しずつ変わり始めている。当初、彼らは最小の4人編成でモンスターを倒すかのように、堂々と道の真ん中を歩いていた。さらには互いに攻撃の順番があるかのように、ターン制のRPGのような戦い方をしていた。
ウィルも最初は「魔族狩り」の一環として彼らの戦闘に間接的に関わっていたが、その時は魔族兵士たちの戦い方を深く理解していなかった。しかし、本格的にハンター協会を立ち上げる段階になって、魔族兵士の戦闘スタイルを観察する機会が訪れると、その稚拙さに思わず怒鳴ってしまった。
相手は何度でも復帰できるのに対し、こちらは一度倒されれば終わりだという現実をまったく自覚していない。その無計画な戦術に、ウィルは呆れながら「脳筋どもめ!」と嘆いた。
リリース前にAImonを使い、魔族兵士たちの戦術を徹底的に叩き直した結果、兵士たちは徐々に戦闘スタイルを変化させていった。これに対抗するため、冒険者たちも仕方なく対応策を講じるようになったが、その対応の仕方もやはり脳筋だった。
敵の位置が特定できないにもかかわらず、強力な広範囲魔術で周囲ごと吹き飛ばそうとする大雑把な戦法。ウィルはこれを見て、呆れながらもある種の理解を示すようになっていた。
「脳筋には脳筋で返すのが礼儀か……」
彼はそうつぶやきながら、敵の無謀な広範囲攻撃に対して、同じく強引な力で対抗することを決意した。手に取ったのは雷刃。エネルギーを30%程度チャージし、素早く抜刀した。
次の瞬間、ビルは真っ二つ《まっぷたつ》に切り裂かれ、魔術師とリーダーらしき人物はその障害物ごと消滅した。
「うさみさん、ナイス報告。助かったよ!」
「いえいえ……」
褒められ慣れていないうさみは、にやけた顔を隠しきれない様子だったが、その喜びは明らかだった。謙遜するように言葉を返してはいたが、心の底では彼女も自分の成長を実感しているのだろう。
「ウィルさんの方こそ、すごいです。一撃でビルごと吹き飛ばすなんて……」
「それは、うさみさんの報告が的確だからだよ。そのおかげで、俺も効率的に力を使えているんだ。これからもっと一緒に成長して、高みを目指していこう」
ウィルの言葉に、うさみの瞳は輝きを増し、彼女のやる気が一層強くなっていることを感じる。
彼女は戦闘に魅了され、ガチ勢としての道を歩み始めた。
◇◇◇
戦闘が終わり、2人はハンター協会に戻って金銭の精算を行った。協会のカウンターにいるスタッフがにこやかに対応する。
「うさみ様、本日のお疲れ様です。本日の討伐報酬は60万コルとなります」
「60万コル……」
うさみはその額に驚愕した。
ウィルと一緒に戦闘をこなしただけで、一般人が数ヶ月働いてやっと手に入れる額を、簡単に稼いでしまったのだ。彼女は一瞬、その現実を受け止めきれず、驚きと喜びが入り混じった表情を浮かべる。
「すごい……こんなにもらえるんだ……」
その様子を見て、ウィルが笑いながら声をかけた。
「上達すれば、もっと稼げるようになるよ」
「え、本当ですか? どれくらい……?」
うさみの目は好奇心と期待で輝いていた。彼女はこの新しい世界での成長と、さらなる報酬を得る可能性に興味を示していた。
「そうだな……トップランカー、つまりフラッグシップに昇格すれば、10億は確実だね」
「10億……」
うさみは目を見開き、ウィルの言葉に衝撃を受けた。しかし、彼女の心の中で新たな目標が生まれ、その高みへと登ることができるかもしれない淡い期待に喜びを噛みしめる。
「実は、うさみさんのためにいくつか装備を用意しておいたんだ。しばらく協会に来れないかもしれないから、これを試してみてほしい」
ウィルは、うさみのデバイスに拡張機能をインストールするためのリンクと装備一式をプレゼントした。最新の光学迷彩付きアーマー、オールヴィジョン・ゴーグル、ノイズキャンセリングスニーカー、エコーデコイ音響爆弾を手にしたうさみの目が再び輝く。
「ありがとうございます……こんなによくしていただいて……」
「気にしないで。うさみさんがこんなに意欲的に頑張ってくれることが、俺にとっても嬉しいんだ。お互いに高みを目指して、もっと強くなろう」
ウィルのその言葉に、うさみは深く感謝し、心からの笑顔を見せた。彼女は新しい装備を手にし、さらに成長いける自信を感じていた。
そして、その日から、彼女は戦闘区域に頻繁に姿を現すようになった。
◇◇◇
うさみは、ほとんど寝る間も惜しんで戦闘区域に姿を現し、練習に没頭するようになった。彼女の目標は、ただ敵を補足するだけでなく、自分の装備を完全に使いこなし、技術を極限まで磨き上げることだった。
毎回の戦闘で、うさみは与えられた装備の性能を確認し、AImonのサポートを受けながらその技術をさらに研ぎ澄ませていく。
光学迷彩アーマーを身にまとった彼女は、透明な姿になり戦場を駆け抜ける。視覚や熱感知に頼る敵には、そこにいるはずなのにいないと錯覚させるほどの幻とかしていた。動きは静かで、風のささやきにも似た軽やかさがある。
オールヴィジョン・ゴーグルを装着すれば、戦場は彼女にとって広大な盤上の駒のようなものだ。熱感知、赤外線、暗視モード、さらには敵魔術の展開規模まで、あらゆる情報を視覚化し、瞬時に切り替えることができる。敵がどこに隠れていても、彼女には全てが見えている。ゴーグル越しに見た戦場は、まるで透けて見えるかのようで、敵の動きも戦場の変化も彼女の目から逃れることはない。
さらに、ノイズキャンセリングスニーカーが彼女のステルス能力を強化していた。たとえどんなに速く走っても、足音一つ立てずに敵に接近することができる。これにより、敵の背後に忍び寄り、無防備なところを一撃で仕留めることが可能だ。
そして、彼女のもう一つの秘密兵器「エコーデコイ」を使えば、敵の耳には幻の音が聞こえ、指定した地点から音を発生させて敵を混乱させ、注意をそらすことができる。これにより、敵は自分が何に攻撃されているのかすら分からなくなり、ただ混乱と恐怖の中で振り回されるのだ。
日々、うさみの動きは研ぎ澄まされ、彼女の技術は限界を超えて向上していった。その結果、戦場において彼女の異名は恐れられるようになった。冒険者たちからは「死の照準」と呼ばれるようになり、その名が広まるとともに、彼女が現れた戦場では冒険者たちが次々と撃破されるようになった。
うさみがスポッターとして戦場に立つと、その区域にいる冒険者たちは彼女の監視の網から逃れることはできない。彼女の目は戦場全体を見渡し、敵の位置情報や動きを瞬時に把握する。そして、その情報を味方に共有することで、魔族兵士、他ハンターたちは圧倒的な情報優位を築き、確実に敵を倒していった。敵の攻撃タイミングや魔術の展開規模などを見抜き、まるで未来を見通しているかのように味方を誘導していく。
こうした活躍が続くうちに、冒険者たちの間でも「彼女に見張られたら死神が表れたようなものだ」という噂が広まり、少しでも見張られていると感じれば指揮官の指示も虚しくパーティーが瓦解していった。戦場に立つ彼女は、多くのハンターや最前線兵士から憧れの存在として崇拝されるようになった。
◇◇◇
ある日、ウィルは久しぶりにうさみと会うため、ハンター協会で待ち合わせをしていた。
ところが、時間になってもうさみは現れない。
他のハンターたちがウィルの前を通り過ぎていき、ただ1人で待っているようにしか見えなかったが、ウィルには別の光景が見えていた。
「うさみさん、お久しぶり」とウィルが声をかけると、彼のすぐそばから返事が返ってきた。
「お久しぶりです、ウィルさん」
周囲には、ウィルが誰もいない空間に向かって話しているようにしか見えなかったが、ウィルには、うさみが目の前にいることを感知できていたのである。
「だいぶ装備を使いこなせるようになったみたいだね」とウィルが感心して言うと、うさみさんの声には自信が満ち溢れていた。
「ウィルさんのおかげです。装備を使いこなせるようになり、戦場でも役に立てるようになりました」
その言葉には、かつて感じていた不安や迷いが見られなかった。
うさみは確実に成長していた。初心者だった頃の姿はもはや過去のもので、今や彼女は自信を持って戦場に立つまでに進化していた。ウィルは彼女の成長を感じながら、次のステップに進むための提案をすることにした。
「実は、冒険者の数が減ってきていて、もう少しでこのエリアを完全に掌握できそうなんだ」
「そうなんですか?」と、うさみが興味を示す。
「うん。だから、次のステップとして……戦闘区域に残っている冒険者を掃討してみない?」
ウィルの提案に、うさみは驚いたが、その表情は次第に興奮と喜びに変わっていった。
ウィルに自分の力を示せる機会が訪れたことはチャンスだと捉えその提案を受けることにした。
「やります!」
その一言を聞いたウィルは、満足げに微笑んだ。
「よし、それじゃあ、いくぞ」とウィルは力強く言った。
2人は視線を交わし合い、共に新たな目標に向けて動き出す準備を整えた。冒険者掃討作戦は、静かに、しかし着実に進行し始めた。
うさみとウィルのコンビは、これまで以上に強力で、彼らの前には何も障害はないかのように思われた。




