30話 やっぱり戦闘は怖いよ~
砲撃が命中し、辺りは爆発の轟音と衝撃で震え、煙と砂塵が視界を覆う。
うさみはビルの屋上からその光景を見つめ、「これで冒険者たちはやられたかな?」と心の中でつぶやき、ゴーグル越しに煙の向こうを凝視した。
しかし、徐々に煙が晴れると、思わず息を呑む光景が広がっていた。冒険者たちは散り散りに回避しており、そのほとんどが無傷だ。
「冒険者って…あんなに強いの?」
驚きながら、うさみはAImonに問いかけた。
「冒険者たちはね、魔族狩りを専門にしている集団で、非常に優れた戦闘技術を持っているの。さらに、特別な魔術――死者蘇生も使えるわ」
うさみは驚愕し、さらに尋ねる。
「死者蘇生?」
「魔術による死者蘇生は確認されていないけれど、魔王軍の記録では、倒したはずの冒険者が再び戦場に現れた例があるの」
「じゃあ、倒すのはほとんど無理なんじゃ…?」
AImonは首を横に振り、少し笑みを浮かべながら答える。
「死者蘇生には制約があるみたい。一度倒された冒険者は、最低でも3ヶ月間は現れないし、二度と戻らない者もいる」
「つまり、倒せる手段があるってこと?」
AImonは優しい声でうさみを元気づけた。
「そうよ。魔族側が有利になるように、うさみにも頑張ってもらわないとね」
うさみはその言葉に勇気づけられた。しばらく観察していると、冒険者の進行が止まり、ホッと胸をなでおろす。
その時、AImonからメッセージ音が響く。
「冒険者の進行を遅らせたことを確認。10ポイントが加算されました!」
「え、ポイント?それって何?」
AImonは笑顔で答える。
「ポイントがたまると、報酬とは別にお金がもらえるわ。冒険者の進行を遅らせたことで、追加の報酬よ」
「観察してるだけでお金がもらえるなんて…この仕事、かなり稼げるじゃん!」
うさみは思わず胸の中で叫び、これまでの鬱屈した生活からは想像できないような高揚感に包まれていた。しかし、その高揚も束の間、AImonが突然、緊迫した声で知らせてきた。
「うさみ、気をつけて!冒険者がこちらに移動し始めたわ。まだ気づかれていないけれど、早めに退避して!」
現実に引き戻され、うさみは慎重に階下まで降り、瓦礫の間を縫うように逃げ始める。鼓動は早まり、冷や汗が浮かぶ中、一歩一歩慎重に進み、なんとか62番エリアまでたどり着く。
そこには瓦礫が積み重なり、自然に小さな傾斜が形成されていた。
うさみはその傾斜の裏に身を潜め、息をひそめて周囲を窺った。
少し時間が経つと、冒険者のパーティが、四方を警戒しながら現れる。
「お前ら、警戒を怠るな。探知魔術に反応があり次第、すぐに報告しろ!防御魔術師はバリア展開の用意をしとけ!攻撃魔術師もまずは防御優先だ!」
指揮官らしき人物の厳しい声が耳に届く。
「防御魔術師、攻撃魔術師、近接アタッカー、指揮官が揃っている。いわゆるカメ戦法を使うパーティみたいね」とAImonが冷静に説明する。
「カメ戦法って何?」
「偵察役を防御魔術師に変えて、全体を堅い守りで覆う戦法よ。まるでカメの甲羅みたいにね」
「でもさっきは回避してたのに、今は守りを固めてるのはどうして?」
「ポータルが設置されているエリアで攻撃されたからよ。魔族がいるとわかれば、冒険者も温存していた魔力を解放し、こちらの動きを探っているのかもね」
「なるほど…」
冒険者たちの変化に驚きつつも、うさみは納得する。そのとき、AImonが耳打ちするように告げた。
「うさみ、応援が来たわ」
目を向けると、ビルの上からハンターたちが強襲を仕掛けようとしているのが見えた。
息を呑み、戦闘が始まる緊迫した空気の中で、うさみは安堵しながら戦況を見守る。
次の瞬間、戦場は激しい轟音と火花に包まれた。
◇◇◇
「アタッカー4名現着。相手の能力値を確認する」ハンターたちは冷静に状況を報告しながら、戦闘の準備を進める。
ビルの上からシューターが冒険者に狙いを定めて発砲した。
弾丸が冒険者たちへと向かって飛び、同時にアタッカー2名が刀を抜いて跳躍し、冒険者に襲いかかる。
「神の名のもとに、魔術を行使するホーリーバリア!」
防御魔術師と攻撃魔術師が即座に二重のバリアを展開する。
弾丸はバリアによって別方向へ弾き飛ばされるが、ビルの上から加速をつけたアタッカーたちが、寸分の狂いもなくバリアに一撃を叩き込む。二人の刀が同時にバリアを叩くように打ち、バリアは瞬く間に砕け散った。
「スナイパー、やれ!」
銃弾が冒険者に向かって放たれるやいなや、爆発音が戦場に響き、砂煙が舞い上がった。その迫力にうさみは圧倒され、思わず目を見開く。戦闘の荒々しさとその破壊力が目の前に迫り、彼女の胸には恐怖と驚きが入り混じる。
「うさみ、今のうちに移動しましょう。次のポイントへ進んで」
うさみはAImonに促され、戦場の恐怖を振り払おうと心に言い聞かせながら、慎重に瓦礫を避けて進んでいった。
響き渡る衝撃音と金属の擦れ合う音が遠のいていく中で、彼女は必死に歩みを進めていく。
戦闘音が次第に聞こえなくなると、うさみはその静けさにかえって焦りが募り、AImonに問いかける。
「戦闘はどうなったの?」
「指揮官が金等級の冒険者だと確認されたわ」とAImonが冷静に伝える。
その言葉に、うさみの心臓はさらに速く鼓動した。
「じゃあ…あのハンターたちは……」
うさみが言葉を詰まらせると、AImonは覚悟を決めてと言わんばかりに強引なお願いを迫った。
「うさみ、厳しい戦いになるかもしれないわ。他のハンターがこのパーティーに遭遇するのを防ぐために、引き続き敵の状況を把握し続けてほしいの。今、彼らを見失うと他のハンターにまで危険が及ぶかもしれない。より強き者を応援として呼んでいるから…」
「だから…引き続き偵察してほしいの……」
うさみはAImonの言葉を理解しつつも、心の整理が追いつかない。
「私は初心者だし、どうすればいいの…?」
不安が彼女の声ににじみ出る。足の震えに気づき、なんとか勇気を奮い立たせようとするが、恐怖は簡単に消えるものではない。
「うさみ、あなたの気持ちはわかるわ。でも、ここで諦めたら、みんなが命を懸けて集めた情報が無駄になるの。私がついているから、一緒に頑張ろう」
AImonの言葉に、うさみは黙り込む。
彼女は必死に考えていた。心の中では逃げたいと思っていても、ここで逃げたら、何のために自分がハンターになったのか分からなくなる。何かを成し遂げたい。このまま終わりたくないからハンターになったのではないかと原点に立ち戻り結論を出した。
「わかった。やってみるよ」と小さく呟いたうさみは、気持ちを落ち着かせ、慎重に次の行動に移った。敵の動きを警戒しながら、瓦礫を活用して静かに進んでいく。
彼女の体は、驚くほど軽く感じられた。これまでに経験したことのない緊張感が彼女を包み込み、周囲の目を避けるという緊迫感が、まるで忍者になったような錯覚を引き起こす。
壊れた建物や散乱した瓦礫、そしてわずかな物陰を利用し、うさみは冒険者を観測しつつ、一定の距離を保ちながら進んでいった。戦場の恐怖を一瞬だけ忘れるほど、尾行がうまくいっている感覚が彼女に新しい自信を与えた。
(私はまるで影…)
潜在的に得意と感じていることが形として表れ活用できている喜びが、緊張より上回ることで油断へと繋がり怠慢へと転がり落ちていく。
突然、AImonの鋭い声がうさみの耳に響いた。
「うさみ、気をつけて! 金等級の冒険者がこっちを見てる!」
その瞬間、うさみは息を呑んだ。視線を上げると、金等級の冒険者の鋭い眼がまっすぐに彼女を捉えている。
(しまった…!)
恐怖が一気に全身を駆け抜ける。
本能が囁いたーー捕食者に見つかってしまったのだ、と。
(餌食にされるかもしれない!)
次の瞬間、うさみは反射的に飛び出し、全力でその場を逃げ出した。
わけの分からぬ叫び声を上げながら、うさみは必死に走る。
「攻撃魔術師…やれ!」
敵指揮官の無慈悲な指示に従い、攻撃魔術師がファイアボールを放ってきた。熱が背後に迫り、うさみは必死に逃げ続ける。ファイアボールがビルの壁に着弾し、爆発音と共に破片がうさみの頭上に降り注ぐ。彼女は避けようとしたが、間に合わず、瓦礫の下に埋もれてしまった。
「うっ…!」うさみは激しい痛みに襲われ、その場で動けなくなった。
ぼんやりとする視界の中で、冒険者たちの足音が近づいてくるのが聞こえる。彼らが瓦礫を捜索し、うさみが確実に死んだかどうかを確認しようとしているのだ。
「お願い、見つからないで…」
うさみは心の中で必死に祈る。だが、冒険者たちの影がすぐそばまで迫っていた。




