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魔族IT革命  作者: 白樹春來
魔京都 会社設立編
29/68

29話 新人ハンター うさみ

 うさみは16歳の若いうさぎ種族の女性だ。


 うさぎ種族では16歳が成人年齢であり、彼女もついに社会に出ることとなった。しかし、その道のりは決して簡単なものではない。気が弱く、内気な性格が災いし、何度も面接に落ち、就職先を見つけることができず、今では放浪の日々を送っている。


 そんな中、うさみに転機が訪れた。


 ウィル&マッチが「モデルエッグ」プロジェクトの運用を開始したことを発表したのだ。このプロジェクトでは、ハンターとして登録すれば、戦闘に必要な装備が無料で支給されるらしい。さらに、ハンターとして活動することで得られる報酬は歩合制だが、下位ランクである「ローエンド」から「エントリーハイ」までには固定給が設定されており、月に30万コルが支給されるのだ。


 一般的な魔族の年収の中央値が240万コルであることを考えると、ハンターになることは生活を立て直す絶好のチャンスであるとうさみは感じた。彼女はこれまでの人生で何の取り柄も見つけられず、不器用でどこにも雇ってもらえなかったことに悩んでいた。村からもらった成人祝い金も底をつき、路上生活に追い込まれ、最悪の場合は身売りまで考えるほど追い詰められていた。


 しかし、「モデルエッグ」プロジェクトを知ったうさみは、「このままでは終わりたくない。自分にもまだできることがあるかもしれない」と強く感じ、一発逆転を狙う決意を固めた。


 うさみはハンター協会を訪れ、「モデルエッグ」プロジェクトのプレイヤーとしての登録を申し出た。初めての挑戦に不安を感じつつ、案内係に「人間と戦うなんて、自分にできるのでしょうか?」と尋ねた。すると、案内係は優しい笑顔で「大丈夫ですよ。まずはどのような適性があるのか、戦うための基本的な理解をチュートリアルで学び、その後でプレイヤー登録を進めていきます」と説明してくれた。


 彼女は準備室に案内され、新しいデバイスを腕に装着するように指示された。そのデバイスはゴムバンドのような形をしており、そこに「モデルエッグ」というアプリがインストール済みであった。


 アプリを起動すると、画面にはポップで可愛らしい子鬼の女性キャラクター「AImon(あいもん)」が現れた。AImonは親しみやすい声でうさみに話しかけ、これから進むべき道を示してくれるガイド役を務めるようだ。


 チュートリアルの案内が始まった。


 まずは体力テストだ。うさみの周囲に仮想空間が展開され、体力測定のためのプログラムが次々と実行される。走力やジャンプ力の測定が終わると、次は性格診断テストへと進んだ。うさみは自分が得意なことや苦手なことを、一つ一つAImonに話していく。AImonは彼女の反応を優しく受け止め、丁寧に記録しているようだった。


 測定が終了し、結果が表示された。うさみは走力とジャンプ力に優れていることが判明し、AImonはうさみさんの性格を考慮して「サポーター」としての役割を提案してきた。


「サポーターには様々な役割がありますが、うさみには『スポッター』が最適でしょう」とAImonは説明を始めた。


「スポッターは戦場での目となり、敵の動きを監視し、チームに正確な情報を伝える重要な役割です。敵の動きを見逃さず、迅速かつ的確に報告することで、戦闘の勝敗に大きく影響を与えます」とAImonは続けた。


 うさみはその説明を聞き、初めは少し戸惑ったものの、次第に自分の能力を活かせるこの役割に興味が湧いてきた。自分でも思っていなかった形で能力が発揮できるかもしれないという期待感が生まれる。


 AImonはさらに詳しく説明を加えた。「実際の戦闘は、最前線基地から少し奥へ進んだ戦闘区域で行われます。したがって、その地形データをインストールし、しっかり把握しておくことが大事です。地形に合わせた動きができるかどうかで、戦況は大きく変わりますからね」


 うさみは真剣な表情でその説明を聞き、すぐに準備に取り掛かった。戦場での状況に適切に対応するためには、地形を理解し、効率的に動けることが求められているのだと強く感じた。


 彼女は仮想空間でモデリングされた戦闘場所を歩き回り、まるで実際にその場所にいるかのように周囲を確認しながら、戦場での動き方を体で覚えていった。


 うさみは慎重に足を運び、各ポイントの位置や隠れられる場所を頭に入れながら、どこが敵に見つかりにくいかを感覚として体で覚える。


「こうやって体で覚えることで、実際の戦闘でも素早く動けるようになるんだな…」うさみは地形を自分の中にしっかりと叩き込むことで、少しずつ自信を持ち始めていた。


 さらに、うさみはハンターとしての基本的なスキルを学ぶ機会も与えられた。匍匐前進(ほふくぜんしん)のやり方を初めて覚え、スポッターとしての正しい位置取りや護身用の拳銃射撃練習も行った。


 彼女は初めての経験に戸惑いながらも、思いのほか高い学習速度でチュートリアルをこなしていく。すべての課程を予定よりも早く終了し、AImonに声をかけられる。


「お疲れさま!気分は大丈夫?」


 うさみは、むしろ高揚感を感じていた。


「はい、大丈夫です。これからが楽しみです」と微笑んで答える。


「それでは、次に契約の確認を行います」とAImonが真剣な表情で告げた。


「うさみ、これからの戦闘には命の危険が伴うかもしれません。それでもハンターとして戦う決意はありますか?」


 うさみは一瞬考え込んだ。


 村での自分は、存在感がなく、何もかも他人任せで、自分では何もできない陰気な性格だった。成人したものの、自立できないまま崖っぷちに立たされている。だが、このまま野垂れ死ぬのは嫌だ。せめて、自分の生きた証を残したい。そう強く思った。


「はい、私、ハンターになります」とうさみは迷いのない目でAImonに答えた。


「分かりました。では、必要な装備を準備しましたので、受付で受け取ってください」とAImonは指示を出した。


 うさみはその言葉に従い受付に向かった。すでに準備されていた装備一式を、受付スタッフが手渡してくれる。受け取った装備には、軽装アーマー、軍用靴、拳銃、消耗品一式、スポッター用ゴーグルが含まれていた。


 その後、彼女は更衣室に入り、装備を着用する。軽装アーマーの黒い生地は彼女の小柄な体にぴったりとフィットし、動きやすく設計されていることがわかった。


 鏡に映る自分を見つめたとき、うさみは大きな赤い瞳と、肩にかかるふんわりとした明るい茶色のボブカットが装備と相まって新鮮に見えた。いつもは少しおどおどとした瞳も、装備に身を包んだことでわずかに引き締まり、耳がピンと立っているのが目に入った。


「これが…私?」


 アーマーは思ったよりも軽く、動きやすい。長い耳が装備に収まらないままピンと伸びている様子が、彼女の緊張と新たな決意を象徴しているようだった。鏡に映る自分は、これまでの頼りない自分とは少し違って見えた。うさみは鏡の前で小さく微笑んだ。


「結構、似合ってるかも…」


 準備が整ったうさみは、AImonの案内に従って、最前線基地までポータルで移動することになった。ポータルに手を触れると、一瞬で別の場所に移動し、緊張が走る。基地に到着した彼女は、これから始まる初めての戦闘に向け、心臓がドキドキと高鳴るのを感じていた。


「大丈夫。私がついてるから」とAImonが優しく声をかける。うさみはその言葉に少し勇気をもらい、前に進む決意を固めた。彼女は「モデルエッグ」内のマッチングシステムに参加し、しばらく待っていると、一人の指揮官が現れた。


「はじめまして、ビリと言います。魔王軍で指揮官をしており、この度モデルエッグプロジェクトの指揮系統の支援に着任しています。今回はチームにサポーターが不足しているため、お呼びしました」とビリは言い、うさみに軽く挨拶した。


「戦闘区域は61番エリアとなります。詳細はAImonとやりとりをしてください。チームとの連絡ツールは、モデルエッグのアプリ内でチャットが可能です。AImonの指示に従って行動を開始してください」


 ビリは淡々とした声で説明を終えた。


 うさみはその言葉を聞きながらも、まだ初めての体験に戸惑いが隠せない。緊張から無意識に拳をぎゅっと握りしめていた。ビリは特に感情を交えず、次の仕事に向けて足早にその場を去っていく。


 初めての戦闘体験に対する不安と恐怖がうさみの胸に押し寄せる。AImonが彼女の様子に気づき、優しい声で励ました。


「私が一緒にいるから大丈夫よ、うさみ。焦らないで、ゆっくり進んでいこう」


 うさみはAImonの言葉に少し安心し、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。


「うん、ありがとう。頑張ってみるね」


 初めての戦闘に不安を抱えながらも、少しずつ前に進む気持ちが芽生えていた。


 61番エリアを示すポータルに向かい、意を決して手を触れると瞬時に見知らぬ光景に遷移した。


 目の前に広がるのは荒廃したビルと瓦礫が散らばる冷たい戦場だった。肌に感じる戦場の冷たさが、彼女の緊張をさらに高める。


 その瞬間、AImonから指示が届く。


「まずは、あのビルまで移動してみましょう。しゃがんで進むと敵に見つかりにくいから、慎重にね」


 うさみはAImonの指示に従い、周囲に注意を払いながらしゃがみつつ、一歩一歩ビルへと進んでいった。荒れ果てたビルの入り口に到着すると、壊れたドアをこじ開けて中に足を踏み入れる。そこには、かつての生活の痕跡すら消えた廃墟が広がっていた。


「すごい…これが廃墟のビルなんだ…」


 うさみは呟くようにその光景に見入るが、すぐにAImonの冷静な声が響く。


「うさみ、あまり周囲を見渡しすぎないでね。今は慎重に動く時よ」


 AImonのアドバイスにうさみはハッとし、再び気を引き締めて周囲を警戒しながら進んでいく。


 内部は所々崩壊しており、壊れかけた階段を見つけて慎重に足を運ぶ。


 階段の一部は崩れ、床も不安定だが、うさみは慎重に進んでいった。


 ようやく屋上にたどり着くと、彼女は息を整えて身を潜めた。心臓はまだ激しく鼓動しているが、AImonの冷静な声が彼女の不安を少しずつ和らげる。


「冒険者(魔族狩り)が60番から65番エリアに侵入してきているの。彼ら全容はまだ把握できていないけれど、銀等級の冒険者が確認されているわ。うさみの役割は、誰にも見つからずに敵の動きを監視して、味方にその情報を伝えることよ。自信を持って、うさみならできるから」


 AImonの励ましに、うさみは少しだけ勇気を取り戻し、ゴーグルを装着して敵の動きを観察し始めた。ゴーグル越しに鮮明に映し出される敵の姿に、胸が高鳴る。手のひらに汗がにじみ、不安が頭をよぎるが、なんとか気持ちを落ち着かせようとする。


「大丈夫かな…私、見つかってないよね?」


 うさみが不安げに呟くと、AImonがすぐに応じた。


「大丈夫、うさみはまだ見つかっていないわ。冷静に、息をひそめて、敵の動きをじっくり観察して」


 その言葉にほっとしたうさみは、再び集中を取り戻し、息を整えながら敵の様子を注視する。ゴーグルを通じて映し出される視界は鮮明で、敵の動きをしっかりと捉えられていた。


 しばらくすると、遠くから風を切る音が聞こえ始めた。


「何かが…飛んでくる?」


 その音に反応して周囲を見渡すうさみ。飛来してきたものが稲荷地区の最前線基地から発射された砲弾だと気づくと、目の前にいる冒険者に着弾し、激しい爆発音が響き渡った。煙が巻き上がり、うさみの目の前で戦闘の一幕が広がっていく。


「すごい…戦場って、こんな風なんだ…」


 戦闘の迫力に心を奪われつつも、うさみは自分の観察がその一端を担っていることを実感し始める。


「うさみのおかげよ。あなたの観察が役に立っているわ!」


 AImonの声が響き、うさみの心にじわじわと達成感が広がっていく。


 プレイヤー専用の戦闘画面では他のチームメンバーから「ナイス!」というスタンプが次々と送られてきた。


「私でも…役に立てるんだ」


 初めて感じる自信と嬉しさに、うさみの心は温かさに包まれる。これまでの不安や恐怖は次第に薄れ、彼女は自分の役割を果たせた喜びをかみしめていた。戦場の一員として、確かな手応えを感じた瞬間であった。

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