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魔族IT革命  作者: 白樹春來
魔京都 会社設立編
27/68

27話 お見舞い

 ウィルは、アカヤが復帰したと聞きつけ、彼が入院している病院へお見舞いに向かった。


 病室のドアを開けると、ベッドに横たわるアカヤがウィルを迎える。少し痩せた様子はあるものの、表情には生気が戻っていた。


「よう、復活したんだな」


 ウィルが微笑んで声をかけると、アカヤも微笑み返した。


「どうにかね。治療のおかげで、体は元に戻ったよ。ただ、完全には直しきれなかった部分もあるんだ。そこは、培養して作った組織を移植する形で何とかしたけどね」


「つまり、サイボーグの世界に片足突っ込んだってことか」と冗談交じりに言うウィルに、アカヤは首をかしげた。


「サイボーグ? それ何?」


「いや、気にするな。とにかく、無事でよかった」


 ウィルは笑みを浮かべ、アカヤの復帰を祝福した。


 2人は軽い雑談を交わしながら、しばし穏やかな時間を過ごしていた。しかし、会話の合間に一瞬の静寂が訪れたそのとき、アカヤがふと真剣な表情になり、口を開く。


「ウィル、君には本当に感謝している。命を救ってくれた恩を返したい。戦線復帰してもいいか?」


 ウィルはその申し出を快く受け入れる。


「もちろんだよ。けど、ただ戻るだけじゃつまらないだろ? せっかくだから、君の実力を見せてほしい。そして、さらに強くなるきっかけを与えたい」と提案する。


 アカヤはその言葉に目を輝かせ、「ずっと動けなくてうずうずしてたんだ。本気で打ち合えるのを楽しみにしていた」と嬉しそうに応えた。


 ウィルはアカヤを病院の敷地にある広場へと案内した。ウィル&マッチが傘下に持つ病院であるため、関係者以外の立ち入りはなく、静かで広々とした場所だった。


 アカヤに模造刀を渡し、彼は軽く準備運動を始める。


 鬼斬り本流の免許皆伝を持つアカヤの動きからは、舞と肩を並べるほどの技量が感じられた。


「OK、準備運動終わった」とアカヤが言うと、ウィルは彼を見つめ、「リハビリ中なんだから、無理はするなよ」と念押しする。


 2人は距離を取り、互いに間合いを図る。


 ウィルは小さく息を吐き、「アイ、回避優先で解析しろ」と指示を飛ばした。


『はいよ~』とアイの軽快な声が返ってきた瞬間、2人の対決が始まった。


◇◇◇


 ウィルとアカヤは向かい合い、緊張感が漂う中、静かにその時を待っていた。アカヤの目は鋭く、まるで相手の一挙手一投足をすべて見通すかのような鋭さがあった。


 ウィルはその視線に一瞬、息を呑む。


 そして、2人は同時に動き出した。


 アカヤの剣術は、一撃一撃が舞の剣さばきよりもさらに研ぎ澄まされており、技術としての精度は間違いなく上だった。


 ウィルはすぐに感じ取った。


 アカヤは舞のような魔法の力を持たない代わりに、純粋な剣の腕を極限まで磨き上げてきたのだ、と。


 2人が剣を交えるたび、ウィルはアカヤが積み重ねてきた努力を垣間見ることができた。復帰したばかりでありながら、ウィルはアカヤの剣術に驚きを隠せなかった。彼の攻撃は鋭く、的確で、ウィルの予測を超えるスピードで繰り出される。


「本調子じゃないのにこれか…」ウィルは心の中で舌を巻いた。


 激しい打ち合いが続く中、ウィルはもうひとつのアカヤの強さに気づいた。それは、相手の動きを予測し、それに素早く対応する応用力だった。


 ウィルが攻撃のリズムを変えたり、フェイントをかけても、アカヤは冷静に対処し、常に的確に先手を打ち続けていた。


「剣の腕だけじゃなく…観察力と応用力も凄まじいな」


 打ち合いを続けるうちに、ウィルはアカヤの今後の成長方針を決めた。


「この男はただの剣士じゃない。さらに高度な訓練を積むことで、もっと強力な存在に成り得る」と確信する。


 しばらくして、打ち合いが終わり、2人は息を整えながら互いに礼を交わし、称え合った。


 ウィルはアカヤに向かって笑みを浮かべながら声をかける。


「想像以上だな、お前…」


 アカヤは少し照れくさそうに肩をすくめて応えた。


「まぁね…人生のすべてを剣に費やしてきたからさ。強くなかったら、この世に未練なんて持たなかったよ」


 ウィルはその言葉に静かに頷き、改めてアカヤの覚悟と強さに敬意を抱いた。


 アカヤが稲荷地区の最前線で戦闘した時、どれほど粗末な装備を渡されていたのか――ウィルはそのことを思わず考え込んだ。だが、適切な装備と成長方針があれば、今後アカヤが敗れる可能性は極めて低いだろうと確信する。


 アカヤは病室へ戻り、ウィルはアイとアカヤの成長方針について話し合いを始めた。


「アカヤの強みは優れた観察力と、相手の動きに即座に対応できる反射神経だな」とウィルは言う。


 特に、ウィルの剣技のパターンを覚え、次の動きを先読みする能力には、彼も目を見張るものがあった。


「TASの考え方を剣術に応用してみようと思うんだ」とウィルはアイに提案する。


「TAS?」とアイが問い返す。


「Tool-Assisted Speedrunのことだ。ゲームの攻略で使われる手法で、完璧なタイミングで最適な行動を取ることで、最速で目的を達成するんだよ。要するに、予測された動きに対して、理論上もっとも速く、無駄のない対応をするってことだ」


 アイは即座に理解を示した。


『なるほどね、剣技にそれを取り入れると、相手の動きを完全に先読みできるってわけだ』


「そう。アカヤならそれができる。彼の観察力と反射神経は、そのままTASのような剣術に適応できるはずだ」


 後日、ウィルはその提案をアカヤにも伝えた。


 アカヤはその話に目を輝かせ、「もっと強くなれるなら全力で挑戦したい」と意気込む。


 こうして、ウィルとアカヤの特訓が本格的に始まった。


◇◇◇


 ウィルは、アカヤのために最適な武装を作成することを決心した。彼の目標は、アカヤに雷刃に似た刀を作成してあげることだったが、いくつかの課題が立ちはだかっていた。


 まず最初の課題は、アカヤが電気を扱えないということだった。これは彼の種族特性によるもので、いくら技術を駆使しても克服できない制約だ。そのため、電力をどこから補うか、仕様の段階からしっかりと考える必要があった。


 さらに、雷刃の特性に偏りすぎると汎用性に欠けるという問題もあった。雷刃はエネルギー源が常にあるという前提で作られているが、戦場では必ずしもそうした条件が整っているとは限らない。もし周囲に電子を吸収する余地がない場合、雷刃の性能は大幅に低下するだろう。


 その一方で、アカヤの強みは、剣術の卓越した腕前と優れた観察眼、そして相手の動きを予測して対応する能力だ。ウィルはこれらの長所を最大限に活かせる武器を作りたいと考えていた。アカヤにふさわしい武器とは、単なる雷刃の模倣ではなく、彼の持ち味を引き出せる特別なものでなければならない。


 ウィルは、この課題についてアイと話し合いながら、どうすればよいか悩んでいたが、ある時、ふとアイデアを思い出した。


「そういえば、前世でUSBキラー攻撃で自分のPCを壊したことがあったな……」


 それは、ウィルがニート生活を謳歌していた時期に、ガジェットを使って様々な実験をしていた中で行ったものだった。


 USBキラー攻撃とは、見た目は普通のUSBメモリのようなデバイスを使って、コンピュータや電子機器を物理的に破壊する攻撃方法だ。これはソフトウェアやデータに対する攻撃ではなく、ハードウェア自体にダメージを与える特殊な手法だった。


 その経験を思い出し、ウィルはアイに説明を始めた。


「つまり、刀の柄巻つかまきにあるコンデンサをカートリッジ式にして、交換できるような構造を作ればいいんだ。刀が対象に当たった瞬間に高電圧を送る仕組みにすれば、アカヤが電気を扱えなくても、まるで鬼切一族の力を持つように振る舞えるんじゃないか?」


 アイはその提案に興味を示し、さらに話し合いが進んでいく。


 また、アカヤの観察眼と予測能力を活かすために、ウィルは現在開発中の代替AIに目をつけた。そのAIは、TAS(Tool-Assisted Speedrun)技術を応用して、アカヤが予測する剣戟の先をリアルタイムで示すサポートができるのではないかと考えた。


「この仕様をマッチに送って、実装をお願いしよう」とウィルは決断した。


 こうして、アカヤのための新しい刀の設計は、ウィルの創意工夫によって着々と進んでいった。


◇◇◇


 本日も特訓のため、ウィルはいつものようにアカヤに会いに行った。アカヤは既に体調を完全に取り戻し、剣術のキレも以前より一層鋭くなっていた。彼の動きは、より洗練されており、まさに剣の達人としての凄みが増していた。


 ウィルはアカヤの剣術を観察しながら、自身もそれに合わせて動きを最適化していく。そして、アカヤに予測させるため、変速的に剣筋を変えたり、突然攻撃のリズムを変えてみたりしてアカヤを惑わせようと試みる。


 しかし、アカヤもさすがの実力者だった。


 数手だけでウィルの剣筋を読み取り、すぐにそれに対応する形で剣筋を変えていく。2人の剣戟は、まるで互いに学習し合うマシンのように、打ち合うたびに最善の一手を打ち続けていた。


 特訓が終わると、ウィルはアカヤに新しい刀を手渡す。


「お前のために作った刀だ。これを使いこなせば、戦闘区域でも十分に戦えるだろう」と、ウィルは自信を持って言った。


 アカヤはその言葉に笑みを浮かべ、手渡された新しい刀をじっと見つめる。


「ウィル……ありがとう」


 アカヤは心から感謝し、刀剣を大切に握りしめた。


 この刀は鬼切一族の技を模したものだったが、その仕組みは異なる。アカヤ自身の力を必要とせず、刀の柄巻にセットするバッテリーを交換することで、高電圧の攻撃を繰り出す設計だ。バッテリーを交換する限り、何度でも使用できるため、戦闘における持続力と瞬発力を兼ね備えている。


 ウィルは刀を手渡した後、さらに付け加えた。


「それと、TAS(Tool-Assisted Speedrun)の手法を代替AIに学習させてある。お前との特訓データを使って、動きを予測し、サポートしてくれるはずだ。これが使いこなせれば、戦闘もずいぶん楽になると思うよ」


 アカヤは感謝の気持ちを言葉にするが、それ以上に恩返しができないことに対して胸が苦しかった。


「ウィル、何か願いとか欲しいものはないの? 君には感謝してるし、何かお返しをしないと気が済まないんだ」


 ウィルは手を顎に置き、少し考え込むようにして答える。


「随分、唐突だな。特に欲しいものは無いけど……」


「なんでもいいんだ。君には感謝してるし、何かお返しをしないと気が済まないよ」と、アカヤは真剣な表情で続けた。


 ウィルは少し考えた後、アカヤにお願いする。


「そうだな……アカヤに願うことがあるとすれば、マッチを助けてほしい。俺は働くのがあまり好きじゃないから、その分お前が頑張ってくれればそれでいい」


 ウィルの願いにアカヤは一瞬驚いたが、すぐに納得したように頷いた。


「そうか……君はマッチを大事に思っているんだね」


 ウィルは笑いながら答える。


「ああ、それもあるけど、俺自身が働くのが苦手だからな」


 アカヤは微笑んで、「よし、君の願いを全力で叶えるよ」と答えた。


 2人の会話は和やかに続き、気がつけば夕暮れの時間が訪れていた。

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