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魔族IT革命  作者: 白樹春來
魔京都 会社設立編
26/68

26話 ハンター協会の設立

 ウィルは、鬼切家との協力体制を築きつつ、新たな会社作りに奔走していた。


 彼の構想は「ハンター協会」の設立、つまり、魔族たちをより大きな枠組みで支援する仕組みを作ることだった。


 その第一歩として、新会社「モデルエッグ」の設立を決意する。この会社を成功させるには、優れた人材が必要だった。


 ウィルは、鬼切家と鬼斬家から人員を募集し、彼らにゼロからビジネスモデルを学ばせる計画を立てた。これは単なる労働力の確保ではなく、地位や役職に関係なく、成長できる環境を提供することを意図していた。


 ウィルにとって最も重要だったのは、「コンセプト」だ。


 コンセプトとは、会社の存在意義や方向性を示すもので、これが定まらなければ企業は迷走する危険がある。一方、明確なコンセプトがあれば、全員が同じ目標に向かって努力でき、取引先や顧客にもビジョンが伝わる。


 ウィルは、会社の「魂」とも言えるこのコンセプトに「支援」をかかげた。


 その「支援」には、魔王軍の負担軽減や戦闘力の向上、新人の育成支援など、幅広い意味が込められていた。特に、自社デバイスを活用した効率的な訓練や、戦闘技術の習得を短縮する方法に力を入れていた。これにより、育成コストも削減できるとウィルは考えていた。


 こうした仕組みは戦闘力の向上に留まらず、製品開発や市場の拡大など、多方面に利益をもたらす可能性を秘めている。


 たとえば、新しい端末のテストやユーザーのニーズ調査、新規機能の先行プレイなどを通じて、製品を実際の運用環境で使用してもらう機会を増やすことができる。これにより、実用的なフィードバックを得て製品を改善し、品質を高める。さらに、敵である人間を狩るためのエキスパートを育成する場としても機能し得る。


 こうしたプロジェクトを持続的に運用するためには、ハンターへの報酬や、支給する装備の開発、活動を支えるシステムの運用保守といった、多額の資金とリソースが不可欠だ。


 ウィルは、これらの資金を賄うために外部からの投資を呼び込み、その利益をハンターに還元する仕組みを構築しようと考えた。この方法によって、ビジネスの持続可能性を高めつつ、ハンターたちを長期的に支援し続けることが可能となるのだ。


 ウィルは、これらのアイデアをもとに、前世で培ったゲーム運営やイベント管理の経験を最大限に活かし、具体的な計画を進めていった。設立プロセスを緻密に組み立てるため、アイの高度なデータ分析能力も存分に活用する。そして、その計画をパートナーのマッチと、信頼を寄せる鬼切鳴おにぎりめいに共有した。


 鬼切鳴おにぎりめいとの出会いは思いがけないものだった。


 初めは姉である鬼切舞と同じく、彼女を警戒していた。しかし、対話を重ねるうちに、彼女が冷静で理性的な人物であり、姉とは異なる性格だと気づいた。彼女の冷静さと洞察力に信頼を置き、ビジネスパートナーとして認めることにしたのだ。


 こうして、「モデルエッグ」の設立は順調に進んでいった。ウィルは会社の基盤を固めると同時に、鬼切家の人々にも新しいビジネスを経験させ、彼らの未来にも影響を与えようとしていた。


 期待と不安が交錯する中、ウィルの目には確かな自信があった。


 このプロジェクトが成功すれば、魔王軍や魔族たちの戦力強化のみならず、彼らの生活にも大きな変化をもたらすだろうと確信していた。そして、それは新しい時代の幕開けとなるだろう。


 ウィルは、力強い決意を胸に、未来への第一歩を踏み出した。鬼切家の支援を受け、自らのビジョンを形にしていく彼の姿勢は、この世界にすでに大きな影響を与え始めていた。


◇◇◇


 数週間後、ウィルは提携企業を招いて大規模なプレゼンテーションを行った。


 その内容は非常に大胆で革新的であった。


 まず、ウィルは新たなハンタープログラムの概要を説明した。成人していれば性別や経歴に関係なく誰でも参加でき、戦闘未経験者でも問題なく参加可能だという。


 参加者には、ウィル&マッチ社および提携企業から装備が無償で貸与されるため、初参加でも安心して挑戦できる環境が提供される。


 次に、ウィルは支援対象となる戦闘区域について説明した。


 戦闘は、冒険者との戦闘が特に激しい稲荷地区の最前線で行われる予定で、参加者は現実の戦闘体験を積むことができる。


 また、社内での仮想訓練によって、各自の特性に合った戦闘スタイルを身につけることができ、ランク制限により習熟度の差が出ないように調整される仕組みも取り入れられている。


 さらに、ウィルは戦闘の評価基準にも独自のアプローチを採用した。


 評価は単に敵を倒すだけではなく、参加者一人ひとりのプレイスタイルや戦略を総合的に計算する仕組みである。


 後方支援のみの参加も認められており、誰もが自分に合った役割を見つけることができる。


 そして、この活動が魔王軍への就職に反映され、ランクによって待遇も変わるため、参加者にとっても魅力的な仕組みが提供されていた。


 ランクが上がるごとに報酬も増加し、ランクはフラッグシップ、ウルトラハイエンド、ハイエンド、ミドルハイ、ミドルレンジ、エントリーレベル、ローエンドと細かく分けられている。


 チーム編成には専用のアプリが用意され、自動マッチング機能によって最適なチームが組める仕組みも発表された。


 プレゼンの最後に、ウィルは今後のスケジュールを発表した。


 新端末のリリースが3ヶ月後に予定されており、ハンター活動開始は5ヶ月後になるという。さらに、企業代表者たちにもこの新プログラムへの積極的な参加を促した。


 プレゼンを終えたウィルの顔には、自信と情熱が満ち溢れていた。


 彼の提案は単なる戦闘シミュレーションを超え、参加者に新たな挑戦と可能性を提供するものであった。


◇◇◇


 稲荷地区における都市インフラ開発もいよいよ佳境に入っていた。


 ウィルは、提携先の企業を集めたプレゼンを終えた後、稲荷地区の最前線基地でネットワークの疎通確認を行っていた。


 新端末の発売に伴い、インターネットの利用が可能になることで、最前線の兵士たちによるネットワークトラフィックが急増することが予想されていた。


 もともと最前線へのネットワークは稲荷地区から延ばしていたが、この増加を懸念したマッチは、ウィル&マッチから直接最前線へ新たな回線を引くことに決めた。


 このネットワーク構築の作業は主にマッチが進めており、ウィルはその手伝いとして参加していた。ネットワークラックの前で作業を進めながら、ウィルは改めてマッチの能力に感心していた。


「これ、マッチ1人でやったのか?」と思わず驚きの声を上げると、マッチは微笑みながら答えた。


「アイさんから色々教えてもらったの。ウィルの世界では、これって当たり前の設備だったんでしょ?」


 ウィルは、インフラ関連の技術には少ししか触れたことがなく、知識として調べた程度だった。この世界で同じ環境を構築するには、アイの助けが不可欠だが、それでも高度な専門知識が求められる。そんな中、マッチが平然と作業をこなす姿には驚かされるばかりだった。


 作業は順調に進み、ONUテスターを使った接続確認は別の部隊が担当することになっていたため、ウィルは光ファイバーテスターを用いて、光回線の品質や接続状態を確認していた。


「マッチ、こっちは問題ないぞ」と報告すると、マッチも作業の手を止めずに「うん、ありがとう」と軽く返してくれた。


 その時、ふと疑問が浮かび、ウィルはアイに問いかける。


「俺とこの世界は、どうやって繋がっているんだ?」


 アイは即座に答えた。


『ワームホールリンクって技術で接続しているよ』


 ウィルは興味を引かれ、さらに尋ねる。


「それって、マッチにも使えたりするのか?」


 アイは首を横に振るような口調で答えた。


『それは無理だよ。いくつもの認証があって、権限を持ったUIDでなければ使えないから』


「じゃあ、代わりになる技術は?」


『何か代替できる技術があれば、だけどね』


 そんな会話をしている間に、マッチが作業を終えてこちらへ戻ってきた。


「ウィル、疎通確認は全部OKだから、あとは通信設備を設置して電波を飛ばせば完了だよ」


「OK、ありがとう。ところで、非武装地帯へのアクセスはどうするつもりだ?」


 マッチは少し考え込む。


「最前線から線を伸ばすのはリスクが高すぎるし、今のところ他に手段はないかな」


 その言葉を聞いたウィルは、ふと思いついたように言った。


「鬼切一族って電気を操れる種族だろ? それを応用して電波を飛ばすことはできないか?」


 マッチはその案も既に検討していたようだった。


「それも考えたけど、個体ごとに周波数が違うから、端末が対応できないかもしれないの」


 アイも会話に加わる。


『それはちょっと課題があるわね』


 ウィルは、その案を一旦保留することにした。


 作業を終えたマッチが立ち上がると、ウィルは彼女の方へ振り返り、少し微笑んで尋ねた。


「せっかく稲荷地区に来たんだ。何かやりたいこととかある?」


 マッチはその言葉に一瞬驚いたように目を丸くする。彼がそういった提案をしてくるのは珍しいことだったからだ。しばらく考えた後、彼女は軽く肩をすくめて微笑む。


「う~ん……ウィルと一緒なら辺りを散策したいんだけど、いいかな?」


 彼女の笑顔は、どこか照れくさそうだったが、その瞳にはどこか期待するような光が宿っていた。


 ウィルは、そんな彼女の様子に少し頬を緩めながら答える。


「いいよ」


 彼の短い返事に、マッチは嬉しそうに軽く手を叩き、小さく跳ねるような仕草を見せた。


「じゃあ、さっそく行こうか」


 ウィルの言葉に、マッチは元気よく頷き、2人は歩き始める。


 ウィルとマッチは、稲荷地区の開発エリアを歩きながら、普段の忙しさを忘れるようにリラックスした時間を過ごしていた。


 まず訪れたのは、開発エリアに新しくできた高級店だった。店の前に立つと、煌びやかなガラス張りのショーウィンドウに高価なアクセサリーや最新のファッションアイテムが並んでおり、そのどれもが洗練されたデザインで、マッチの目を引いた。


 店内に入ると、品の良い香りとともに柔らかな音楽が流れていた。


 マッチは、楽しそうに店内を見回しながら、何か特別なものを探しているようだった。


 彼女の目がひときわ輝いたのは、カウンターに並べられた手作りのジュエリーに目を留めた時だ。


 ウィルはそれに気づき、微笑んで声をかけた。


「気に入ったものがあれば、選んでいいぞ」


 マッチは少し照れくさそうに笑いながらも、真剣にジュエリーを見定めていた。


 そして、キラリと光るシンプルなデザインのペンダントを手に取り、「これ、素敵だね」と呟いた。


 ウィルは頷きながら、それを購入し、彼女にプレゼントした。


「とても似合っているよ」


 マッチはその言葉に嬉しそうに頷き、ペンダントを胸元に飾った。


 その後、2人は市場へと足を向けた。


 市場は活気に満ち溢れ、さまざまな色と香りが立ち込めていた。


 地元の農家が新鮮な野菜や果物を売る露店や、香ばしい匂いを漂わせる焼き物の屋台、手作りの工芸品が並ぶブースが、2人を歓迎するかのように賑わっていた。


 マッチは、目を輝かせながら市場の中を歩き回り、時折立ち止まっては興味深そうに商品を手に取ったり、店主と談笑したりしていた。


 ウィルは彼女が楽しんでいる様子を微笑ましく見守りながら、ふと、焼きたての串焼きを売る屋台に目を留めた。


「腹が減ったな、マッチ。何か食べていこうか?」と声をかけると、マッチも興味津々に「うん!」と返事をした。


 2人は焼き立ての串焼きを手に取り、その香ばしい味わいを楽しみながら、少しずつほぐれていく心を感じていた。


 続いて、屋台で売られていた甘いお団子も手に取り、それを一口頬張ると、マッチは目を輝かせて言った。


「これ、すごく美味しい!」


 ウィルも頷きながら、「こういうのも悪くないな」と微笑んだ。


 市場の喧騒の中で、2人は心からリラックスし、普段の緊張感とは無縁の時間を過ごすことができた。


 時折、風に乗ってどこかから聞こえてくる楽器の音色が、彼らの耳に心地よく響き、2人の笑い声は市場の活気に溶け込んでいった。


 久しぶりに感じるこの自由な時間が、2人の心を解きほぐし、稲荷地区の新しい魅力を存分に堪能することができたのだった。

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