21話 裏切り者への仕打ち
ウィルはアカヤを救うために奔走していた。
鬼切一族に命を狙われている彼を守るため、ウィルは資金を援助している医療会社の病院に事情を伝え、密かにアカヤを搬送して治療を受けさせた。
アカヤは一時は瀕死の状態であったが、医師たちの懸命な努力により容態は安定し、ついに意識が回復したとの連絡を受けていた。
急いで病院へ向かい、病室に入ると、ベッドに横たわるアカヤの姿が目に入った。
彼の顔にはまだ疲労の色が残っていたが、その目には確かな生気が宿っていた。
「アカヤ、よかった、意識が戻ったんだな」
ウィルの声に、アカヤはゆっくりと微笑んだ。
「ウィル…ありがとう。君がいなかったら、どうなっていたか…」
ウィルは静かに首を振った。
「いいんだ、アカヤ。俺を頼ってくれなければ君はもう死んでいた。このまま治療が進んで回復したとしても、君が狙われる運命は変わらないだろう。だから、もしよければ、うちの会社の社員になってほしい。そうすれば、企業として君を正式に守ることができる」
アカヤは驚きながらも、その提案に少し考え込んだ後、問いかけた。
「でも、どうしてそこまでしてくれるんだ?僕はただの鬼斬一族の者で、君たちにとっては何の得にもならないだろう?」
ウィルは深く息をつき、視線をまっすぐにアカヤに向けた。
「アカヤが戦った姿を俺は見ていない。けれど、アカヤがこの世界の敵と戦い、その結果、一族から裏切られるような未来があったとしたら、俺は絶対に許せない。そんな理不尽な未来を、俺は否定したいんだ」
その言葉に、アカヤは胸が熱くなるのを感じた。
「ありがとう、友よ……」
彼は静かに言った。その瞬間、2人の間には深い友情の絆が確かに結ばれた。
しばらく雑談を交わしていると、ウィルの端末にマッチから連絡が入った。彼女は冷静な声で報告した。
「鬼切家の対応が終わったわ。詳細は後で伝えるけれど、とりあえずは一段落したと言っておくわ」
ウィルはアカヤにその報告を伝え、鬼切家との一連の出来事と今後の可能性について話し始めた。アカヤは不安そうにウィルを見つめた。
「これで本当に大丈夫なのか?」
「なんとかするよ」
ウィルはそう言ってアカヤを安心させようと、優しく語りかけた。アカヤは少しだけ肩の力を抜き、呼吸を整える。その目にはまだ不安が残っていたが、ウィルの言葉でわずかに気持ちが落ち着いていた。
しばらく静かな時間が流れ、ウィルはアカヤの回復を静かに見守っていた。しかし、ふと、ウィルの脳裏にあることがよぎった。マッチからの連絡で伝えられた、鬼切家から送られてきた動画のことだ。
「ところで、アカヤ……1つ確認しておきたいことがあるんだ」
アカヤはウィルの声に少し緊張を取り戻し、彼の言葉に耳を傾ける。
「実は、鬼切家から動画が送られてきたんだけど、もう確認してるか?」
アカヤは一瞬、表情を曇らせ、ウィルの問いかけに戸惑いを見せた。だが、すぐにその気持ちを振り払い、決意を込めた眼差しでウィルを見つめた。
「まだ見ていないけれど……覚悟して見るよ」
アカヤの返事に、ウィルはうなずき、慎重に端末を取り出した。アカヤはその様子を見て、再び緊張した面持ちになった。彼の目には、不安と恐れが入り混じった感情が宿っていた。
ウィルは一瞬、アカヤの表情を確認し、ふと考えた後、静かに声をかけた。
「アカヤ、俺が代わりにボタンを押すけど、それでもいいか?」
アカヤは少し驚いたようにウィルを見たが、ゆっくりとうなずき、深い息をついた。
「お願いするよ……」
ウィルはその言葉を受けて、動画の再生ボタンを押した。画面に映し出されたのは、鬼切家の幹部たちがアカヤの家族を拷問する凄惨な光景だった。そのあまりの残酷さに、アカヤは息を呑み、瞬く間に涙がこぼれ落ちた。彼の体は震え、嗚咽が漏れ出す。ウィルもまた、その映像に深い怒りを覚えた。心の奥底から湧き上がる激しい憤りが彼を突き動かしていた。
ウィルは、アカヤが涙を流しながらもなんとか落ち着きを取り戻すまで、そのそばに寄り添い続けた。彼の手をそっと握り、優しく慰めるように声をかける。やがて、アカヤが少しずつ呼吸を整え、静かな決意の表情を浮かべるのを見て、ウィルは静かに口を開いた。
「アカヤ、あいつらは俺が必ずやっつける。家族を守るために戦ってきた者に対して、あんな仕打ちは断じて許容できない。必ず、連中に報いを受けてもらう」
その言葉に、アカヤは震える手で涙を拭い、力強くうなずいた。
ウィルは静かに病室を後にした。彼の背中には、強い意志とともに新たな戦いの覚悟が漂っていた。これから始まる戦いがどれほど厳しいものになるかは分からない。だが、ウィルはもう決して迷わない。彼の心には、アカヤとその家族を守るための揺るぎない信念があった。
彼が病院の廊下を歩くたびに、その足取りにはこれまで以上に重みと力強さが感じられた。決意の炎はさらに燃え上がり、ウィルはこれからの戦いに向けて全身全霊で臨むことを心に誓っていた。
◇◇◇
事態はウィルの予想通りに進展していた。鬼切家が企業代理戦争を宣言し、その知らせは魔王トゥデイの耳にも届いていた。彼女はこの宣言を歓迎し、アリーナ(闘技場)を貸し切り、多くの企業や一般客を誘致する盛大な催しを企画した。
試合形式は以下のように定められた。
- 企業代表者が戦闘を行う。
- 補佐は一名のみ参戦可能。
- 勝者にはあらゆる権利を手にすることが許される。
当日、巨大なアリーナ(闘技場)は企業関係者や好奇心旺盛な観客で溢れかえっていた。幾千もの灯りで照らされ、観客席は期待に沸く群衆で埋め尽くされている。各隅に設置された巨大なスクリーンは、リング中央の様子をリアルタイムで映し出し、誰一人としてその瞬間を見逃さないようにしていた。
地面は特殊な素材で覆われ、戦闘の衝撃を和らげるよう設計されている。アリーナの空気は熱と興奮に満ち、観客の歓声、拍手、そして時折上がる歓喜の叫びが一つになって響き渡っていた。
リングアナウンサーが選手入場の紹介を始めた。
「レディース・アンド・ジェントルメン、待ちに待った瞬間がついに到来しました!今宵、この闘技場に足を踏み入れるのは、最恐であり最強の一族、鬼切舞将軍!彼女は史上最年少で一族の長となるための過酷な試練を突破し、鬼斬り本流の免許皆伝を果たした今代最強の魔王候補!観衆の皆様、心してその目撃者となれ!」
鬼切舞はリングへと歩を進めた。彼女の姿勢は自然体で、緊張も恐怖も微塵も見せない。会場は彼女の堂々たる姿に息を呑み、一斉に歓声を送った。
続いて、アナウンサーが熱のこもった声で次の選手を紹介した。
「そして次に登場するのは、ただの経営者ではない、都市を動かす一大勢力!魔京都を含む都市経済の驚異の20%をわずか1年でその手中に収めた男、カリスマ創業者としてその名を轟かせるウィル!ビジネスの手腕は、巨大な企業の規模とその影響力から推し量ることができるだろう。未知数の実力を持つこの男、その全貌が今、明らかになるかもしれない!レディース・アンド・ジェントルメン、目撃者となれ!彼の才能が火花を巡る時、この場所こそが歴史の舞台となるでしょう!ウィル選手の挑戦、ここに注目!」
ウィルも闘技場へと入場し、その姿は決意に満ち溢れていた。両者がリングの中央で対峙した時、周囲の音はすべて消え失せるかのようだった。彼らの目には焦点が定まり、殺意と殺意が奔流するような激しい意志が交錯する。ウィルの目には静かなる炎が宿り、鬼切舞の目には戦いへの確固たる覚悟が映し出される。
数秒間、世界が静止したかのように感じられた後、2人は同時に後退し、戦いの準備を整えた。リングアナウンサーが声を張り上げる。
「この一戦が、運命を左右する!観客の皆様、この歴史的瞬間を心に深く刻み込んでください!」
そして、戦いの開始を告げるゴングが鳴り響いた。その瞬間、両者の戦いに火蓋が切られ、観客席からは期待と緊張が入り混じった大歓声が上がる。
ウィルと鬼切舞は、運命の舞台へと踏み出した。




