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魔族IT革命  作者: 白樹春來
魔京都 会社設立編
18/68

18話 鬼斬アカヤとの再会

 会社再編はマッチ主導のもと、順調に軌道に乗り始め、基幹事業プロジェクトは想定よりも速いペースで進行していた。


 ウィルは、プロジェクトの進捗が早いことに喜びつつも、社員たちに無理をさせているのではないかと不安になり、ある夜、こっそりとオフィスを覗きに行くことにした。


 オフィスに着くと、そこには管理職だけが残っており、その他の社員たちは全員帰宅していた。


 管理職がなぜこんな時間まで残っているのか?その理由は、前世でサラリーマンをしていたウィルにはよく分かっていた。


 前世の職場でも、管理職たちは遅くまで平然と残業をしていたものだ。


 この世界には会社法がないため、残業代はしっかり支払っているとはいえ、彼らの労働環境が気になる。


 ウィルはオフィスの片隅から、残業に励む管理職たちを見守りながら、心の中で小さく「ごめんな」と呟いた。


 その姿を見ていたアイが、ウィルの挙動を不思議に思い、問いかける。


『なんで謝ってるの?代表なんだから、あなたが言えば解決するんじゃない?』


 ウィルは、アイの言葉にやり場のない感情を抱きつつ、少しいぶかしげな視線を返した。


「言うはやすし行うはがたしって言葉を知ってるか?なんでもかんでも言うだけじゃ、その後はどうなるかわからない。余計な干渉をすると、せっかくの成長の機会を奪うことになるんだ。今は計画として大変な時期だ。彼らの成長を邪魔したくない。だから、今は見守るだけにしておくよ」


『そうなんだ』


 アイは理解したような返事をしたが、ウィルはそれ以上話すこともなく、しばらく管理職たちの働く姿を見つめ続けた後、自室へと戻っていった。


 オフィスには宿泊用の部屋も用意されており、ウィルはその部屋で寝泊まりをしていた。


 魔京都に出てきた際に一時的に借りていたホテルの部屋や不動産で見つけた住居は既に解約しており、今ではマッチとともにこのオフィスで生活をしている。


 部屋で作業を進めていると、突然電話が鳴った。夜遅くに電話がかかってくることは滅多にないため、ウィルは何か予期せぬ出来事が起こったのだろうと直感し、急いで受話器を取った。


 電話の相手は1階の受付スタッフだった。


「夜分、遅くに失礼します。1階に鬼斬おにぎりアカヤ様がいらしております。ただならぬ雰囲気でいらっしゃるため、申し訳ないと思いながらもお電話をさせていただきました」


 予期しない事態が起こっていると確信したウィルは、受付にアカヤを部屋へ通すよう指示し、急いで来客用のお茶を準備した。


 そうしているうちにインターホンが鳴り、ウィルはドアを開けてアカヤを出迎えた。


「夜分遅くにすまない。助けてくれないか?」


 アカヤは羽織物をしていたが、その顔色と仕草からは深刻な怪我を負っていることが一目で分かった。


「助ける代わりに、怪我を見せろ!」


 ウィルはアカヤをソファーに座らせ、傷口を確認し始めた。


 腹部と右腕には焼け焦げた痕があり、体の至る所に切り傷があった。


「アイ、ナノマシンによる復元作業を行う」


 ウィルはアイに指示を出し、傷口をスキャンして損傷箇所の復元を試みたが、治療は失敗に終わった。


『ダメだわ。この怪我は単なる肉体の損傷ではなく、肉体そのもののデータが破損している。復元は不可能よ』


 この世界は高度なデジタルと現実世界が不都合に混じり合い構成されている。


 前世のような物理的な治療もデジタルデータとしての肉体の復元も可能だ。


 通常、ナノマシン治療は対象のデータ構造を取得し、破損箇所の細胞を再生することで驚異的な速さで治療を行う。


 しかし、アカヤの傷はそれでは治せなかった。


 アイが補足説明をする。


『ハードディスクで例えると、バックアップがありエラーコードが正常に働いている場合はデータの修復が可能だよ。しかし、ハードディスクそのものに深刻な物理的損傷がある場合、修復は極めて困難になる。今の技術では、復元は無理ね』


 ウィルは次の手を考えたが、効果的な方法が思いつかない。


 とりあえず応急措置を施すために、病院への連絡を試みる。


「ウィル、病院には連絡を入れるな」


 アカヤが弱々しい声でウィルを制止する。ウィルは彼に向き直り、毅然とした口調で言った。


「事情を説明しろ」


 アカヤは意識が朦朧としながらも、自分の状況を語り始めた。


「見本市の後、少し前向きになったアカヤは久しぶりに実家に帰ったんだ。でも、一族の者たちからはまるで存在しない者のように扱われた。それどころか、裏では私への誹謗中傷が飛び交っていたんだ…」


 ウィルは黙ってアカヤの話に耳を傾ける。彼は深いため息をつき、苦しげに続けた。


「理由は、稲荷地区戦闘区域での戦いで、鬼斬一族として相応しい成果を上げられなかったこと。そして仲間を見殺しにしてしまったことだ…。家が貧乏で適切な装備も用意できなかったせいで、家族以外の身内からも忌み嫌われていた。まともな刀すら持たせてもらえず、ボロボロの装備で戦場に送り出された結果、唯一一緒に戦ってくれた戦友まで失ってしまった」


 アカヤは辛そうに顔を伏せ、声を震わせた。ウィルは彼の言葉の重みを感じながら、冷静に続きを促す。


「鬼斬一族は、かつて圧倒的な戦闘力と剣技で生物の頂点に立った種族だった。だからこそ、一族の目標は常にその栄光を取り戻すことだったんだ。でも、人類との戦争で俺たちは住処を追われ、生き残った者たちは魔王トゥデイの温情で、なんとか魔京都の鬼切地区に住むことを許された」


 アカヤは顔を上げ、ウィルの目を見つめる。彼の瞳には、自分が抱えてきた苦しみと後悔が映っていた。


「それでも…俺はその戦争で仲間を全滅させてしまい、一人だけ生き延びた。それが原因で一族中から『なぜ仲間と共に死ななかったのか』と非難され続けているんだ」


 ウィルはアカヤの話をじっと聞き、彼の抱える痛みと孤独に触れた。そして、ゆっくりと頷き、即座に返答した。


「アカヤ、君の価値観は一族に共通するものかもしれないが、それは誤った考え方だ。仲間と共に散ることが美徳だという考えは、俺からすれば恥でしかない。同調圧力に屈して、そのような考えを自然に受け入れてしまうなんて、哀れな奴らだ」


 アカヤは、その言葉に一瞬戸惑いの表情を浮かべた。彼もまた、その価値観の中で育ってきたからだ。


「事情は分かった。君の安全は俺が保証する。今はゆっくり休んでくれ」


 ウィルの言葉に、アカヤは少し安心したように頷き、そのまま意識を失うように眠りに落ちた。


 後日、ウィルは鬼切一族と鬼斬一族の情報を集めるため、魔京都にある図書館を訪れていた。


 魔京都の図書館は、その名にふさわしく、膨大な書籍と歴史的資料が眠る知識の宝庫だった。


 ウィルは静まり返った館内を歩き、古びた書棚の間を進みながら、鬼切一族と鬼斬一族に関する情報を求めていた。


 彼は驚くべき速度で次々と書物を読み解き、鬼に関する記述を抜き出しては、慎重に整理していった。


 その手は絶え間なく動き、まるで書物そのものが彼の手元で情報を再構成しているかのようだった。


 ウィルは集めた情報をもとに仮説を立て、再構成した内容をひとつの物語としてまとめ上げた。


◇◇◇


 遥か昔、鬼一族は現在のように鬼切と鬼斬に分かれてはいなかった。


 その頃、鬼たちは1つの強大な種族として知られ、他のどの種族よりも恐れられていた。


 しかし、1000年前に天災が起こり、続く飢饉が鬼一族の運命を狂わせた。


 飢饉は実に100年にも及び、鬼たちは次第に狩猟による生活を維持することが難しくなっていった。


 彼らは他の種族を狩ることができなくなり、食料はみるみるうちに底を突いていった。


 作物を育てる術を持たない鬼たちは、生き延びるために何でも口にするようになった。


 最初は動物、次に植物、そして最終的には…同胞たちでさえも。


 極限の飢餓に追い詰められた鬼たちは、互いに殺し合い、その肉を食べるようになった。


 カニバリズムが鬼一族の数を激減させ、絶滅の危機にまで追い込んだのである。


 しかし、その混乱の中から、ある一族が台頭してきた。それが鬼切一族だった。


 鬼切家は他の鬼とは違う身体的特徴を持ち、鬼切一族が刀を振るうと、鬼の体はたちまち消滅してしまうという力を有していた。


 抵抗する鬼もいたが、逆らう者はすべて消滅させられ、鬼切家は、鬼一族を統率し、飢饉を乗り越えて混沌とした社会を立て直すことに成功した。


 その後、鬼切家に服従した者たちは、鬼斬家として知られるようになった。


 彼らは鬼切家と共に、かつての栄光を取り戻すために尽力し、一国一城を築き上げ、最終的には魔王にまで至ることとなる。


 ◇◇◇


 ウィルはこの物語をまとめ上げたが、まだ解決しない疑問がいくつも残っていた。


 カニバリズムによる歴史の上で成り立つ一族は、果たして交渉事が通じる種族なのか。


 そして、鬼の体を消滅させる力とは一体何なのか?疑問はさらに深まり、彼の思考を巡らせた。


 これ以上、図書館で調べられることはないと判断したウィルは、稲荷神社へと向かうことにした。


◇◇◇


 稲荷神社本殿。


「シロ様、ウィル様が来訪されています」


「すぐにお通ししろ」


 ウィルが本殿に姿を現す。神聖な空気が漂う中、シロは静かに迎え入れた。


「ウィル様、急なご来訪、いかなるご用件でしょうか?」


「鬼切一族についての情報が欲しい。彼らは対話が可能な種族なのか、それとも話し合いが通じない相手なのかを知りたい」


 シロはウィルの言葉の意図をすぐに理解した。


「一定の力を示さなければ、彼らとの対話は難しいでしょう。事情をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 ウィルは簡潔に事情を説明した。シロは一瞬考え込むと、真剣な眼差しで問いかけた。


「ウィル様は、鬼切一族を敵に回してでも、アカヤさんを守るだけのメリットがあるとお考えですか?」


 シロの問いかけに、ウィルは一瞬ためらった。彼女の言葉が意味するものを理解したからだ。


 アカヤを取るのか、それとも会社を守るのか――ウィルの決断が未来を大きく左右することは明白だった。


 常識的に考えれば、会社の利益と社員全体の安全を守ることが優先されるべきである。


 1人のために全体を危険にさらすことは、創業者として賢明な判断とは言えないだろう。


 しかし、もしこの状況で助けを求めてきたアカヤを見捨てることになれば、ウィル&マッチは信頼を失い、他の企業からも弱小企業として見られ、さらなる攻撃を受ける可能性がある。


 この世界は法治国家ではない。


 力の誇示によって守られるものもあれば、それが諸刃の剣となる場合もある。


 ウィルも今の強さがなければ、そもそも選べる選択肢すらなかったかもしれない。


「アイに決めさせることもできるが、それはしない」


 ウィルは心の中で考えた。どんなに高度なAIであっても、未来予知ができるわけではない。


 無限に広がる可能性の中で、できることはあくまでその場その場での最良の推測に過ぎない。


 彼は目を閉じ、考えられる限りの未来のシナリオを頭の中で描きながら、静かに決断を下した。


 静寂が場を支配する。


「決めた。アカヤを助ける」


 ウィルの声は静かだが、その決意は揺るぎなかった。シロはその意志を受け止め、深く頷いた。


「ウィル様の選択を、稲荷家代表として支持致します。今は他の仕事を全て放り出し、この問題に全力を注いでください」


「助かる。もしかしたらココかララを借りることになるかもしれない。その時は頼む」


 ウィルはそう言い残し、本殿を後にした。シロはその背中を見送りながら、彼の決意の重さを感じ取っていた。


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