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魔族IT革命  作者: 白樹春來
魔京都 会社設立編
15/68

15話 魔族狩り

 稲荷区の最東端に魔族の最前線基地がある。


 前線基地では冒険者の怒涛の攻めによって前線を維持するのは困難なものとなっていた。


「司令官、この戦線はもちそうにないです」


「稲荷様が新たに結界をはりなおしてくれるまでは死んでも守らないといけない」


 この戦線を突破された場合、第2防衛ラインまで下がる必要があるが、第2防衛ラインでは他区へと繋がる街道が整備されているため、第2防衛ラインまで下がると物資の輸送に制限がかかり食料不足に陥る可能性もある。


「明日には援軍が到着する。覚悟を決めてくれないか?」


 兵士達は命をここで捨てる覚悟を決める。


「門が突破されましたっ!!」


 破壊された門から冒険者がやってくる。


「おっまだ結構経験値残ってるじゃん」


「独断行動は禁止ですよ。ヒーラーの指示に従って下さい」


 前から戦士、盗賊、射手、僧侶の格好をした一団が姿を現した。


 兵士の数人が左右、前から一団に襲いかかる。


 種族固有の魔法を使用し身体的特徴をより強固にして猛威を振るう。


 最初に攻撃が当たるのは右から攻めた猫族の兵士だ。

 鋭い爪を魔法で強化し冒険者を切り裂こうとする。


「神の名のもとに、魔術を行使する ホーリーバリア」


 白いエネルギーの塊が膨れ上がり、次第にドーム状のバリアを形成した。その光は柔らかくも力強く、まるで聖域を守るかのように冒険者たちを覆っていた。


 猫族の兵士が一瞬の隙を突いて猛然と飛びかかる。魔法で強化された鋭利な爪が光を切り裂き、勢いよくバリアへと突き刺さる。だが、その瞬間、耳を劈く(つんざ)ような金属音とともに火花が激しく飛び散った。爪がバリアに衝突した瞬間、衝撃が兵士の腕を逆流し、しびれを感じさせる。


「微塵も傷ついていないだと!」


 その驚愕を感じ取ったかのように、兵士たちは次々に攻撃を仕掛けた。左からは巨体のトロールが斧を振り下ろし、前方からは狼族が速さを活かして連続攻撃を試みる。しかし、どの攻撃も虚しく、バリアの表面は無傷のまま。力強く振り下ろされた斧はまるで風を切るかのように反射され、猛スピードで繰り出された爪も、ほんのわずかにバリアを擦っただけで弾き返される。


「くそ……歯が立たない……!」


 兵士たちは次第に苛立ちを募らせ、その焦りが動作に表れ始める。しかし、彼らの攻撃はまったく効力を発揮せず、バリアは揺らぎすら見せなかった。その間にも冒険者たちは冷静に次の動きを見定めていた。


 冒険者から死の宣告が下される。


「バフをかけてから殲滅開始だ」


「範囲を拡大 パワーアップ」

「身体強化、限界突破、剣技行使」

「加速、剛腕、視覚強化」

「瞬足、俊敏」


「逃げろ!!!」


 圧倒的な力の差に恐怖を感じた兵士たちは、一斉に後退を始めた。


◇◇◇


 前線基地の屋上でウィルは冒険者と兵士達の戦闘を観察していた。


「アイ、人間って魔族を倒すとレベルアップするのか?」


『そうみたいだね。こちらの仕様とは違うらしい』


「魔族もレベルアップできればいいんだけど実現できるかな?」


『習熟度に比例したレベル付けならできるけど、何かを倒すだけでレベルが上がるのは実現不可能だと思うわ』


「聞き方を変えるけど遠隔的なエネルギーの供給実現なら可能か?常に充電してるみたいな感じで」


『それをするためのハードがあれば可能だね』


「レベルアップは実現できないけど別の手段を講じることは実現できそうだな。よし、そろそろ兵士がやられそうだし、応援にいくか」


『わかったわ』


 ウィルは、屋上の縁に立つと一瞬だけ風景を見下ろし、迷いなく飛び降りた。風を切る音が耳元で響く。最短ルートを計算し、建物の間を縫うように落下速度を調整しながら現場へと向かう。距離が縮まるにつれて、ウィルは瞬時に状況を把握した。


 冒険者たちの猛攻が兵士たちに迫り、絶体絶命の危機が目前に迫っている。ウィルはすかさずイベントを起動させ、兵士たちを守るためのブロックを瞬時に展開。目にも止まらぬ速さで重ねがけされた複数のブロックが、冒険者の強烈な攻撃を完全に遮断し、兵士たちを救った。


「兵士達よ。下がれ」


「助かったぜ。ありがとう」


 感謝の述べ兵士達は撤退する。


「おいおい、経験値が逃げていくじゃないか?お前責任取れんのか?」


 冒険者達の挑発的な発言を気に留めず警告する。


「お前達はこの世界の利用規約に違反している。潔く死を受け入れるか、抗って死ぬか選べ」


「お前何言っているんだ?」


 剣士は怪訝な顔をする。


「二度は言わない、潔く死ね」


 戦闘が始まった。


 ウィルはトップスピードで戦士に近づき、上段蹴りを入れる。


 剣を飛ばす勢いで蹴り上げたが剣を握った手からは離れず、剣士は体勢を立て直そうとする。


「このやろう!!!」


 しかし、体勢を立て直すことをウィルが許すはずもなく、顔面ストレートが決まる。


 夜間による仮想訓練で叩き上げられた技術は身体強化された剣士の顔を一撃で吹き飛ばすほど洗練されていた。


「まずは1人」


 ウィルの発言で盗賊、弓、僧侶の恐れを抱き、恐怖の対象を葬ろうと全力で攻撃する。


 射手は高く飛び上がり3本の弓をウィルに放つ。


 弾丸のように加速した弓がウィルを穿うがとうとするが、最小限の動作で交わされる。


 処理能力が上がり、リフレッシュレート、解像度が高い状態で視認することができるようになったウィルにとって弾丸のように速い弓を避けることは容易いことだった。


「2人目」


 ブロックを使用した足場を展開し、裏拳で射手を吹き飛ばす。


 吹き飛ばされた射手は壁にめり込み、穴からは潰れた衝撃で血しぶきが舞った。


 次のターゲットを盗賊へと定めると、盗賊はこの場から逃走するために全力で走り出した。


(あいつ…… やばい!!!)


 逃げ出すことで頭がいっぱいになり、全速力で地面を駆け抜ける。


「スライムシート展開」


 足が地につく座標を計算してシートを展開することで転ぶことを誘発させる。


 ウィルが展開したスライムシートには粘性があり一度罠にかかったものは逃げ出すことができない仕組みになっていた。


 前世の知見でごきぶりホ〇ホ〇を起点に作成したものだが機能として十全に発揮することができた。


「恐怖で逃げるやつは前方の視野が狭くなるもんだ」


 ウィルの言う通り、盗賊は無残にもスライムシートから逃げ出そうと必死に体を捻るがより粘着してしまい身動きが完全に取れなくなっていた。


「あの世で悔いろ」


 振り下ろした拳が盗賊を血溜まりに変える


「お前で最後だ」


 見ているだけだった僧侶も自分がやられると本能で悟り、バリアを展開する。


 ウィルが加速して僧侶の死角から攻撃を仕掛ける。


 思いっきり殴ったバリアは衝撃を吸収してして何事もなかったかのようにその機能を動作し続けている。


「想定通り、バリアを破るための貫通力が不足しているようだな」


『あれを実戦投入する?』


「もう少し探ってみる」


 僧侶はバリアが破られなかったことに安堵する。


「このバリアを破るのはどうやらあなたには不可能ですね」


「好きに言ってろ」


 関心を示そうとしないウィルの原動に自分への優位を確信した僧侶は魔術を行使してウィルを倒そうと画策する。


「神の名のもとに 第3階位魔術 火炎放射」


 バリア外から突如小さい空間が出現し炎の束が解き放たれる。


 炎は蛇のようにうねりながら前方にいるウィルを飲み込もうとする。


 ウィルは加速して背後に回り込み裏拳を放つがバリアは割れない。


 飛び上がり、落下の勢いをつけて踵落としをするがそれでもバリアは割れなかった。


「バリアの部分箇所に強弱があるわけでもなく、知覚していない箇所=弱点でもない」


 バリアがどのような仕様でどのように機能するか入念に理解を進めるウィル。


「アイ、あれを試すぞ」


 距離を取り、再度加速する。


 火炎放射を華麗に避け、腰を回転させ上半身から右腕に全身の力を集約する。


 殴るフォームに反応してイベントが動き、プログラムが走る。


 右拳の前に成形炸裂弾が形成され炸裂弾とバリアが接触する。


 火薬が爆発しエネルギーが一点に集中する。


 モンロー効果によって生じた貫通力が、バリアを貫通し、僧侶の体に穴を開けた。


「なんで……」


 僧侶が倒れ戦闘が終了する。


「あいつ、冒険者を倒したぞ。すげ~な」


 兵士達からの歓声が鳴り響く。


「アイ、この機能は今後も使えそうだ。ショートカットに設定してすぐに使えるようにしてくれ」


「OK~」


 軽快な声で返答が来る。


 ウィルが戦闘区域から離脱しようとすると指揮官から声をかけられる。


「ウィルさん、はじめまして。指揮官のビリです」


「はじめまして」


「魔王軍から提供されたデバイスに半信半疑でしたが、あなた様の戦闘を見て感激しました。戦闘区域を離脱後部下と共にデバイスを使用してみたいと思います」


 戦闘中の部隊についてはサポートする時間もないためデバイスの配布だけを先行していたらしい。


 興味を持ってもらわなければ普及というのは難しいものだ。


 ウィルが行っているこの活動も全てはデバイスを1人でも多くの人に使ってもらうための広報活動である。


「ありがとうございます。少し慣れは必要だと思いますが、必ずあなたの力になるので是非使ってみて下さい」


 一息つきながら、ウィルはふと別の用事を思い出したように話題を切り替える。


「ところでビリさん、この後、稲荷神社へ用事があるのですが、場所を教えて頂けますか?」


 ビリから稲荷神社の場所を教えてもらい、ウィルは稲荷区の非戦闘区域にある稲荷神社へ訪れた。


◇◇◇


 神社は、この荒廃した地区においても奇跡的に保たれている平和な場所であり、その中心に位置する稲荷神社は古くから守られてきた聖域だ。


 ウィルは、かつての面影を残す狭い道を静かに歩いた。


 道の先に見える朱塗りの鳥居が、薄闇の中に浮かび上がっている。


 荒廃した周囲とは対照的に、神社周辺は不思議なまでに手入れが行き届いており、そこに足を踏み入れると一瞬で別の世界に入ったかのような感覚を覚えた。


 鳥居を1基(いっき)、また1基(いっき)とくぐり抜ける度に、背筋に冷たい風が流れ、ウィルの心は次第に静まり返っていった。


 神社の境内に辿り着くと、月明かりが石畳を淡く照らし、辺り一面が幻想的な光景を醸し出していた。


 ウィルは、中央にある社殿の前で立ち止まり、静かに手を合わせた。


 すると、空に亀裂が入り、キツネ色の髪を持つ小狐の少年と、明るいキツネ色と桃色の髪が混ざった少女がポータルから出現した。


 少年の髪はふわりと柔らかく、狐の耳と大きなふさふさした尾が揺れ、怒りを露わにしながらウィルに向かって声を上げた。


「貴様、ここへ何しに来た?」


 少女は彼の隣に立ち、冷静な表情を浮かべながらウィルに視線を向けた。透き通るような金色の瞳には静かな怒りが宿っており、狐耳と一本の尻尾が風に揺れている。二人とも幼いながらも整った容姿をしており、その姿には神々しい威厳が感じられた。


「お参りにきた。 気に触ったなら済まない」


 ウィルは素直に謝罪をした。前世でもお正月には神社にお参りをしていたため、つい何もなしにやってしまったのである。


「冒険者一行が稲荷区に侵入したのは確認している。それなのに最重要防衛拠点に呑気にお参りするバカがいてたまるか!!!」


 少年の言い分にウィルは納得し、反論することなく聞き入ってしまった。


「侵入者だと断定し対処します」


 少女が冷静に殺意を向け、瞳の奥に冷たい光が宿る。殺意を感じたウィルは我に返り、急いで誤解であることを説明した。


「待て、誤解だ。俺は侵入者ではない。冒険者一行を倒した後、ビリさんからここに稲荷様がいると聞いてやってきた。 お参りしたのは体が無意識に反応しただけであり他意はない」


「問答無用だ。侵入者!」


 少年はウィルの聞く耳を持たないまま排除しようと攻撃してきた。


 それに吊られて少女も追撃する。


 ウィルは誤解を解くために弁明し続けるつもりで対応するが小狐達の猛追が激しくそれどころではない。


 いくつものポータルが出現し小狐達が縦横無尽にポータルを通り抜ける


「テレポートか?」


 ウィルは周囲への警戒を強め、ポータルの予兆を探る。


 ウィルの右横にポータルが開く。


 反射的に防御を構え攻撃をいなそうとするが構えた時には反対側のゲートが開き突如飛び出してきた小狐に1発をもろに受けてしまった。


 もろに受けたことで続く連携コンボも決まる。


 ウィルはボコボコに殴られ倒れそうになるも膝が地に着いた瞬間意識を取り戻し体制を立て直して対策を考える。


 相手は子供、弁明したいが聞く耳をもってくれない。

 さらにはテレポートという強力な能力も兼ね備えている。


 神社という神聖な場所で派手に暴れたとして、こちらに利益はなく返ってくるのは関係各所からの抗議であることは目に見えてわかる。


 もしも、子供を殺傷すると仮定した場合、親族からの復讐もお釣りとして返ってくるだろう。


 一度撤退したいがテレポート能力が未知数であるため、逃げられる確率も低く能力に対応するための対策を今すぐにでも考えなければならない。


「さて、どうしたものかな」


 連携コンボを決めた小狐達は歓喜のあまりウィルがいるのにも関わらず、ハイタッチをしていた。


「ララよくやった」


「ココもナイスパンチだったよ」


 互いに褒め合うその姿は一見微笑ましいように見えるが敵であるウィルにとっては、命を繋ぐ上で思考する時間を稼ぐ余命を与えられているに過ぎない。


「アイ、戦闘による周囲への破壊はなし。対象者への危害も防衛する上で最小限に留める。 思考を加速させるため回避における身体操作を任せたい」


『任せて。全ての行動を回避に特化 ダメージコントロールを最小限に身体操作を開始するね』


 アイに戦闘を任せて何もない真っ暗な空間でウィルは物思いにふける。


 テレポート時にポータルがどこかに出現するかは視認できるが今のリフレッシュレートだとポータルが出現してから殴られるまでの間に猶予はなく反撃に転じるだけの時間が足りない。


 もし仮に時間があった場合も、そのポータルが騙すために作成されたかどうかを判断することは現状できないため複数個のポータルが目の前に出てきた場合、現状では対応できないままだ。


 ポータルは入る、抜けるのIN/OUTでついになっている。


 ダミーポータルの場合はINのみであるためOUTはない大事なのはポータルの疎通が通っているかどうかを確認することであり、ポータルが展開された時に何かをINして返ってくるOUTをキャッチできる何かを作ればいいのか?


 大まかな方針が決まり具体的なイメージを実現可能な技術へと落とし込む。


(このイメージに全プロセスを割り当てろ)


 ウィルの思考が加速する。

 深い海の中でアイデアを具現化する。


 この方法なら補足可能だな。

 仕様が完成しアイにパスする。


「アイ、急ぎで実装を頼む」


『やってみるね』


 実装が完了したとしても、テストをする暇がないため、ウィルの作戦が成功するかどうかは神のみぞ知るところとなった。


◇◇◇


 アイはウィルの身体を操作してひたすら回避に徹する


 処理能力を最大限まで引き上げポータルから出てくる拳、または蹴りに反応して回避行動をとる


 フェイクや補足出来なかった攻撃についても反射神経を極限まであげることにより、指向性を持つ衝撃に対して最適解の回避行動を行いダメージを最小限に抑える


 1分1秒でも生き残るウィルの指令を忠実にこなし少年、少女の追撃を学習し最適化する。


 回避動作にかかる動作工程が縮小されるリソースを視線誘導、ステップ、受け回しに注力し攻撃による衝撃波を完全に受け流す。


「こいつ、しつこい」


「はやく、くたばって」


 生まれた時から兄妹として生きてきた

 互いに目線を交わすだけで何をどうしてほしいのかはわかる。


 全力を出して敵をやっつけるつもりが目の前にいる敵はすんでのところで交わされる。


 子供の力、体力は大人よりも低いことは十全に理解している。


 だからこそ最初から全力全開で攻撃したのに初見の攻撃でも倒せず、ダメージ差を活かした有利な立ち回りも相手の回避能力が高く決定的な一撃を決めるどころかどんどんこちらの攻撃が通らなくなる。


「なんでだよ」


 少年は悪態をはく


「ココ」


 少女がココに目線を目配せる


 ココは少女が何をしたいのかを理解しウィルから距離をとる。


「あなたの名前をお聞きしていいですか?」


 少女がウィルに問いかける


 子供ながら相当な覚悟を感じ名前を告げる


「ウィル&マッチ 企業代表者 ウィル」


「稲荷神社代理管理者 ララ」


「同じく、稲荷神社代理管理者 ココ」


『ウィルできたわよ』


 ウィルも覚悟を決める。


 ココとララが動く、ウィルを中心として対処出来ない数のポータルが展開される。


 ポータルが出現した瞬間にウィルは両手にpingボールを出現させてポータルに放り込む。


 ウィルに徹底的な一撃を決めるため、ポータルを連続的に展開し、移動速度を極限まで上げる。


 神がかり的な相性もありココとララは互い衝突することもなく肉体限度の最高速度まで到達することができた。


 ウィルもポータルが展開されるたびにpingボールを投げ、pingボールが返ってくるポータルにマークをつけてどの方向から攻撃してくるかを予測する。


 ポータルが出現するたびに的確にpingボールを投げるウィルの姿は傍からみると凄腕野手のスーパープレイ集みたいな動きをしていた。


 ウィルの前後左右にポータルが展開され、いよいよ勝負を決める時がやってきた。


 ポータルが展開される瞬間返ってきたpingボールを受け取り、ココとララが出てくるポータルを瞬時に特定する。


 集中力を極限まで鋭く研ぎ澄まし次に行動する手を決める。


 ココとララが同時に飛び出し攻撃をしかける。


 ウィルは1ミリ秒の狂いもない正確なタイミングで両者を取り押さえた。


「はっ~~~~!!!」


「えっ!!!」


 ココ、ララが取り押さえられたことを自覚したのは地面に伏してから10秒後のことだった。


「終わりだ」


 ウィルは静かに告げる。


 彼の声には確信があり、2人に反撃の余地を一切与えなかった。


 ココとララはその言葉を聞き、完全に制圧されたことを悟るしかなかった。


 この子達にどうやって話を聞いてもらうか悩んでいると奥の本殿から声が聞こえてきた。


「ウィル&マッチ 企業代表者 ウィル様。どうか私の子供を殺すのはやめて頂けないでしょうか?」


 声のする方へ振り向くとそこには神聖な気配を漂わせた存在が立っていた。


 木漏れ日のように柔らかな光がその姿を包んでいる。


 彼女は稲荷神社の神主であり、白狐様と呼ばれる存在だった。


 白狐様は長い白髪を風になびかせ、艶やかな白い和服に身を包んでいた。


 その衣装には金糸で繊細な刺繍が施されており、足元には白い尾がふわりと揺れている。


 狐の面を半分だけ顔にかけ、琥珀色の瞳がウィルを静かに見つめていた。


 その瞳の奥には、神々しい威厳と共に深い憂いが宿っている。


「どうか、私の子供たちを傷つけるのはおやめください」と白狐様は穏やかに繰り返した。


 その声は優しく、しかしどこか凛とした力強さを秘めている。


 ウィルは一瞬、彼女の美しさと神秘的な存在感に圧倒されたが、すぐに冷静さを取り戻し、尋ねた。


「あなたは稲荷神社の神主、白狐様でお間違いないでしょうか?」


 白狐様はコクリと頷き、静かに語り続けた。


「ココとララです。我が子たちは、私が長年大切に育ててきた存在。彼らはまだ未熟で、力の使い方を間違えてしまっただけなのです。どうか、その命を奪うことなくお見逃し下さい」


 その言葉には真摯な願いが込められており、ウィルの心に響いた。


 彼はしばらく考えた後、白狐様に向かって返事をする。


「命を奪う気は最初からありませんでした。 子供たちに誤解を与えてしまい弁明の余地なく戦闘に至ってしまったことをこちらもお詫びします」


 白狐様は静かに頭を下げ、感謝の意を示した。


「ありがとうございます、ウィル様。あなたの寛大さに感謝します」


「ところで稲荷神社にどのようなご用件でしょうか?」


「白狐様とお話がしたくてここに参りました」


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