14話 自社拡大
ウィルが事務所に戻ると、すぐにマッチとの会議が始まった。
急な会議の理由は、会社が危機的な状況に陥っているという報告を受けたためだった。
プレゼン以降、ウィル&マッチカンパニーへの入社希望者は爆発的に増え、人員の振り分けや教育が追いついていない状態になっていた。
さらに、共同開発や受託開発の依頼も増加し、開発チームは完全に手が回らなくなっていた。
帳簿上は利益が出ているものの、現実には支払いに回す資金が不足し、黒字倒産の危機に瀕している――そういった現状が報告され、会議が開かれたのだ。
「ウィル、ごめんね……」
マッチは、ウィルの顔を見ながらしょんぼりとした声で謝罪の言葉を口にした。
彼女の顔には、明らかに責任を感じている様子が表れていた。
いつもは自信に溢れ、開発に関しては天才的な才能を発揮するマッチだが、経営の面では彼女もまだ経験が浅く、不安を感じていた。
「私がちゃんと管理できていれば……こんな状況にはならなかったのに……」
ウィルは彼女の肩に手を置いて、優しく声をかけた。
「大丈夫だよ、マッチ。君が1人で全部やる必要はない。経営なんて誰でも難しいものなんだ。俺だって、こんな状況になってしまうのはわかっていた」
その言葉に、マッチは少しだけほっとした表情を見せたが、それでもまだ悔しそうだった。
「でも、ウィルは……いつも完璧に見えるから、私も頑張らなきゃって思ってた。手が回らなくなるなんて……どうしようって……」
「君が落ち込む必要はない。今回のことで、どこを改善すればいいのか見えてきたんだ。俺が資金を調達しているから、当面は問題ない。それに、入出金管理を徹底してキャッシュフローを改善すれば、会社はまた上向く」
ウィルの冷静な言葉に、マッチは目を潤ませた。
「本当に……ありがとう、ウィル。いつも私を支えてくれて……」
彼女の目に涙が浮かんでいた。ウィルはそっと微笑んで、彼女の頭を優しく撫でた。
「俺たちはチームだ。お互い助け合って前に進もう。それに、君がいてくれれば、俺も安心して他のことに集中できる」
マッチは涙を拭きながら、ウィルの言葉に応じて笑顔を見せた。
「うん……ウィルがそう言ってくれると、少し楽になれる」
「よし、じゃあ次に進もう。まずはアイ監修のもと、研修制度をしっかり整備して、教育にかかるリソースを減らそう。それができれば開発チームにリソースを回せるようになる。研修の内容も、それぞれの能力や性格に応じて柔軟に対応できるようにパッケージ化して公開するんだ」
ウィルの言葉に、マッチは再び頷き、気を取り直した様子を見せた。彼女の表情には、前向きな決意が戻ってきていた。
「分かった。ウィルの言う通りに進めてみるね」
ウィルは頷き、次に自分の報告に移った。
「さて、俺の方も商談は無事に成立した。魔王軍との契約も、100億コルでまとまった」
「100億コル!?」マッチは驚いて目を見開いた。
「どうやってそんな大きな金額を……」
「いくつか条件をつけたんだ。軍の技術開発は魔王軍に先行公開すること、企業も魔族狩りの討伐に参加できるような制度を作ること、そして魔京都のインフラ整備も俺たちが担当することにした。それで合意に至った」
「でも、どうして企業も魔族狩りに参加できる制度を作るの? 軍だけでいいんじゃない?」
「軍だとコストがかかりすぎるんだ」とウィルは冷静に答えた。
「例えば、魔族狩りにやってくる冒険者の数は4〜12人の部隊だけど、魔王軍は小隊単位で30〜60人規模。1人あたりの費用が40万コルだとしても、最大で2400万コルかかる。そこに食糧や移動費も加算されるとなると、さらにコストが膨れ上がる。だから、企業の力を借りて戦力を補完し、軍の負担を減らした方が効率がいい」
「なるほど……それなら、企業も協力するメリットがあるわけだね」
「そういうことだ。次に技術の優先公開についてだが、これも重要だ。軍が新しい技術を先に試してくれれば、俺たちも品質を確認してから一般公開できる。軍には、常に最新の技術を使ってもらうというメリットがあるから、互いに損はない」
マッチはその説明に納得したように頷いた。
「インフラ整備についても同じだ。魔京都は安全性に不安がある。魔王様との対話で、勇者がまだ存在していることがわかったんだ。勇者は魔王よりも強い。だから、この都市の防衛力を強化することが必要だ」
「それで、インフラ整備を……」
「そうだ。マッチが安心して働ける場所を作りたいというのも理由の一つだよ」
マッチは少し驚いた表情でウィルを見つめた。
「ウィル……」
彼女が言いかけたが、少し躊躇するように口をつぐんだ。
「どうした?」
ウィルが優しく問いかけると、マッチは少し迷いながらも口を開いた。
「ウィルは……魔族全てを救おうとしているの?」
ウィルはその問いに笑いながら答えた。
「いや、全然そんなつもりはないよ。俺は自分の目的を達成するために動いている。できることは限られているし、俺が助けたいのは俺にとって大事な人だけだ」
「じゃあ、もし私が危ない目に遭ったら……」
「マッチだけは特別だ。必ず助けに行くよ」
ウィルの言葉に、マッチは少し照れながらも安心したように笑顔を浮かべた。
「ありがとう、ウィル……」
こうして、会社の危機を乗り越えるための具体的な対策がまとまり、ウィルとマッチの会議は無事に終わった。2人は新たな希望を胸に、次のステップへと進む準備を整えた。




