13話 魔王との対談
ウィルは、見本市での魔王との対談の機会を得た後、魔王城へと足を運んでいた。
魔京都の中心に位置するこの城は、周囲の混沌とした町並みを完全に支配するようにそびえ立っている。巨大なビルのようなその建物は、まるでこの世界全体の支配者であることを誇示するかのように、異様な存在感を放っていた。
街の喧騒を遠くに感じながら、ウィルはその巨大な門をくぐる。門を通り抜けた瞬間、周囲の空気が一変した。温かさや活気は一切感じられず、代わりに冷たい緊張感が張り詰めた。その雰囲気は、まるで現代の超高層ビルと中世の古城が融合したような荘厳さを持ち、見る者の心を圧倒する。
建物の外観は未来的なガラスと金属で構成されているが、その中には歴史の重みを感じさせる石造りの要塞が隠れている。鋭くそびえ立つ塔や尖塔は空へと突き刺さるように伸び、夜空に不気味なシルエットを描き出していた。城壁に刻まれた魔王の紋章は、冷たいメタルの光沢を帯び、かすかに反射する街のネオンがその周囲を彩っていた。
ウィルは門を抜け、中庭に足を踏み入れる。そこには最新技術で強化された警備が張り巡らされており、巨大なスクリーンには魔族の統治する様子が絶え間なく映し出されている。石造りの像や彫刻は、デジタルエフェクトと融合し、魔王の圧倒的な力を具現化していた。威圧感に包まれた中庭を進むと、空気の冷たさと共に緊張感が一層高まっていく。
中庭を越え、いよいよ城内に足を踏み入れる。そこは暗闇に包まれた廊下が延び、壁には古代の戦いを描いた映像がデジタルタペストリーとして映し出されている。巨大なスクリーンや浮遊するホログラムが空中に戦況を描き、過去と未来が交錯する独特の空間が広がっていた。
「異世界に来た実感というものをヒシヒシと感じるよ」とウィルは呟く。
『物語で出てくる魔王城のイメージはこれですみたいな感じだね。THEっ魔王城!!』とアイが軽やかに声を弾ませた。その無邪気な言葉が、かえってこの異様な空気を際立たせていた。ウィルは心の中で突っ込みを入れる。
(いや、これもうSFの世界に片足突っ込んでるだろ)
内心で自分自身にそう突っ込むものの、目の前の光景はそれほど現実離れしていた。魔王城に足を踏み入れた瞬間から、緊張の糸が張り詰める。アイが能天気に喜んでいる中、ウィルの胸の奥には明らかなプレッシャーがあった。
自分の意見を相手に伝えるのは簡単だ。だが、相手が「魔王」となれば話は別だ。単に話すだけでなく、相手の意図を汲み取り、うまくお願いを聞いてもらうというのは至難の業だった。
だからこそ、この場にいること自体がウィルにとってはかなりの緊張を強いる。魔王に何かを頼むのは、想像以上に神経をすり減らすものだ。
しばらく待っていると従者がやってきて「魔王様の準備ができました」と知らせてくれた。
従者に連れられて王座の間へと足を運ぶ。
王座の間には、魔王様を補佐する四天王が左右それぞれ2人ずつ配置されており魔王様の護衛をしている。
中央には魔王トゥデイが鎮座しており、彼女の風格にふさわしい豪奢なもので地位と尊厳を象徴していた。
「ようこそ、我が城へ」
「この度はこのような場に呼んで頂き誠にありがとうございます」
膝をつき最上級の敬意を払う。
「よい。表を上げろ。今回は対談が目的だ。堅苦しい挨拶はもうやめよう」
魔王トゥデイが魔法を行使する。
指の僅かな所作で血の椅子を作成した。
「そこに座れ」
血でできている椅子は座り心地が快適であった。
座面は柔らかで体に優しくフィットする。
背もたれは適度な高さがあり、長時間座っても疲れにくい設計となっていた。
魔王トゥデイは端的に要件を伝える。
「そなたが作成したデバイスを軍で試験的に導入したい件についてだ」
「どの程度のデバイスを用意すればよろしいですか?」
「ウィルよ。我軍の状況をわかっているのか?」
「街の魔族達から噂を少々聞いています」
「なら話は早い。現在、都市周辺で魔族狩りをする冒険者達が頻発している。軍として治安維持をする立場にありながら恥ずかしいことに対処できていない」
「魔王様は原因は何にあるとお考えですか?」
「人間の魔術技術と勇者の誕生に原因があると考えている」
「勇者ですか?」
「そうだ。元々この世界には人間も勇者も存在しないものだった。しかし100年前に現れるようになってからはご覧の通り魔族狩りが横行し始め魔族の住む生存圏は奪われ続けている」
勇者の存在をどの程度みているか知りたくなったウィルは不躾とわかっていながらも質問した。
「魔王様と勇者が対峙した場合、魔王トゥデイは勇者に勝利することは可能ですか?」
少し沈黙の間があったが魔王は返答する。
「現状では100%負ける」
魔王の周りにいた配下、四天王共々驚きを見せる。
自分たちのトップが負けるという回答をすることはすなわち、この都市は滅ぶと言っているようなものだったからだ。
「最後にお聞きしたいことがあります」
「魔族狩り、勇者は少数精鋭で動いていますか?」
「そうだ。勇者は基本3人パーティで行動している。魔族狩りは4~12人で行動していることが多い」
「わかりました。ではデバイスを提供するにあたっての詳細を詰めましょう」
デバイスの提供に関する詳細は次のように決まった。
デバイスの提供から、軍が運用できるようになるまでの育成などを含めた一連のサポートを100億コルで買い取ってもらう契約が成立した。
1万人に対して10万コルでデバイスを売っても10億コル、仮にサポートを含めても12億程度にしかならない。
それでも、100億の契約に至ったのは、ウィルが交渉においていくつかの条件を盛り込んだからだ。
ウィルが提示した4つの条件は以下の通りだった。
1. 軍だけでなく、企業も魔族狩りの討伐に参加できる制度をウィル&マッチカンパニーが提案し、実現すること。
2. 戦闘用の技術開発について、魔王軍に先行公開すること。
3. 魔京都のインフラ整備をウィル&マッチカンパニーが請け負うこと。
4. 魔王トゥデイとの対決。
この4つ目の条件――魔王との対決をなぜウィルが求めたのか? それは魔王トゥデイの実力を自分の目で確かめ、アイに解析させてさらなる成長の可能性を探りたかったからだ。
そして、同時に自分自身の力がどこまで通用するのかも知りたいという理由があった。
こうして、ウィルは無事に商談を終え、事務所へと帰った。




