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魔族IT革命  作者: 白樹春來
魔京都 会社設立編
12/68

12話 見本市開催

 本日の天気は快晴、見本市を開催するには絶好の日和となっていた。


 朝早くから、ウィルたちは新開発されたデバイスを会場まで運び込んでいた。


 カンパニーのブースでは、買収した企業を含めた多くのスタッフが準備に追われ、みなが忙しそうに動いていた。


 そんな中、少し眠たそうな顔をしたマッチが、ゆっくりとウィルの方へ歩いてきた。


「ウィル、おはよう」


 まだ半分夢の中にいるような声で、ぼんやりとした挨拶をするマッチ。


 その様子に、ウィルは苦笑いを浮かべる。


「マッチ、おはよう。まだ寝てても良かったんだぞ」


 ウィルのプレゼンは午後からであったため、午前中は特にすることがなかった。


 それなのにマッチは、朝早くから会場に来てくれていたのだ。


「うん、でも……ウィルと一緒にいたくて」


 マッチは少し頬を染めながら、言葉を紡いだ。


 甘えたい気持ちが隠せないその表情に、ウィルは一瞬言葉を失うが、すぐにふわりと微笑んだ。


(そうか、マッチはそう思ってくれてるんだ)


 ウィルはそんな彼女の気持ちを尊重し、変にからかったりせず、穏やかな声で提案した。


「じゃあ、午前のプレゼン、一緒に見ようか?」


 マッチは嬉しそうに頷き、ウィルと一緒に会場の椅子に座った。


 プレゼンが始まると、ほとんどが軍部向けの製品で、内容も堅苦しいものばかりだった。


 全顧客向けの製品は少なく、プレゼンも単調で眠気を誘うものが多かった。


 ウィルはふと隣を見ると、マッチがスヤスヤと心地よさそうに眠っていた。


 無防備に眠るその姿は、天使のように可愛らしかった。彼女の寝顔を見ながら、ウィルは心の中で微笑む。


(無理して起きてたんだな……)


 マッチの柔らかい髪にそっと触れたい衝動に駆られたが、周囲の視線を気にして思いとどまる。


 代わりに、そっとブランケットを彼女の膝にかけてやった。


 午前のプレゼンが終わり、ウィルはプレゼンの準備をするため、マッチを優しく揺り起こした。


「マッチ、起きて。もうすぐ俺の番だから、準備してくるよ」


 眠たそうに目をこするマッチは、ほんの少し名残惜しそうにウィルを見上げたが、すぐに微笑んで頷いた。


「うん、ウィル、頑張ってね」


 準備を進めるウィルのもとには、アカヤとその仲間たちが訪れ、挨拶を交わす。


 その合間にも、時間はどんどん過ぎていき、あっという間にプレゼンの時間が迫っていた。


『ウィル、頑張ってね』


 アイが、いつものようにウィルを励ましてくれた。


 ウィルはその言葉を聞いて、ふと深呼吸をした。プレゼンを前に、少し緊張感が漂っていたが、アイの声は彼にとって、落ち着きを取り戻す助けになっていた。


 気持ちを整えながら、ウィルはゆっくりとステージの前へ向かう。


 ウィルは、ステージに立つとプレゼンの最初に一礼をし、会場の聴衆に目を向けた。


 少し緊張感が走るものの、ウィルの表情には確かな自信が漂っている。彼は心の中で深呼吸し、話を始める。


「皆さん、こんにちは。ウィル&マッチカンパニーの企業代表者、ウィルです。この見本市には初参加となりますが、皆様にとっても特別な一日になることをお約束します。今日は、未来を変えるためのデバイスをお見せします」


 彼は聴衆の反応を見ながら、間を置いて続けた。


「今日集まって頂いた皆さんは、とても幸運です。なぜなら、この場で発表する製品は世界を一変させる革命的なアイテムだからです。あなたの望みを叶えるためのツールとして、このデバイスは生まれました。私は、今ここに、新しい時代をもたらしに来たのです」


 ウィルの言葉に会場がざわついた。期待と疑念が入り混じり、ざわめきが聞こえてくる。それでもウィルは動じず、新製品を取り出し、会場に向かって掲げた。


「この製品の名前は『MatchDevice』です。すべての人にぴったりのデバイスという意味を込めて命名しました。このデバイスは、あなたが望む機能を選び、数秒でそれを学習して実行することができます。例えば、もっと強くなりたい、もっと知識を得たい、そんな願いがあれば、このデバイスがそれを可能にします」


 聴衆の中には、あまりに壮大な話に半信半疑な者も多かった。ざわめきがさらに大きくなったが、ウィルは微笑みながら続けた。


「実際に試してみましょう。今回は、ブースで抽選に当選された方々に協力いただきます。番号A19F、G10Aの方、どうぞステージにお上がりください」


 ステージに登壇したのは、少年と着ぐるみ姿の大人だった。ウィルは彼らにそれぞれデバイスを渡し、指示を出す。


「怪力拳という拳法を知っているかい?」とウィルが少年に尋ねると知らないと答え、着ぐるみ姿の大人は「知っている」と頷いた。


「それでは、このデバイスで怪力拳をインストールしてみましょう」とウィルが言い、デバイスのチュートリアルを通じて、少年にその技を習得させた。


 少年がデバイスを起動し、目を数秒間閉じると、デバイスが彼の仮想記憶に知識を直接インプットしていく。


 目を開いた少年は、驚いた表情でウィルを見る。


「理解できたかい?」


「うん、わかった」


 ウィルは少年に向かってお願いする。


「じゃあ、その技を少し会場の皆さんに見せてあげて」


 少年は基本の型を見事に再現し、完璧なフォームを聴衆に披露した。


 立ち方、腕の位置、重心の使い方……すべてがプロフェッショナルのように洗練されている。


 聴衆の中にどよめきが走る。誰もがその瞬間、ウィルの言葉の真実味を感じ始めていた。


「見てください。このデバイスを使えば、飛躍的に能力を向上させることができるんです。圧倒的な学習速度により、誰もが自分の持つポテンシャルを最大限に引き出せます。デバイス自体はまだ成長途中ですが、これからさらに進化を続け、皆さんの未来を切り開く鍵となるでしょう」


 ウィルは一呼吸置き、会場を見渡した。


 そして、最後に価格について説明する。


「通常価格は20万コルですが、今日この場では特別に10万コルで提供いたします。さらに、当社では共同開発や受託開発も承っており、サポート体制も充実しています。また、弊社では社員を募集中です。条件付きにはなりますが、社員になってくれた方にはデバイスを無償で提供いたします」


 会場の空気が一気に引き締まり、ウィルが話し終えると、一瞬の静寂が訪れた。


 だが、すぐに大きな拍手と歓声が沸き起こり、聴衆は立ち上がり、無限の可能性を祝福するように手を打ち鳴らした。


 ウィルのプレゼンは大成功を収めた。


 プレゼンが終わり、ウィルはブースの片付けを進めていた。


 聴講者たちの興奮がまだ周囲に残る中、ウィルはスタッフと共に手際よく撤収の準備を進めていた。


 ふと、誰かが近づいてくる気配を感じ、顔を上げると、先程ステージに登壇してくれた着ぐるみ姿の大人が立っていた。


「ウィルさんですね。先程は素晴らしいプレゼンでした」


 ウィルは笑顔で応じた。


「ありがとうございます。こちらこそ、登壇して頂き助かりました」


 軽く挨拶を終えた後、ウィルは気になっていたことを口にする。


「その姿だと、誰か分かりにくいですね」


「あぁ~すまない」と着ぐるみは言って、いわれて初めて気づいたかのように、少し照れた表情を見せる。


 彼女は着ぐるみの頭部に手をかけ、ゆっくりと外し始めた。


 その瞬間、着ぐるみの中から美しい金髪が解き放たれる。


 金色の髪はまるで絹のように柔らかく、背中まで流れ落ち、その輝きは周囲の空気さえも変えるかのように見えた。


 艶やかな髪の奥から現れたのは、圧倒的な存在感を持つ女性の顔。


 彼女の妖艶な赤い瞳がウィルを見据え、まるで周囲のすべてを支配しているかのような威圧感を放っていた。


「はじめまして、私は魔京都全般を運営管理している魔王トゥデイだ」


 彼女は凛とした声で名乗った。


 その名を聞いた瞬間、ウィルの胸には驚きが走ったが、それを表に出すことはなかった。


 魔王がこの場にいるとは、しかも着ぐるみ姿で登壇していたとは、誰も想像できなかっただろう。


 だが、彼はすぐに冷静さを取り戻し、そのまま彼女の視線を真っ直ぐに受け止めた。


「魔王トゥデイ様……お会いできて光栄です」


 だが、ウィルは驚きながらも、すぐに表情を整え、冷静に返事をした。


「プレゼンを見させてもらった。デバイスの機能は非常に興味深い。軍で試験的に導入することを検討している。魔王城で詳しく話を聞かせてもらえるだろうか?」と、彼女は躊躇することなく本題に入った。


 ウィルは一瞬間を置き、これは予想外のチャンスだと感じた。


 彼女の言葉は、ただの興味ではなく、真剣に軍での導入を検討しているというものだった。


 大きな商機が目の前に広がっている。


「もちろんです。詳しくお話をお伺いしたいと思います」


 ウィルは丁寧に応じ、魔王トゥデイとの会話がこれからの新たな展開に繋がることを確信していた。

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