幕間
――そこは花の咲き乱れる虚ろだった。
虚ろのなかにガラスの棺が置かれ、男がひとり横たわっている。
生気のない顔、月明かりによく似た髪の色。手を胸の前で組んで眠りにつく男を覗き込むふたつの影があった。
「そろそろあなたの出番のようですよ」
「……ふん」
黒衣に身を包んだ二人組。ひとりは二つ尾の猫を抱き、もうひとりはアッシュグレイの毛並みの狼を従えていた。
「……終わりが近いな」
狼を従えていた方の黒髪の男が言うと、猫を抱いている銀髪の男が「縁起でもない」と大仰に驚いて見せた。
「俺たちのように終わらせはしないさ。――そのための、彼、なのだから」
銀髪の男、その黄金を宿した目が眠る男を見遣った。彼の寂しげな眼差しに、黒髪の男が舌打ちをした。
「……そこまでして復讐してえ、か」
黒髪の男の物言いを、「違うよ、影嗣」と銀髪の男が否定する。
「あ?」
「復讐というのも、もちろんあるだろうけど。……でもそれ以上に」
「それ以上に?」
「……」
「おい、なんだ。そこまで言ってだんまりかてめえ。――おい、皇龍」
黒髪の男の催促を聞いてか、銀髪の男は閉じていた口を再び開いた。
「……愛していたんだよ、彼女を」
風が吹き抜け、花びらが舞う。
ガラスの棺にヒビが入ったのは、それとまったく同時であった。




