Ep.24「All for you.」
手首につけた端末から耳を離した。
――ありがとう、ネウ。大好きだよ。
未だかつて僕に向けて言われたことのない言葉。でも、その声には清らかなやさしさしか含まれていない。ならば許容してもいいだろう。
甘く響くようなそれだったら、僕は遊兎都の知らないところで猫にお仕置きをしなければならないところだった。
でもそうじゃない。一安心だった。
猫のことを遊兎都はとても大切にしているから、お仕置きしたら怒られてしまうかも。
ああ、でも――いいな。あの子の怒った顔も悲しむ顔も、どちらも見てみたいと思う。
どんな感情も、あの子が見せるときらきら輝いていて、きれいだから。
捨てられないなら、それくらい望んでもいいかな。
「……」
眼前を見据えた。首吊り縄を武器にした藪中太宰という男。着流しを纏う痩せこけた頬の彼は、愛に飢えた彼を想像させる。
首吊りの縄は彼の本心だろうか。逃れたい思いが、逃れられないと思う確信が、彼の首を括っているのかもしれない。
死んでしまうのは、きっと悲しい。だって彼は唯一無二の、僕の家族だから。
「うぅん……? 小生の人生は常に失格しているが……どうも君もそうらしいな」
「……失格、か」
出来損ない。成り損ない。挙句、身代わり。
彼はずっと縛られ続けている。僕という鎖に、親という檻に。
解放してあげたいと思う。けれど僕にはそれよりもずっと大切な役目がある。
「……あの子は僕を暗闇から救ってくれた」
やさしい光が僕を見つけて笑った。
あの時、僕は初めて他人というものを認識して、そして恋した。
あの子のためなら、いくらだって手を汚す。
家族だって、殺すことになったら躊躇うことはないだろう。
あの子を守るためなら、あの子のためなら、なんでもする。
僕は何度もしてきた覚悟と共に、拳を握った。




