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おまけ

capriccioさまのお題「いろはにほへと」から千代に変わらぬというお題のおまけです

 宮奥でひそやかに育てられたという王女の輿入れ行列を、国民は静かな熱狂をもって見守っていた。

囁き声が聞こえる中、行列はしめやかに進んでいく。

それは、花嫁行列が本来持つ華やかさとは縁遠い雰囲気であった。

民は皆、王女を待ち受けている運命をある程度想像しているからだ。

平穏であるはずはない。

彼女は、人質としてかの国へ差し出されるのだから。

さんざん苦渋をのまされた隣国への印象は、いいはずもない。

残虐な王、それに忠実な兵士たち。

行列を見つめる民らの目には、憐憫と安堵という複雑な色を映し出していた。

長い歴史の中、どれほどそれを誇りに思おうとも、彼らはその象徴とも言うべき王族を差し出さなければならないところまできてしまったのだ、と。

そして、その行列を小高い丘の上より見下ろす一人の男がいた。




「……さま」


本人すら聞こえぬほどの音は、すぐさま空気へ溶け出し消えていく。

一人きりで立つその男は文官風の衣類を身につけた、身分の高そうな青年であった。

彼の右手には柔らかな布が握られている。

それは婦人の首元を美しく飾るべき布であり、彼が手にするにはいささか不似合いである。ましてそれをしっかりと握り締めているとあればなおさらだ。

彼が見つめている間にも、行列は粛々と進んでいく。

人の姿が徐々に小さくなっていき、担がれた輿すらかすみ始める。

彼はただ、影すら見えぬ行列を見つめ続けていた。




 どれほど時がたったのだろう。

彼は今一度手に持ったものを握り締め、そしてそれを綺麗にたたみなおした。

柔らかな布の感触を確かめるように右手で一撫でした後、振り返りもせずに彼の主の下へ去っていった。


 英邁な王子の忠実な側近は、生涯を独身を通すこととなった。

どれほど周囲が縁談を勧めようとも、その首が縦に振られることはありはしなかった。

彼が忠誠を誓ったものは二人。

主である王子と、あと一人の名は、誰も知らない。

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