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バロック

作者: 噺 角蔵

 君と出会ったのは、高校2年の時だった。いや、正確に言うと、出会った、わけではない。一方的に君を知っただけ。

 君は雑誌を彩り、かつ、仲間と楽しげに音を奏でていた。私はすぐに君の虜になった。美しく、キラキラした世界にいる君は、孤独な戦場で疲弊している私を虜にするには充分過ぎる程魅力的だった。

 まだインディーズとして活躍していた君の声を必死にCD屋で探し求め、君が載ってる雑誌を買い漁った。今で言う、推し活。

 お気に入りだったのは、歌詞非公表の「baby」。優し過ぎるメロディーの上に君の優しい声。その曲は、幾度となく、私の枕を濡らし続けた。

 そして、初めて行ったインディーズ時代のラストライブ。乗りに乗っている君は、後光が差しているかのように美しかった。

 高校を卒業し、大学入学を期に家を出た。勿論、君の歌声を一緒に連れて行った。

 しかし、大学生活は忙しく、中々君の声を聴く暇も余裕も与えてくれない。その間、君はメジャーデビューを果たし、また、グループを変えて歌っていた。その頃には、もう君の声を聴きながら枕を濡らすことは無くなっていた。

 そこから数年が経った後、君が精神的な病気になったと知った。同時に、乗りに乗っている、と思っていたあの瞬間に、君が眠れなくなっていたことも知った。順風満帆、永遠のガキ大将だと思っていた君が、まさかそんな病気になるなんて、と驚いた。

 それでもその時はネットの記事を読むだけで、対して気にはしなかったと思う。何故なら、自分のことでいっぱいいっぱいになっていたからだ。自分の心も体も、長いこと孤独な戦いをしていたためか、もう限界だった。もう、君の歌声を聴くこともないだろう、青春時代にハマった人、という括りで終わるのだろうと、その時は思っていた。

 でも、結果は異なった。大学卒業後、数年が経ったある日、そう言えばどうしてるのだろう?と、ふと君のことを思い出した。ネットで調べると、元のグループに戻っていたこと、君が精神的な病気をしている時の本を出版したことなどの情報が手に入った。

 懐かしさのあまり、最近出したCDと、君の執筆した本を購入した。美しさと歌声は変わりなく、しかし大人になった君は、以前とは少し変わっていた。どっちの君も好きだったので、そのまま再度、君の魅力にハマっていった。昔の様に雑誌を買い漁りはしなかったが、陰ながら応援していた。SNSでフォローもしていた。それなのに…。


 君は私の前から、否、芸能という場所から姿を消した。

 もう二度と君の声で新曲が聞けない。あのグループのボーカルは、君じゃないと成立しないのに…。


 もし、君がこれを読んで、何かを感じてくれたら嬉しい。これはボーカリストの君へのラブレターだ。君の声じゃなきゃいけない。あのグループも、もう一つのグループも。君が歌わないと意味がない。

 昔のライブ姿を見ると、悲しくなる。もっともっとドキドキさせてくれるんじゃなかったのか? と問いただしそうになる。違う。もっともっとドキドキさせて欲しかった。君の声で、君の作った歌詞で。

 本当は、歌わなくなった君を応援しなくちゃいけない。もう年齢も若くない君は、これからまた1から別の仕事をスタートしなければならないのだろうし。きっと歌っているより苦労は大きいと思う。また病んでしまうかもしれない。それでも、その道を選んだ君を応援しなくちゃいけない。ファンならばそれは当然かもしれない。

 でも、どうやっても出来ないんだ。君がまたマイクを掴んでくれる未来を、どうしても諦めたくないんだ。

 また、君の声が聞きたい。メロディーに合わせて踊る君の声を、まだまだ聞いていたい。

 そしてまたライブに行って、おかえりって言いたいんだ。

 キャラメルでも、ドロップでも、どっちでも良い。口の中でゆっくりゆっくりそれらを溶かしながら、ずっと待ってるよ。

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