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国王陛下、親子ってそっくりですわね。

誤字脱字等あれば報告いただけると嬉しい限りです。

 絢爛豪華。

 その言葉が似合う王宮の廊下を歩く。美しい装飾品。壁画。よく掃除が行き届いているようで埃の一つもない。

 でも、私はこの場所が嫌いだ。そのキラキラした雰囲気とは裏腹に起きているのは胡散臭い貴族の見え張りごっこ。足の引っ張りあいは見ていて心地よいものではない。

 それに、ここの持ち主が私が来るのを拒んでいるように思えた。嫌味なほど輝く装飾。実際に拒んでいるかは別として、だが。



「ここはいつまでも変わらないわね。」


「ですね。やっぱり血筋というのは考え方も似るんでしょうか。」


「そうしたら私も同じになるのだけれど…まぁいいわ。」



 レイは生意気だ。年頃だから仕方ないと理解はしている。私の甥。彼からすれば私は伯母にあたる。

 ちなみに、ギルベルトにとって私は父の妹だから叔母。レイにとって私は父の姉だから伯母である。

 レイの父…私の弟が婿入りした家の三男がレイだ。私が結婚する気配がしないからせめて跡継ぎだけでも、とレイが養子となった。養子とはいえ私は彼のことを息子だとは思わないし、彼も私を母とは思わない。そういう、ふわっとした関係なのだ。



「はぁ…それにしてもあのバカ王子。ルーシェン嬢との婚約を破棄しようだなんて。皆様の前でああ言ってしまった手前、冗談でしたでは済まされないもの。」


「クロリス様。王宮で王子にバカを付けてはいけないのでは?誰に見られているのかもわかりませんし。」


「別にいいのよ。もうここは王家の居住区域。王家の許可した者が親族しか入れないもの。」


「…それ先に行ってくれません?確かに人が少なくなって来たとは思っていましたけど…」



 嫌そうな顔をしているレイ。淡々と言う私に不満があるようだ。でもそうする以外の方法を私は知らない。

 私だって嫌なのだ。王家の身分を捨てているのにここに入ることは。レイを巻き込んだのは一人で来たくなかったのもある。



「さあ、この国の国王陛下に謁見するわよ。恐らく既に知っているでしょうけど。」



 無駄に広い廊下を歩けば一番奥の部屋へと辿り着く。一層装飾の華やかな部屋。国王の執務室だ。


 コンコン。と控えめに扉を叩くと反応がない。仕方なくドンドンと思いっきり叩いてやった。



「どうぞっ!全く…どうしてこう野蛮なんだ、私の妹は。」


「あら、私はお兄様の妹ですから。喧嘩で国宝の花瓶を割ったのは誰だったかしら?」



 怒ったような声。私は中から聞こえる声にくすくすと笑いながら返した。嫌味だなぁ…と呟く人物はこの国の国王であり私の兄だ。レイが後ろで引き攣った笑みを浮かべているのが見えたが無視する。



「…で。前置きは必要ないだろう?要件を聞こうか、クロリスよ。」


「陛下もご存知でしょう?貴方様のご子息が起こした騒動について。まるで若き頃の陛下を見ているようでしたわ。」


「あの時とは状況が違うだろう!私が恋心を抱いたのは他国の姫だった。妃にするには申し分ない身分だったのだ。」



 レイが驚いた顔をしていた。知らないのも無理はない。貴方も表情は隠さないとダメよ、と小声で声をかけておく。

 目の前にいる男、私の兄と甥であるギルベルトは似ている。容姿だけでなく性格までも。まさか同じ事をするとは流石に予想してなかった。呪われてでもいるのかと思うくらいだ。



「とにかく!前のような奇跡が何回も起きるとは限りませんのよ。平民出身の男爵令嬢が隣国の姫君だった、なんてこと二度も起きません。そして起きたとすればもうお祓い行きましょう」


「お祓いって何だそれ…?まあそうだな。息子の相手がただの令嬢であることはわかっている。だがどうする?ルーシェン嬢もあそこまで自分を否定した相手と結婚などしたくないだろう。」


「ええ。それもそうですが、もう一つ気になる事がありますの。ティファーレ男爵家。古くから存続しているとはいえ、令嬢が着ていたドレスは華やか過ぎた。領地経営だけをしているお家の御息女には見えませんでしたわ。」


「確かに、あの量の宝石。殿下が買ったと思っていましたが…」


「違うわね。殿下が買うと思って?国民の税だと知らずに散財しまくって小遣い制度すら失った者が。」



 レイが会話に参加してきた。流石私の自慢の甥。王子が小遣いを止められた、と聞いて陛下は苦い表情を浮かべた。



「あの時はラフィの反対がすごかったな…まさかラフィが金を出して…!?」


「それもあり得ませんわ。王妃殿下は金銭感覚はちゃんとしていますもの。他の者にお金を使うと?」


「お前の中のラフィの評価も相当だな…。言い方は悪いが事実だ。それに彼女も男爵令嬢と親しくしているのには何色を示していた。あれでも賢い者だ。自分の誤ちを繰り返してはならないと悟ったのだろう。」



 私は王妃殿下、お義姉様が嫌いなのだ。彼女が王妃になった時には国が危うかった。私も政略結婚という名の他国への人質にされそうなほどだったのだ。それに彼女と揉めるのはごめん被りたい。良くも悪くも狡賢く疲れる。



「じゃあ、ティファーレ嬢のドレスは実家からの仕送りなんですね。あれ、でもティファーレ領って…」


「そうよ、レイ。あそこの領地は最近経営が怪しいの。だからドレスを買う余裕なんてないはずなのよ。でも、」


「ティファーレ嬢は自前のドレスでしかも豪華なドレスを用意してきた、と…」



 ふむ、と陛下がまとめた。陛下もやっと怪しいと思い始めたようだ。本当に鈍感。でもそれで国は安定しているのだから才能はあるのだろう。



「そこに関してはこちらでも調べるが、お前の“宵闇”にも調査を頼めるか?」


「いいですが、彼らは今休暇中ですのよ。動かすのは私でも躊躇いますわ。」



 正しく言えば、半分が休暇中なだけだ。もう半分はバリバリ働いてくれている。でもそれを言うつもりはない。



「それでもだ。お前も気がついているだろう。ティファーレ男爵家が不正をしている可能性に」



 先程とは違う重い言葉。ええ、と私は短く返事した。不正、正しく言い換えれば他国への横流し。国家反逆と捉えられてもおかしくない行為。



「流石。やっぱり貴方には才能がありますわ。」


「まさか試したのか?私も何年も国王をやっているのだ。そのくらいはできる。」


「クロリス様…。」



 レイにじとっとした目で見られる。まるで、「国王を試すのはどうかと思いますが」と言われている気がした。う、と思ってしまうあたりつくづく私はレイに弱いのだろう。

 可愛い弟にレイはよく似ていた。


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