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ありがちな展開と前日談

誤字脱字等あれば報告いただけると嬉しい限りです。


 最初に言おう。

 これは無茶苦茶な命令による私の受難である。



「王子とティファーレ男爵令嬢の婚約は保留とする。また、王子とティファーレ男爵令嬢は貴族としての責務を学ぶ為、我が妹であり太公であるクロリス・アルカディアの元で生活することとする。期限は問わない。彼らの貴族としての自覚が沸くまでである」


「……は??」



 あんまりではありませんこと、国王陛下(おにいさま)





 ◇




「ルーシェン公爵令嬢!!君との婚約を破棄させてもらう!」



 ホールに響き渡るほどの大声。声の主は階段の上にいた為、すぐに夜会の参加者の視線は釘付けになった。

 今宵の夜会は第一王子の誕生日パーティー。主役である筈の王子がなかなか現れず、婚約者であるリコリア・ルーシェン公爵令嬢が一人で現れた時には会場内にどよめきが走った。翠色のドレスは王子の目の色に合わせたのだろうか。Aラインのドレスはスタイルの良い彼女によく似合っていた。


 そして主役がようやく現れたかと思えば、こんな事を言い出す始末。本当に、王妃殿下が育てられたと聞いているけれど、どんな教育をされたのだか。突然の王子の暴挙に感情を見せずに佇んでいる公爵令嬢の方が好感は強い。

 貴族はどんな時も隙を見せてはならぬ。だが、今の王子にはそんな教えすら頭から消えているようだ。むしろ、その澄ました態度が気に食わないと言わんばかりの顔をしている。わなわなと怒りに震えて、少々危険にも見えた。


 それにしても、と私は王子の隣にいる娘に視線を向けた。一体どこのお嬢様だろうか。小柄で可愛いらしい、まるで小動物のようだ。心配そう、でも嬉しそうな感情をそのまま表情に露わにしている。



「あのご令嬢、レイはお知り合いかしら?」



 そっと本日エスコートしてくれていた甥の耳に囁く。甥、レイは王子達と同じ学園に通っている。王子が外に出る機会は少ない為、一番身分の異なる者と関わるのは学園だと推測できた。ならレイも知っているだろう。



「ああ、最近王子達と一緒にいるご令嬢。名前は確か…ベラ・ティファーレ様。男爵系の遠縁で後継ぎの為養子になられたとか。」


「ティファーレ、ねぇ…随分とはしたない格好をしているようだけど…あれが流行なのかしら?」



 古くからある男爵家だったか。最近は功績をあげる事もなく領地経営に勤しんでいると聞いていたが、それにしては娘である彼女のドレスは煌びやかだった。そんな金銭、何処から出たのだろうか。

 しかも、というべきか。至るところに宝石が散りばめられたドレス。見ているだけで目が疲れてきそう。スカートの丈も絶対領域をギリギリ隠すか、揺れれば見えてしまいそう長さをしている。



「ご夫人方がいい顔をしなさそうね…」



 ちらりと参加者の方を見れば、旦那様に連れ添ったご夫人方。扇で隠していらっしゃるが、明らかに眉間に皺が寄っていた。怖い怖い、と私は小さくため息を吐いた。

 周りを観察している内に、王子は切羽詰まってかルーシェン嬢へ迫っていた。



「お前がベラを虐めていることもわかっているんだぞ!さっさと認めたらどうだっ?」


「そんなことは断じてしておりません。殿下、私の話もお聞きとどけ…」


「ええい!お前の話になど興味がないわ!お前が認めれば済む話だ」



 ルーシェン嬢は堂々としているが、それでも微かに手が震えていた。それはそうだ。ありもしない事を認めさせられそうで反論もしたくなる。虐めなど彼女にする時間があるだろうか。公務を疎かにしている王子に比べて彼女は王妃教育に自分の公務、王子の公務までしているのに。



「…見ているこっちの頭が痛くなりそう。幾ら何でも暴論が過ぎるわ」



 証拠も証言もなしに詰め寄る王子は愚かとしか思えない。この場での身分が一番高い事もあり誰も注意ができないようだ。王子の後ろで怯えたように口元を手で隠すティファーレ嬢。ここからだと口角が上がっているのが見えていた。

 性格の悪いこと。あれではまるで王子が傀儡のようだ。ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる王子の姿は大義名分があるからああして大きく出られるのだろう。愛した女を虐めている相手を反省させる、という大義名分が。



「これ以上殿下のお言葉を聞いても、私はそんなこと一切しておりませんし、仮にティファーレ嬢が虐められていても無関係です!」



 張り上げられた声。大人しく令嬢の模範だと言われたルーシェン嬢にしては珍しい。よほど切羽詰まっているのだろう。

 言葉を終えると王子から離れ、会場から出て行こうとする。彼女がこれ以上ここに居る意味などないのだから。だがそう簡単に逃すつもりはないようだった。



「待て!?おい、誰かリコリアを拘束しろ!」



 王子は近衛兵に叫ぶように命じる。近衛兵達は迷いながらもルーシェン嬢へと近づいた。

 流石にまずい。王子はルーシェン嬢を罪人でもする気だろうか。私は仕方なく声をあげた。



「お待ちなさい!彼女を拘束することは私が許しません。」



 私が声をあげたことで会場内はざわついた。ティファーレ嬢の顔が歪んでいる。邪魔が入るとは思っていなかったのだろう。先程まで威勢のよかった王子の顔が一気に青ざめた。

 何故ならば、



「おっ、叔母上!?」



 私はそう呼ばれ、少し嫌そうな表情をしているだろう。

 まだそんな風に呼ばれる歳じゃないのに…と不貞腐れるように思った。


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