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5.アビゲイルの日記Ⅰ

 ──きっとあの頃がわたくしの人生で、一番に幸福な時間だったのだわ。




/




 わたくしは賑やかなお茶会やパーティーがあまり得意ではなかった。

 お茶会もパーティーも悪意がうずまいていて苦しくなる。ウィルソン家の弱みを探ろうとわたくしに近づいてくる貴族の大人たちや、取り入ろうとすり寄って来るその子どもたち──全てが気持ち悪かった。


 そして、そういった場では必ずと言っていいほどにわたくしの容姿を意地悪く指摘してくる人がいるの。

 お父様にもお母様も美しい黒髪をしているのに、わたくしの髪が紫色だから不義の子ではないかと囁いてくる。そういう人たちはわたくしが怒っても、冗談じゃない、と笑って済まそうとする。

 お父様に告げ口しようかと考えたけれど、お母様が姦通を疑われているなんて口が裂けても言いたくなくて──結局言えなかった。

 でも、向けられた悪意をわたくしは絶対に忘れないわ。

 



 お父様とお母様はわたくしが賑やかな場所が好きではないと気付いていた。

 そんなわたくしを気遣って、他者との交流はゆっくりと慣れていけば良いと仰ってくださったの。

 だからパーティーなどに顔を出す頻度を減らす代わりに、ウィルソン家の恥にならないように一生懸命に勉学に励むとお父様に約束したわ。

 お父様が各分野で著名な先生方を家庭教師につけてくださったから、学習する環境はとても整っていた。



 お喋りやダンスは全然出来ないからお友達はいなかったけれど、お勉強と、自由な時間は大好きな本を読んで過ごしているから寂しくはないわ。

 本に書かれているような、運命の人や、唯一無二のお友達への憧れはあったけれど……。

 



 ある日、お父様に今日は王宮に行く事になったと言われた。

 いつかわたくしの、誰よりも大切な人になるお方に会いに行くのだと言って──お父様は難しいお顔をしている。お父様の隣にいるお母様も、心配そうにわたくしを見つめていた。

 そして、そのお方の前で恥をかかないようにと、使用人たちの手によってわたくしは随分とめかし込まれた。

 レースがたっぷりのシルクのドレスは可愛いけれど、重たくて動きづらくて、早く脱いでしまいたい。




 わたくしはお父様に手を引かれてウィルソン家の家紋の施された馬車に乗り込んだ。

 ウィルソン家の家紋は、剣を背負う黄金の鹿でとても荘厳なの。この家紋を見る度に、背筋が伸びる思いがする。



/



 王宮に向かう馬車の中で、いつもは穏やかなお父様がどこか緊張していて、わたくしもつられて緊張する。そわそわと落ち着かないわたくしに気が付いて、お父様は髪型が崩れないように優しく頭を撫でてくれた。

 わたくしは嬉しくなって顔をほころばせる。

 優しいお父様が大好きで、比べられないくらいお母様も大好き。わたくしは、確かに幸福だったのよ。




 しばらくすると王宮に到着して、まるで権力を誇示するような絢爛な王宮の門が開かれる。

 揃いの制服に身を包んだ使用人たちが恭しく頭を下げて、お待ちしておりました、とお父様とわたくしを謁見の間まで案内してくれる。






 そして、その日わたくしは、運命の人に出会ったの。


アビゲイルの日記編です。

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