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後ほどお菓子と紅茶をお持ちいたします、と言って、シュリーは頭を下げ仕事に戻っていった。
部屋にひとりになったアビゲイルは、鏡の前で考える。
──この部屋に何かヒントになるものがあるかもしれない。……ごめんね本当のアビゲイル、少しだけ見させてもらうね。
心の中で本当のアビゲイルに謝罪をして、部屋の探索を始める。
手始めにクローゼットの中から探り始めた。まだ少女のアビゲイルには開く事がやっとなくらい大きなクローゼットで、中にはたくさんのドレスが納められていたが、衣服以外の物は何も入っていないようだった。
他にも大切そうに置かれているアクセサリーケースや、ベッドの裏なども見てみたが、特に気になる物は見つからない。
次に、アビゲイルがもの書きをしていたと思われるニーホールデスクのひきだしを開けてみる。デスクの上には使い込まれている事が分かる銀色の羽ペンが刺してあった。
ひきだしの上から順番に開けていくと、一番下の段に薔薇の模様が彫られた可愛らしい木箱がしまわれている。取り出して中身を見てみると、中には全て差出人の同じ手紙が大切そうに入れてあった。手紙の差出人の名前は、ゴーチエ・エバンズ──。
──「ゴーチエ・エバンズ」?
あっ! とアビゲイルは声を上げた。
「ゴーチエって攻略対象者の……! そういえばゴーチエとアビゲイルは婚約してたんだっけ……!」
ゴーチエの名前を見た瞬間、脳内にゲームの記憶が思い起こされていく。
──ゴーチエ・エバンズはこの国の第一王子で、緩いカールがかかった金髪に碧眼を持ついかにもな風貌の王子様で、メインの攻略対象者だった。
ヒロインのルルリエとは幼い頃に出会っており、それからずっと彼女を忘れられなかったと言う一途なキャラクターだ。
このゲームの舞台は学園で、入学式でゴーチエとルルイエは再会する。それから二人は距離を縮めていくのだが──そんな二人を見て激しい嫉妬を抱いたアビゲイルが、侯爵令嬢の立場を利用して男爵令嬢のルルリエをいじめるのだ。
ゴーチエとアビゲイルはゲーム開始時点ではもう既に婚約を破棄してはいたが、アビゲイルはずっとゴーチエを慕っていた。
そして、その事が要因となりアビゲイルは断罪の道へと進んでいく……。
──アビゲイル……ゴーチエ王子からの手紙をこんなに大切にとっておくなんて、本当にゴーチエ王子が大好きだったんだ。
大好きな人に婚約破棄を告げられるアビゲイルの気持ちを考えると、胸が痛んだ。
アビゲイルへの手紙を読むのは気が引けたので、そのまま木箱に戻す。他には何かないかと本棚に目を向けて眺めていると、下段の端の方に背表紙に何も書かれていない深緑色の本が目に付いた。
手に取ると、たくさんの本に紛れさせるようにしてあったそれはアビゲイルの日記のようだった。
「木を隠すなら森の中ってことかな?」
アビゲイルは日記を手に持って、しばらく悩んだ。
──どうしよう。
人の日記を読んでもいいのだろうか──だけど、この日記を読めば、本当のアビゲイルに何があったのかが分かるかもしれない。
「……ごめんね、本当のアビゲイル」
もう一度謝って、アビゲイルはゆっくりと表紙をめくった。
次回は本当のアビゲイルの日記編です。
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