12.アビゲイルの日記Ⅷ
誤字修正いたしました。ご報告感謝です。
「大きな箱ね」
「そうですね。重さはそんなにありませんよ」
ヴィヴィアンの手で、しゅるしゅると青いリボンが解かれていく。続いて青い包装紙を剥がすと、白い箱が現れた。
「開けますね──あら、これは……」
ぱこり、と天フラップを開けて中を見たヴィヴィアンは、不思議そうな表情を浮かべる。
「何が入っていたの、ヴィヴィアン?」
ヴィヴィアンの手元を覗き込むと、そこには折りたたまれたピンク色の布が入っていた。包装紙に負けないくらいの濃いピンク色だ。
ヴィヴィアンと顔を見合わせる。
「すごい色ですけれど、これは何でしょうか?」
「ハンカチーフ……にしては大きいわよね」
テーブルの上に箱を置いて、中身を取り出してみる。──これは。
「──ドレスね。ルルリエさんが好きそうなデザインだわ」
贈られたドレスを手に持って眺める。
濃いピンクの生地に、盛大なフリル。そして花の刺繍が入っている派手なドレスだ。ルルリエさんはよくこういったデザインのドレスを纏っていた。
ピンクのドレスは彼女の自慢の珍しい桃色の瞳をより一層際立たせていたな、と思い起こす。
「彼女には似合っていたけれど……」
愛らしい外見をしているルルリエさんにピンクのドレスは似合っている。けれど、年の割に大人びていて、きつめの顔つきのわたくしに似合うとは思えなかった。
ヴィヴィアンはしげしげとドレスを眺めながら言う。
「お嬢様のご趣味ではありませんね。お嬢様にはこういった色合いより、もっと落ち着いた色が似合いますもの。……あら、お嬢様、箱の底にお手紙が入っていますよ」
「お手紙?」
ヴィヴィアンから手紙を受け取って、目を通す。
──親愛なるアビゲイル様へ。
先日のお茶会では、デレク様とのお時間を邪魔してしまってごめんなさい。
アビゲイル様に会えて嬉しかったのに、デレク様と一緒にそっけなくされてとても悲しくて……泣いてしまいました。
次回お会いした時は、男爵家と侯爵家などの身分にこだわらずに接してもらえたら嬉しいです。
泣いてしまったお詫びに、アビゲイル様に似合いそうなドレスを贈ります。
アビゲイル様はいつも暗い色のドレスばかりお召しになっていらっしゃるので、もっと明るい色を身に着ければいいのに、と実は心配していたのです。
私の大好きなブランドのドレスだし、ゴーチエ様もいつも私のドレスを褒めてくださるから、きっと気に入っていただけると思います!
追伸
最近、私とアビゲイル様、そしてゴーチエ様とデレク様の四人でピクニックなどしたらとても楽しいのではないかと考えています。
そうすれば、もっとアビゲイル様と仲良くなれると思います。
ルルリエ・テイラーより──。
手紙を読み終えて、思わず眉根を寄せる。
ちぐはぐな敬語で綴られた、謝罪しているのかわたくしを貶しているのか分からない文章の羅列、ゴーチエ様の名前を出す無神経さに苛立ちを覚えた。
そして、落ち着かない気持ちになる。
──ゴーチエ様は本当に、彼女のドレスをお褒めになったのかしら。もしかして彼はこういったものがお好きなのかしら……だからルルリエさんと……。
「お嬢様? 何か嫌なことが書かれているのですか?」
「……ヴィヴィアンも読んでみて」
ヴィヴィアンにルルリエさんからの手紙を渡す。
ヴィヴィアンの表情は、手紙を読み進めるにつれてどんどんとこわばっていった。
「なんですかこれ……! 失礼にも程があります! 大体、このルルリエ様という方は男爵家のご令嬢なんですよね? だとしたらこの方から身分にこだわらず、なんて何を言っているのか理解しかねます! それにゴーチエ様はアビゲイルお嬢様の婚約者ではありませんか。どうしてこの方のお手紙にゴーチエ様のお名前が出てくるのですか!? も、もしかして……」
「本当よね。……ひどいお手紙だわ」
「……このドレス、捨ててしまいましょうか?」
自嘲の笑みを浮かべるわたくしに、ヴィヴィアンが気遣って尋ねてくれた。
彼女はゴーチエ様が最近ウィルソン家を訪れないことも、彼からのお手紙が素っ気ないものになっていることも知っていた。ずっと専属のお付きのメイドとして働いてくれているからこそ、猶更この手紙に対して怒りを覚えてくれるのだろう。
テーブルの上に置かれた、ルルリエさんから贈られてドレスに視線を向ける。
やはりどうしたって、自分に似合うとは思えないドレスだ。
──けれど、本当にゴーチエ様がこういったものがお好みなのなら──このドレスを身に着ければ、少しは気にかけてくれるかしら……。
もしかしてゴーチエ様は、またわたくしを見てくれるようになるかしら。
「……いいえ。クローゼットにしまっておいて」
読んでいただきありがとうございます。
ヒーロー候補は何人かいるのですが、まだ一人しか出せてない……!
お付き合いいただけたら幸いです。




