後編 不惑のメリー 人生に迷いなし、か!
ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました!!
誤字報告、助かってます。
◇正体◇
イヤな予感がした私、決勝戦前の休憩時間に、騎士たちの控室を目指します。
私は走り出しました。
ドレスの裾を上げ、もう淑女とか令嬢とか脳内から追い出して。
アイツらならやる!
きっとやる!
「ねえねえ、ワタクシたち、カトラスの父親と母親なんですよぉ! 決勝戦前に励ましてあげたいの! いいでしょ」
やはり!
シモーヌは
アホだった!!
しかもシモーヌだけじゃない。
サザスや父までもいる!
「決勝戦前は、外部の方は、立入禁止です」
護衛の言葉で引くような、そんな連中ではないですわ。
飢えた烏の如く、ギャアギャア騒ぎ立てます。
仕方ない……
かくなる上は、私、メリニアが奴らを追い出さなければ。
場合によっては、切り札を使ってでも。
「お止め下さいな。アガピア子爵とその他の皆様」
護衛はハッとして敬礼する。
父とサザスとシモーヌも、一瞬口を閉じる。
「おお、我が愛しき娘、メリニアではないか!」
「不敬ですわ。侯爵とお呼びください」
「な、何よ、偉そうに!」
父の顔色は変わり、目が泳いでいます。
シモーヌは目をひん剥いて、逆毛を立てています。
サザスは空気。
何なのかしら、この人たち。
「偉そうに、ですか、間違っていますわよ」
私は三日月のような目で笑います。
「偉そうではなく、偉いのですよ、私。いえ、前アガピア侯爵だった、我が母は。
ねえ、父様?」
さすがの父もハッとしたようですが、今更ですわね。
「あ、あんたの母親なんか知らないわよ!」
シモーヌの叫びは、ごもっとも。
サザスはやはり空気。
「フィローリス・アガピア侯爵。またの名を『アガピアの魔女』は、先王の第六息女なり」
後方から声に、私は静かに向きを変え、淑女の礼をします。
慌てて父も膝をつき、シモーヌとサザスの頭を押さえます。
国王陛下がおなりでした。
「久しいな、メリニア。随分と、フィローリスに似てきたようだ」
陛下は私の頭をナデナデします。
「えっ? じゃあ、メリニアは、陛下の孫?」
「バカ者! 陛下の姪だ」
ひそひそと話す父とサザス。
「さよう。フィローリスは私の腹違いの妹であった。本来は、高位貴族か外国にでも、嫁に出すところだったが、領地で民と一緒に暮らしたいと言って、婿を取って王都を離れた」
アガピアというのは、先王の側妃であった、祖母の姓なのです。
「よって、フィローリスが持っていた、アガピア侯爵位と同時に、王位継承権もメリニアが継いでいるのだ。皆、心に留め置くべし!」
一同、平伏いたしました。
陛下はすれ違う時に、小声で私に言いました。
「メリーの好きなように、やっちゃっていいぞ」
かしこまりました。
これから陛下は、決勝戦前の二人の騎士に、それぞれ励ましのお言葉を授けるそうです。
だから私はカトラスの憂いを払うべく、ここに宣言いたします。
「王位継承権第十七位のアガピア侯爵が命ずる!
今後一切、カトラスと私の前に、顔を出すんじゃねえええ!!」
◇決着◇
はあ……
咽喉が枯れましたわ。
母がそうだったように、身分とか爵位とか関係ない生活を、ひそやかに送るつもりだったというのに。
ちらりと国王の座席に目をやると、陛下は親指を立て、笑顔になられてました。
さあ、決勝戦です。
カトラスのお相手は、近衛騎士団団長の次男だか三男。
カトラスよりも身長が高いです。
当然、腕の長さもカトラスを上回り、カトラスはなかなか、懐に入れません。
互いの剣を、撥ね返す音だけが聞えます。
『大きくなったら、光の勇者になるんだ』
そう言って、剣術の稽古をしていたカトラス。
本当に……
大きくなったね。
もう暗闇を、怖がることもないよね。
あら、やだ。
目から、水が……
その時。
決戦の場に、一条の光が降りました。
カトラスの剣は、その光を刀身に受けます。
彼の瞳も、黄金色に輝いたのです。
ヒュン!
風を切る音と共に、カトラスの剣は、相手の左胸を刺す!
その直前で、刃は止まっています。
旗が、上がります。
「勝者、カトラス!」
会場に舞う紙吹雪は、一つ一つがキラキラと輝いていました。
優勝したカトラスは、陛下から直々に勲章を授かります。
「見事であった、カトラス。優勝の褒美は、先ほど聞いたもので良いのだな?」
「はっ!」
陛下は私に向かって、指で小さくブイ字を投げてくださいました。
涙と何かの汁で、ぐしゃぐしゃになった私は、訳もわからず頷いていました。
◆カトラス◆
やった!
勝った!!
これで、国王陛下にお願いした、褒美をいただける!!
俺が願ったのはただ一つ。
一生かけてメリーを幸せにしたい。それだけだ。
陛下は仰った。
「それは、我が姪メリーを、妻にするということで良いのかな」
「はい!」
陛下は俺に命じられた。
「ふむ。年齢差はあるが、ま、いっか。
ならばカトラスよ、五年で功績を上げて叙爵せよ。十年たったら除隊して、メリーと共に領地を護るべし」
「ありがたき幸せにございます!」
十年、か。
短くはない年月だけど、一生かけて守ると決めたんだ。
絶対、やってみせる!
◇終章◇
私は今日も領地にて、預かった子どもたちのお世話やら、紙を作るための低木の伐採やらで走り回っています。
あ、でも、寄る年波には一勝二敗で負け越しです。
そうそう、子どもたちのお世話をする、専従の方の養成を始めましたわ。
遠い西国で、それは『ナニー』と呼ばれる、育児専門のお仕事なんですね。
カトラスが騎士学校を卒業して早十年。
彼は辺境で五年従軍し、その後は近衛騎士として、王太子の警護に当たっていましたの。
で、ようやく帰ってくるんです!
いくつかの勲章と騎士爵を得て、晴れて除隊となりました。
あとはカトラスがお嫁さんを貰えば、私の役目も終わりですね。
「ただいま、メリー!」
飛びついて来るカトラスは、大型犬のよう。
可愛い!
「お帰りなさい! ご飯出来てるわ」
「ちょっと待って。プレゼントがあるから」
ごそごそとポケットを探るカトラス。
何かしら?
王都で流行っている呪い人形?
「はい、これ」
えっ!
ええっ!
ちょ、ちょっとまって、これって!
「俺と、結婚、してください!」
カトラスが差し出したのは、指輪でした。
「え? いや、そんな! あなた、私が何歳だと思ってるの!」
「忘れた」
「四十よ四十! けっ、結婚なんて、子どもが出来るかどうかって年なのに」
パニクる私を、カトラスは抱きしめました。
「メリーがいればいい。俺はメリーだけいればいい。
メリー言ったよね。俺が結婚するまで自分はしないって。
だから。
俺と結婚してください!」
やだ……
目から……
洪水……
「陛下からの伝言。『王命により、メリーはカトラスと結婚すること』だって」
なんだよ、もう!
言葉が、出てこない……
そして
私の年の数を越えるほど口づけを交わし、燃えるような夕焼けと、澄み切った朝焼けを、二人一緒に見つめたのです。その次の日も、また次の日も。
二人、ずっと一緒に。
おしまい!
あ、追伸。
翌年、私は双子の赤ちゃんを産みました!
カトラスは今も、私の横にいるのです。
汐の音様作
お読みくださいまして、ありがとうございました!!
まあ、こんなお話も良いんじゃない? と思われましたら、下の☆を★に変えていただきたくお願い申し上げます。
感想、ありがとうございます!! 必ず返信いたします!!