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僕の領主生活

作者: ダイフク


僕、アールア・ミンスター、13歳、ただいま絶賛領主稼業に精を出しています。



僕がこの年で領主をする事になったのは、父様と叔父様のせいだ。

叔父様であるアンドレ・ミンスター公爵は長い独身生活を経て、先月、運命の人と出会い、結婚した。まぁ、この時代、貴族が恋愛結構なんて、夢のまた夢、叔父様凄いと、僕も思った。だけど、そこに問題があるなんて、相手を紹介されるまで、父様も思いもしなかったと思う。

僕もだけどね。


お相手のルーンさんは子爵家の人で、サラサラの流れるプラチナブロンド、真珠のような肌、薔薇の唇。

それはそれは綺麗な人だった。男の人だったけど・・・・・・。


この国は結婚についての決まり事は特に無くて、男性同士でも問題は無い。そこは大丈夫だったんだけど、叔父様が一人っ子で、このままでは公爵家の世継ぎが作れない事が問題だった。そう、大問題だ。


ミンスター公爵家は王家の血を引く名門貴族。家を絶やす訳にはいかない。

しかし、ルーンさん一筋の叔父様は勿論、側妻を断固拒否。

それはそれは格好良い程嫌だと主張したんだ。

ルーンさんもそんな叔父様の姿を見て、感激の涙を流していた。


そこで、四人も息子のいる父様に一人欲しいと頼み込んできたんだ。当然、父様は即断即決の大喜びだった。


そして、正式な書類を作成し、叔父様に届け、一週間後にミンスター公爵家から正式な迎えの馬車が我が家に来た。

そして、後継者と顔を合わせること無く、叔父様はルーンさんと新婚旅行に行き、ついでに引退して田舎暮らしを強行した。


いやいや、いくら新婚に浮かれてるって言っても、後継者に会わずにって無いでしょう!

正式な迎えが来る前に誰か気がついてくれよ!書類の名前が間違ってるって!


僕は末っ子で、二番目の兄様は現在、22歳、叔父様はこの兄様を貰ったつもりだった。マールア兄様。

マールアとアールア。酷い間違いだ。誰か気づけよ!


しかし、養子縁組の書類は王家に提出されて、公式に認められてしまった。アールア・ミンスターって。最低。

それでも、叔父様が、僕が育つまで領主をしていてくれれば問題は無かったのに、顔も合わせず、引退・・・。


「父様、どうするんですか?僕、まだ13ですよ!」

「うーん。」

「うーんじゃありません!」

「まぁ、お前はしっかり者だし、家臣は残ってるから、な?」


な?じゃ無いんだよ!はぁー。


そして、僕はミンスター公爵領に来ているわけだ。


確かに家臣は残っている。残っているけど・・・。

元々できる家臣が居ないのか、辞めたのか・・・。後者かな。


僕が領主館に来た途端、領民が凄い勢でやってきて、僕を見るなり、盛大に舌打ちをして、足を踏み鳴らして帰って行った。え?何?怖い。


後ろに控える家令を振り返った僕は、この領地の現実を悟ってしまった。


「先代侯爵様が夢の恋愛を求めておられる間、領主の業務を一切なさらなかったため、色々な弊害が出ておりまして。我ら一同、旦那様に期待しております。」

「13才の僕に?」

「あ・・・はい。」

「ふぅん。それで、執務室に案内してくれる?」

「こちらでございます。」


案内された部屋の前で、僕はもう家に帰りたくなった。

部屋の中一面に書類、書類、書類!

足の踏み場もない!


「このドア付近が新しい書類でございます。奥ほど古く、恐らく10年ほど前からのものがあるかと・・・。」

「10年。」


僕の年齢と変わらない書類。


僕は叔父と二番目の兄に殺意を抱いてしまった。叔父のあまりの馬鹿さと、恐らく養子縁組の書類の名前の部分を一文字消して偽造した兄。

絶対この現実を知っていて僕を嵌めたに違いない!


目の前が真っ暗になった。若干13でこれは・・・父様も恨んでやる。



そうは言っても、放っておく事もできない。と言うことで、僕は現在、領主としての仕事をこなしているわけだ。

先ずは手前の書類から。10年前より最近から。

ドア付近に広がる書類の海に足を踏み入れた。



僕は前世の記憶を持っている。30歳で死んだ中間管理職。上からは抑えられ、下からは突き上げられ、ストレスに苛まれながら、コツコツと仕事をした。自分で言うのも何だが、優秀だったので、同期では一番の出世頭だった。

馬鹿な上司を叩き落とし、恨みを買って刺されて死んだ経理課課長だった。


だから、見た目は13才だが、中身は前世と合わせると43才だ。それで、年の割にしっかり者だと言われるんだけどね。


改めて書類を見ると、杜撰さに目眩がする。まず、計算が合ってない。こんな書類、提出するのが間違ってない?

請求書の合計が一桁違うって馬鹿にしてるの?

書類貯めてるって支払いしてないの?ねぇ、いつから?


僕は考えれば考えるほど、家に帰りたい。オーマイガー!


ここまで書類を貯めたのは叔父様が悪いが、家令のウルフも悪い。

僕の手伝いをさせることのできる人材は居ないのか?


「ウルフ、屋敷で一番計算の得意な者を呼んで欲しい。」

「計算ですか?」

「手伝いをさせたい。」

「かしこまりました。直ぐに呼んで参ります。」


あ、やっぱり自分じゃ無いんだね。うんうん、そうだとは思ってたよ。ちっ、使えない。


それから随分、僕はドアの前で突っ立ったまま待った。

何で戻って来ないの?僕、疲れたよ?

諦めてドアに持たれて座り込んで待っていたらやっと戻って来た。その間、二時間位かな?人を雇いに行ったの?


「旦那様、お待たせしました。」

「うん。待ったね。」

「このメイドのナタリアが適任かと思い、連れて参りました。」


メイドが?仕事の手伝いに適任?もう考えるまい。


「計算はできるの?」

「釣り銭を間違えたことはありません。」


え?そのレベル?それ以上は居ないの?もう詰んだな。



ナタリアは僕より5才年上の鼻にソバカスが散った、笑うとエクボの可愛い女の子だった。

一生懸命に、廊下に仮の机と椅子を置いて仕事をする僕の前に書類を運んでくれて、絶妙なタイミングで美味しいお茶とお菓子を出してくれる。

すごく良い子で、可愛くて、僕は彼女の為にも、この領地の正常化を頑張ろうと思った。


朝から晩までひたすら書類に向き合う毎日。それでもナタリアが側にいて僕を手伝ってくれると思えば我慢できた。



初日に怒鳴り込んで来た領民はあの請求書の合計が一桁違っていた相手だった。


「ご領主様が何の御用ですかね?払うもの払ってくれるんですか?」

「ああ、払う。」

「え?本当に?」

「しかし、この請求書は差し戻しだ。」

「ちっ。やっぱり払う気は無いんだな!」

「金額の合計が一桁違う。書き直して来い。」

「へ?ちょっと見せてくれ。」


男は僕から請求書を受け取ると、じっとそれに見入っていた。見ながら、あー、とかうーんとか唸っていたが、頭をかきながら謝ってくれた。


「すまん。直してくる。もう一度出させてくれ。」

「うん。待ってる。」

「おう。待っててくれ。」


男はにやりと笑うと元気に出ていって、翌日訂正した請求書を持ってきた。

僕はその場で支払いをし、それ以降、その男とはいい関係になった。



僕は43才だが、体は13才だ。こんな生活がずっと続く事に耐えれるはずが無かった。

日々増える書類を片付けながら、8年前まで遡り、部屋の中も随分と使えるようになった頃、僕は突然倒れて起き上がれなくなってしまった。


あと少しだったのに。終わったら僕はナタリアにプロポーズしようと思ってたのに。

夜、一人っきりの部屋で僕は悔しくて泣いた。

このままではまた元に戻ってしまう。今までの努力が無駄になる。


館の中が騒がしくなり、廊下を僕の部屋に近づく音がして、ドアを見れば、そこには二番目の兄様が立っていた。


「どうして?」

「ごめん。アールア。」

「兄様。」

「ここまで酷いとは思ってなくて、ただ田舎に行きたく無かっただけなんだ。お前が体を壊すなんて思って無かった。本当にごめん。」

「兄様。」

「俺は継承権放棄して平民になる。お前の部下になる。俺の事をお前の好きなように使ってくれ。何でもやる。」

「えっ!兄様、そんな!」

「俺のできる精一杯の詫びだ。」

「で、でも・・・。」

「今日から俺は兄ではない。旦那様。」

「いや、でも。」

「駄目か?」

「うん。兄様計算苦手だから。」


感動的なシーンでごめんなさい。兄様脳筋すぎて、使えません。あ、やっぱり自覚足りてなかった。ショックで座り込んじゃったよ。



結局、兄様には毎朝の体づくりのサポートをお願いすることにして、暫く領地に居て貰うことにした。

僕はと言えば、ただの風邪で、数日で起き上がることが出来、役立たずの家令は兄様と一緒に来た実家の筆頭執事に首にされてやって来た新しい家令のおかげで、健康的な暮らしを送ることができるようになった。



そして、今日、僕は花束を用意し、意を決してナタリアにプロポーズするんだ。


「ナタリア、好きです。僕と結婚を前提にお付き合いして下さい。」

「えーと、ごめんなさい。」

「そ、そうか。そうだよね。僕はまだ13だし。」

「旦那様はいい方だと思いますけど、もう他の方と、私、お付き合いしていて・・・。」

「そうだったんだ。」


僕の馬鹿。先にそれを調べるべきだった。と、思うだろう。僕だってそれぐらいはきちんとやった。

倒れる前に付き合っている人はいなかった。

じゃあ、僕が具合が悪かった間に?一体誰だよ!


「あ、マールア様♡」


え?今、兄様の名前にハートマークついてなかった?気のせい?僕の勘ぐりすぎ?ま、まさかね。


「ああ、ナタリア、待たせたね。」

「大丈夫です。」

「今日は君のご両親に挨拶すると思うと緊張するよ。」

「両親には私から話はしていて、とても喜んでくれているから。早く会いたいって言ってて。」


ナタリアが兄様の胸にしなだれかかった。


嘘だ!兄様のバカ!バカバカバカ!!!


そして、僕は恋を失い、領主家業だけが残った。

僕は今日も領主家業に勤しんでいる。

あぁ、誰か、僕に潤いを下さい。神様お願いしますぅ。



お読み頂きありがとうございます。

いつか続きを書いて、主人公が報われるようにしてあげたいなと思ってます。

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