賭けの代償
時間いっぱい歩き続けた俺は、もう誰の姿も見えなくなった事に気づいた。
体は全く疲れを感じない。
30分程度じゃ平坦な道をどれだけ歩いても姿が見えないなんて事は無いはずだ。
でもどれだけ見渡しても誰もいない。
ようやく死んだと言う実感が湧いてきた。
すると目の前に自称神が現れた。
結果が決まったんだろう。
『面白みがないね君は、もうちょっと驚いたりしてくれない?』
うるさいんだよ、こっちはもう準備できてるんだ。
『あっそ、まあでも結果に納得いってないのがいるんだよ。
君が蒔いた種だ、君が決着をつけな』
すると神のローブから今にも死にそうな顔のライトが出てきた。
文句があるのはコイツか。
「何のようだ」
冷たい声音で問う。
「どうしてあの2人だったんだ」
あゝ、俺の望みは果たされたらしい。
「みなとコウジか?」
「そうだ!!」
「そりゃ誰かが自分を犠牲にしなくちゃ、誰も生き残れないからに決まってる」
『答えになっていない』
神がちゃちゃをいれてきやがる。
まあライトも同じ意見らしい。
もう聞かれる心配は無いのかもな。
「・・・・俺達のいざこざにあの2人は関係なかった」
そうだ。
あの2人は俺達の仲違いには無関係で、それに巻き込んだことを今でも申し訳なく思っていた。
「そんな、、、そんな理由で?
そんなくだらない理由でおれは死ぬのか?」
ああそうさ。
だが、
「回避出来なかったのはお前たちが愚かだったからだろ。
たった1人命を張ったくらいで揺らぐ馬鹿だったからだろう?
そういう結果なんだ」
ここで神がいらない気を利かせて俺に手を貸した。
俺はテーブルを創ってそこに駒を並べた。
「お前達はみんな、自分が生き残ろうとして誰を蹴落とすか考えた。
自分は傷付かずにだ。
だから俺は、自分を賭けてお前達が足を引っ張り合うようにした」
そう言うとそれぞれをモチーフにした駒がそれぞれに移動する。
左に2つ、中央に1つ、右に4つ。
移動が終わるとテーブルがシーソーの様に傾き始め、左の2つ以外が全て落ちて何処かに消えた。
『さあ、敗者はもう退場の時間だ』
神が満足げに頷き、ライトが何か言う前にアイツをローブの向こうに消した。
しかし俺だけが消えない。
神も動かない。
どういうことだ?
「おい、俺は何でここに居る?」
神が満面の笑みで言う。
『君にはまだ仕事があるんだよ』
仕事?
何だそれは。
『君のせいで3人残らなかった。
後始末は君がつけなくちゃね』
その言葉を聞いた途端、視界が暗転した。
目が覚めると腹が熱かった。
体は氷みたいに冷たいのに。
触れると激痛と共に異物が触れた。
どうも腹にナニかが貫通しているらしい。
そしてもう一つ。
かすかな気配とそれが誰かが理解出来た。
気配は3つ。
後輩3人のものだろう。
後始末と言う言葉が頭をよぎる。
つまりこれはこの中から誰かを救えと言う命令なのだ。
俺が救った奴だけが生き残る。
他は死ぬ。
誰を救うか選べとあの神は俺に言っている。
迷いは無かった。
身体を引きづりながら、1番近くに居た奴を助ける。
ソイツは腕と脚が折れていて腕からは骨が見えている。
だがほかには目立った傷は無く、一命は取りとめる事が出来るのだろう。
息をしていないので人工呼吸をするが上手くいかない。
何せ腹に穴が空いている。
息をすればそれだけで気を失いそうだ。
だがやらなくてはならない。
心臓も止まっているらしいので心臓マッサージも行うが、力が入らないため出来ているのか分からない。
そうしてしばらく。
せきと共にソイツは気が付いた。
「どうして、、、、」
息も絶え絶えだが俺に気づくと聞いてきた。
こっちだってしゃべるのはもう無理だ。
「一瞬でも助けようとしたから」
意志に反して声が出た。
だがここでこの死体の最後のエネルギーが切れたのだろう。
意識がゆっくりと無くなっていった。
おやすみクソッタレ。
意識が回復するとまたあの空間だった。
神も目の前にいる。
目的が果たされたならそのまま何処かへ送りつけられると思っていた。
「俺の代わりに1人助けた。
これで充分だろ?」
一応確認を取る。
気付いていた。
誰も助けなければ自分が助かったのは。
でも助けようと思った。
その結果自分は死んだが、このクソッタレの人生の終わりには過ぎたものだろう。
『良いか悪いかで言えば、良いと答えられるけど、面白いかどうかなら最悪ってところかなぁ』
神は面白くないと顔に書いたかの様に不機嫌だ。
「良いなら早く終われせてくれ」
だがお互いに相手の思惑など関係無いのだ。
俺の望みは終わらせる事だ。
「まあ終わりはしないんだけどね」
また消えゆく意識に邪魔をする神の声。
その言葉を聞いた直後に意識がハッキリとした。
今迄はどこか霞がかった様だった視界が、今はやけにクリアに見える。
どういう事だ?
二度目の疑問。
『本当は最初から全員別の世界に送り出すつもりだったんだ』
別の世界ときた。
じゃあ今までのは何だったんだ?
本当は、とは?
疑問符が浮かぶ。
『でもこっちも色々あってね。
こんなやり方になってしまった。
だからお礼の代わりに君には選ばせてあげる。
どんな世界、どんな生まれ、どんな力が欲しいか』
答えは得られないんだろうと言うのはこの短い付き合いで充分に分かった。
しかもコイツは今答えなきゃ、この選択肢も無かったことにするんだろう。
だからたった一つの望みを言う。
「どんな世界でもどんな生まれでも良い。
強くなれる環境、強くなれる身体をくれ。
最初からもっているんじゃ無くて、自分で手に入れていきたい」
強くなりたい。
これが俺の望み。
馬鹿は死ぬまで治らない。
俺は死んで酷くなる馬鹿なんだろう。
環境を願っているくせに、自分で手に入れたいとは矛盾も良いところだし、身体が上限の低いものでも駄目とは。
呆れて笑えてくる。
でも俺の望みはこれなんだ。
『良いよ、叶えよう。
ただし、君が行動しなければ何にも起こらない世界に産まれさせてあげよう』
充分だろう。
本来は一回で終わっているはずの時間をまだオマケしてくれるんだ。
願っても無い。
「ありがとう」
口をついたのは感謝だった。
『でもその為には此処で頑張らなくちゃならないけどね』
疑問を返す前に目の前の神と共に、自分の身体を覆っていたナニカが消えた。
その瞬間から俺は地獄を見た。