仕込み
死神が去った後、俺はライトに責められていた。
「どうしてオレの邪魔をしたんだ!」
その質問と言うか罵倒に近いそれを俺は無視して俺は全員に尋ねた。
「お前達誰が助ける価値があるか決めたの?」
無意味な話をする余裕なんて俺には欠片も無い。
「無視するな!」
あー。
煩い。
構ってる余裕は無いんだって。
「因みに俺は・・・」
次の言葉は続けられなかった。
「無視するんじゃねぇ!何で邪魔したんだ!」
今にして思えば、殴り掛からなかっただけまだ理性的な判断力があったんだろう。
とは言え、胸倉を掴まれて話を途切れさせた事は許せそうに無いが。
「はぁ・・・、手どけろ。今邪魔なのはオマエだよ」
こっちも頭に血が上っていたんだろう。
まだやりようはあった筈だったのに、それを思考に入れてすらいなかった。
冷静だったとしてもその選択をしなかった事だけは間違いないが、俺もコイツも冷静じゃ無かった。
だからこんな展開になったんだろう。
「いいから、質問に、答えろ」
余程腹が立っているのだろう。
肩で息をする目の前の男からはかなりの怒気が伝わるようだった。
「じゃあ聞くけど、お前の言葉で何が変わったと思う?」
でも関係無かった。
俺は俺のすべきと思った事をしなくちゃな。
「もしかしたら全員無事に、」
もしかしたら?
そんな事は俺は訊いてい無い。
ああ訊き方が悪かったかな。
「違うそうじゃない。
俺が訊いたいのは仮定じゃなくて現実だ。
さっきお前がアイツの話を遮った時、アイツはどうなった?」
今迄の怒りの感情がその瞬間に疑問に転じた。
まるで何を言ってるんだとでも言いたげだ。
いや、『まるで』ではなかった。
「何を言ってるんだ?」
本当にコイツは分からないんだな。
そう言えばあの時コイツは『アレ』の顔どころか、そっちの方向にすら顔を向けていなかった。
「そうだよな、分かるわけないか。
さっきも今迄もずっとそうだった、お前はただ目を逸らしていたんだもんな。
お前が『アレ』の事を遮った時『アレは』怒ったんだよ」
あの瞬間、俺は見た。
今迄浮かべていた薄ら笑いが、無表情になるその瞬間を。
どんな気持ちで見ていたかは分からないがそれでも、踏まれて死にかけの虫を見ている様だった顔。
それは、まだ興味を持つものだった。
だが何も読み取れなくたったあの瞬間に、『アレ』の興味は失せたのだ。
だから怒ったというのは違うかも知れないが。
「もしあそこでお前がまだ騒いでいたら誰も助かる術は無かっただろうな」
その言葉で全員に緊張が表れる。
「だからとめたんだ。
これ以上お前が気分を損ねない様に。
そして、早く決め切らないといけない。
時間がくる前に」
分かったか?
表情で尋ねれば、ライト以外が頷く。
ライトの奴は分かっていても理解は出来ないと言ったところだろうか?
本当にどうしようもないコイツを俺は、せいぜい利用するとしよう。
「まあ、ライト君は今1人だけ安全圏にいる訳だがねぇ」
その言葉に視線が再び俺へと集まる。
「この指名権を俺は、自分とライトに使っちまった。
まあ嫌われ者2人だ、仲良くしようぜ?
じゃないとダントツ最下位で2人とも御陀仏だ」
実際その可能性がかなり高いだろう。
そう言ってから、俺は全員を一瞬確認した。
イイ感じだ。
気持ち楽になった。
そしてある2人組に小言で『お願い』をしてその場を離れた。
だからその後どんな話し合いがあったとかは知らない。
もう俺にできる事は全てやったんだ。