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論破からの王位継承権放棄

 

「ファンテーヌ、そしてシャーリー。双方の言い分はよくわかった」


 表情、仕草、声も、できるだけ冷静に見えるよう意識して、二人に語りかける。

 貴族達も聞いてるから、これ以上印象悪くならないようにしっかりやらないとね。

 それにしても大臣に負けないくらいエエ声だ……有名声優がCVやってくれてるからな。


「その手紙の真偽、そして窃盗・文書偽造の疑いについては、証拠不十分のため今ここで明瞭にすることはできない。

 そして、今後どちらに非があるか、調査するつもりもない」


 僕の発言に、シャーリーはきょとんと目を丸くし、ファンテーヌも面食らっているようだ。

 これだけの騒ぎになっているのに犯人探しはしない、白黒ハッキリつけないと明言しているのだから、貴族らも驚いていることだろう。


 腑抜けと思っている人も少なからずいるだろうが、これも作戦のうち。

 さあここからが、正念場だ―――……悪いがファンテーヌ、あらかじめ理論武装しているのは、君だけじゃないぞ!


「ここにいるみなが周知の通り、ファンテーヌは僕の大切な婚約者であり、シャーリーは大事な友人にして客人だ。


 二人とも僕にとってはかけがえのない女性であり、また忠実な臣民でもある。

 二人の賢さ、優しさ、美しさにおいて、疑い否定する者は一人もいないだろう。

 そんな素晴らしい女性達を、このような公の場で声を荒げ相争わせたのはこの僕の不徳の致すところ……


 つまり本来、我が父を寿ことほぐめでたきこの日、この場、この席を乱した原因と責任は、すべてこの王太子アンドリューにある」


 今日何度目かのどよめきが、また聴衆に巻き起こった。

 そりゃそうだろう、女同士が痴情のもつれから始めた揉め事を、すべて父に次いで最高権力から二番目の位置にいるこの僕が、引き受けるというのだから。


「ア、アンディ様……?」


 性懲りもなくシャーリーが僕を愛称で呼んでくるが、今回ばかりはファンテーヌも聞き咎めて突っかかってくることはなかった。


「殿下……?」


 誇り高き婚約者殿はシャーリー同様、目を見開いて僕を見てくる。

 いいぞ、いい兆候だ。今の僕は実に順調に、シナリオから外れている。はず。たぶん。


「優れた性質を持つ臣民を追い詰め、争わせ、祝いの場を乱すような者が、国を統べる器にあるとは到底、考えられない。

 僕が王位を継いだところで、偉大なる我が父の名を汚し、国を混沌に導く結果になることは明白である。そのようなことは、絶対にあってはならない―――……


 よって、僕は今日この時をもって、王位継承権を放棄することを、ここに宣言する!!」


 一瞬、冷たい静寂が王宮を包んだ。

 夜風すら息を止めたような静けさの後、大広間、いや宮殿そのものが揺れたんじゃないかというくらいの騒ぎが巻き起こる。


 いやあ、どよめくなぁこいつら。みんな知ってたかい?貴族って、どよめくよ!!


「な、何を言い出したのだアンドリュー!?」


 玉座で見守っていた国王が立ち上がり、問いかけてくる。振り返って確かめると、当たり前だけどひどく動揺しているようだ。


 すまない父さん……でも知ってるよ、本当は愛のない結婚で生まれた僕より、寵愛していた身分の低い側妃が生んだ次男のほうを大切に思っていること。


 そのせいで愛に飢えていた僕は、傲慢な性格に育って弟を憎むようになって、シャーリーに救いを求めたっていう設定だからね。詳しくはアレン=ロイドの攻略ルートで確かめてくれたまえ……


 和解するほうのエンドなら僕は国外追放で済むけど、最後まで兄弟で相争うほうだと発狂して高い塔のてっぺんから飛び下りて死んじゃうので、慎重にね!!


「ずっと前から考えていたことなのです、父上。僕は王になれるような人間じゃない。

 この国を任せるべきは異母弟のアレン=ロイドです。彼ならば良き王となり、素晴らしい発展をもたらしてくれることでしょう」


「……アンドリュー」


 少し悲しげだが反対はしてこない父と、そして予想外の展開に呆然としている弟に顔を向け、穏やかに微笑みかける。


「兄さん……」


 喧騒の中、アレン=ロイドの呟きだけはハッキリと聞こえた。あの子もイイ声だなあ……


「ア、アンディ様、冗談ですよね!?ねえ!!」


 僕を意のままに操って、邪魔者を追い出す予定がすっかり狂ってしまったシャーリーが、腕を掴んで揺さぶってくる。

 そういうことするから誤解されるじゃんか。僕は彼女にも微笑んで、そっと肘を動かしてその腕から逃れた。


「すまない、シャーリー。短い間だったけど、君と過ごした時間は僕にとって宝物だ。

 可愛い妹ができたみたいで、とても楽しかったよ」


 妹、という単語に、相当傷ついたらしく、零れ落ちそうな瞳から涙が溢れ出す。

 さすがにちょっと可哀想な気もするけど、悪いようにはしないでくれと後で父と弟によく頼んでおくからきっと大丈夫。


 外見はゆるふわ美少女なのに中身は肉食系でしたたかっていう恐らくこの世で最も強い生き物の一つだからね、君ならハイスペック男子を捕まえて贅沢三昧な一生を送れるはずさ。


「アンドリュー殿下、まさか本気で……」


 シャーリーと同じくらい驚き、立ち尽くしているファンテーヌが呟く。

 君もよくやった、何だかんだあったけど、あの論破っぷりは正直痺れた、カッコ良かった。


「こういうことになったから、君との婚約も取り消しだな、ファンテーヌ。

 できることなら弟を頼むと言いたいところだけど、君の人生だ。どうか僕のことなど忘れて、悔いのない選択をしてくれ」


 アレン=ロイドはいわゆる王子枠?真打ち攻略対象?どう呼ぶかわからないけど公式が推してるメインの攻略キャラで、パッケージでも中央に描かれてるし単独のデザイン画も多い。

 彼の攻略ルートがトゥルーエンドって前提で他のシナリオも進めたみたいだし、お似合いの二人だ。

 ただ、無難すぎてファンテーヌには詰まらない相手かもね。


 ま、弟の他にも色々いるし、君なら誰を選んだって幸せになれるだろうさ。どうぞ溺愛ライフを楽しんでくれたまえ。

 さぁ、それでは最後の仕上げに入るとするか。



 僕がシナリオから完全に消え、バッドエンドを回避するための爆弾発言、もう一発いくよ~~~~っっ!!!



「父上!!」


 玉座のほうを振り返って最高権力者である父王とまっすぐ向かい合い、僕は真剣そのものの表情を作る。


「もはや王太子ではなくなった僕ですが、もしこの身を少しでも哀れんでくださるのであれば、一つだけ聞き届けていただきたい願いがございます」


「何だ?アンドリュー。何でも申してみよ」


 ククク……そう来ると思った。アレン=ロイドと違って僕のことは上手く愛せない分、負い目があるから父上が僕の頼みを断れるはずないんだ。


 ……何かもうその辺の乗り換え王子よりよっぽど腹黒いな僕。まあいい、話を進めよう。


「実は僕には、心から愛する一人の女性がいるのです。

 僕が王位を継ぐ身である限り、その方とは結ばれぬ立場と思い諦めていましたが、ただのアンドリュー・フィリップとなった今、彼女に求婚し将来を共に歩む誓いを立てることを、お許しいただきたいのです」


「はああああああああ!!?」


 シャーリーとファンテーヌが、悲鳴に近い声をほぼ同時にあげた。

 二人とも、目も口も大きく開けて、凄い顔になっている……年頃の娘が、良くないなあ。

 変顔してるとそういう顔になっちゃうよって、小さい頃お母さんに言われたでしょ。


 さて鳩が豆鉄砲食らってる二人は放っておいて、と。


「彼女の名を明かしてもよろしいでしょうか?父上」


 王はゆっくりと頷いた。


「いいだろう、申してみよ。お前が王位継承権を捨ててまで結ばれたいと願う淑女……それはいったい、誰なのだ」


「感謝いたします、父上。その方の名は、メアリーベス・パクストン!」


 シャーリーもファンテーヌも、玉座近くにいる上級貴族達も、怪訝な顔になる。

 頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるのが見えるようだ。


「パクストン?」


「聞いたことないわ、あなたご存知?」


「ん~~……確か東のほうの……カボチャがたくさん採れる所だったような?」


 そう、パクストン領とは東の果て。中央では滅多に話題に登らない農業地帯、みなさん大好きおいしいカボチャの名産地。


 王都からはあまりに遠すぎて移動するのも大変だから、今日みたいな大きな式典でもない限り、領主一家が宮殿に招待されることもない。


 そんな家柄だから勿論、僕は領主はもちろん、今名前を挙げた令嬢にも会ったことはない……ないから貴族は全員参加が義務になっている、毎年恒例の国王への年始挨拶にて遠くから見かけ、一方的に見初みそめたということにしておく。


 そんな作り話まで用意して、なぜその娘にこだわるかって?そりゃもちろん、上手く婿入りできれば王宮から遠く離れて、静かに暮らせるからさ!!


 

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