持っているもの
「あらあら、どうしたのミリィ?ミリィはとっても美しいわよ?まあ、美しいと言うよりは、可愛らしいかしら」
ベアトリーチェの言葉にミリアムは首を横に振る。
「ありがとうございます。ですが、分かっているのです。わたくしには兄や姉の様に輝く金の髪も紫水晶の瞳もありません。癖のある平凡な茶色の髪に茶色の瞳です。背だって低いままですし、身体つきもちっとも女性らしくなりません」
「ああー、確かに凹凸に乏しい感じよねー」
嘆くミリアムにヴァレリアが残念なものを見る目を向ける。
「んもう!リアったら茶々を入れないの!ミリィはご兄姉と自分を比べてしまって落ち込んでいるのかしら?」
「違うのです」
ミリアムは再度首を横に振った。
涙が溢れてくるのを必死に堪えようとする彼女の背中をベアトリーチェが優しく撫でる。
「家族はわたくしをとても大切にしてくれています。姉は…厳しいですけれど、両親からも兄からもとても愛されていると、わたくしは知っています」
「ええ、そうなのね」
「だからこそ、自分が情けないのですわ。お茶会に行っても夜会に出ても、いつでもわたくしはカパローニ家の人間として認識されないのです。確かにそこにいるのに、誰もわたくしをミリアム・ファリナ・カパローニだと認めてくれないのです。きっとわたくしがちっとも美しくないからだわ!」
「あらぁ、随分拗らせちゃってるのねぇ」
ついには両手で顔を覆い泣き出してしまったミリアムを椅子に座らせて、ベアトリーチェはカップにお茶を注ぐ。
「落ち着いてミリィ。さあ、まずはお茶でも飲みなさいな」
ミリアムは差し出されたカップを受け取り、ゆっくりと口に含む。
喉を温かいものが通り過ぎていくと、取り乱した心が幾分落ち着く。
温かいお茶はまるで淹れたてのようだが、先程から給仕もメイドも侍女もいない。円卓の上のポットは自分がここに来てから一度も交換されていないようにも思うのだが、誰か淹れ直したのだろうか。ふと疑問に思う。
「ねぇミリィ。あなたはさっきお兄様やお姉様の様に輝く金の髪も紫水晶の瞳もないと言ったわね。自分にあるのは癖のある平凡な茶色の髪に茶色の瞳だとも」
「…はい」
ベアトリーチェはミリアムの手をそっと両手で包むと、華のような笑顔を向ける。
「あなたの胡桃色の髪の毛はフェルとアナ…あなたのご両親の髪の色を混ぜたような色でとっても素敵よ。それに先程も言ったけれど、瞳の色はフェルと同じヘーゼル。アナの様な紫水晶の瞳ではないけれど、兄妹の中で唯一お父様とお揃いじゃないのぉ。それにこの可愛らしい髪の毛の癖は若い頃のアナにそっくりよ!ふふ」
ベアトリーチェの言葉にミリアムはハッとして、顔を上げる。
「ミリィ。無いものを数えたところで虚しくなるだけだ。なにせ持っていないものだからな。だから、持っているものを数えるんだ。“こんなに違う”ではなく“こんなに同じ”だと思うんだ」
「そーよ!誰が何と言おうとあんたはフェルとアナの娘。カパローニ侯爵家の人間でしょ。湿気たツラしてメソメソしてんじゃないわよ。辛気臭いわね」
「皆様…」
ミリアムは三人の言葉に、今までずっと胸につかえてきた棘が取れた気がした。
(わたくしは、カパローニ侯爵家の人間。誰が何と言おうともお父様とお母様の娘だわ)
「それにね、こう言ったら何なんだけど、ミリィは世間の感覚ではそこそこ美少女だと思うわよぉ。でもなんて言うか、ふふ、比べる相手が悪すぎると言うか…ねぇ。うふふふ」
「あんたの不幸なところは産まれた時からあの美貌の家族に囲まれているところね!あんなのと日々比べてたら卑屈にもなるし、美的感覚も狂うって話よ。ほんとおバカねー」
「そこを捻くれずに、ちょっと拗らせたくらいで済んでいるところにご家族からの愛を感じるな。ははは」
ちょっと見直そうかと思っていたのに台無しだなとミリアムは半目になった。




