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おかわりはいかが?

 タチアナがミリアムのヴェールを下ろすと、エミリオの待つ部屋に向かって歩き出した。


「そう言えば、ドレスはなぜ白にしたの?とても素敵だけれど」


 タチアナの問いに、ミリアムは微笑みながら答える。


「ヴァレリア様の故郷の風習だそうです。ドレスについて少しご相談させていただきましたら、花嫁は絶対に白でないと…と」

「まあ、では異世界の風習なのね!ところで、このレースやヴェールの刺繍も素晴らしいわね、あら、グローブもお揃いなのね!さすが王家御用達の工房ね。どちらの工房なの?」

「えーと、そちらの刺繍は、というかこのドレスに施された全ての刺繍はエレオノーラ様によるものです」


 ミリアムの答えにタチアナは目を丸くした。

 ミリアムの婚礼衣装には首元のエンブロイダリーレースやヴェール、グローブの他にも、オーガンジーを重ねたオーバースカート部分や、ベースのAラインにもふんだんにコード刺繍が施されていた。その全てを救国の魔女の一人、エレオノーラが刺したという。


「エレオノーラ様は刺繍がご趣味だそうで、どうしても婚礼衣装の刺繍を刺してみたいと仰られて…」

「これは、趣味…の域ではないわね」

「わたくしもそう思います」

「じゃあ、この生花の髪飾りも?」


 ヴェールの下で美しく結い上げられた胡桃色の髪を飾る、淡く優しい色合いの可憐な花々で作られた生花の髪飾りはベアトリーチェによるものだ。今朝、ベアトリーチェの邸の庭園で自ら採取し作ったとの事で、もちろん時を止める魔法がかけられている。


「はい、こちらはベアトリーチェ様から贈っていただきました」

「まあ、本当に魔女様方に可愛がっていただいているのね」

「ええ、とてもよくして頂いてますわ。今日は会場にいらっしゃれないのが非常に残念だと仰っていました」

「ああ、あの方々は表舞台には御出でにならないのですものね」

「恐らくご覧になってはいると思いますわ」


 幾度となくエミリオとのデートを覗かれたので、今回もきっと見ているはずだ。三人でお茶をしながら。その光景を想像して、ミリアムは思わず笑みをこぼした。


「さあ、愛しい旦那様がお待ちかねよ」


 扉を開けると凛々しい正装姿のエミリオが、弾けんばかりの笑顔でミリアムを出迎えた。

 いつもとは違う、髪を後ろに撫で付けたスタイルにミリアムは思わずドキリと胸が高鳴った。


「ああ私のミリィ!いつもは天使の様に可愛らしい君だが、今日はなんて美しいんだ!」

「殿下、ドレスが乱れますのでお控え下さい」


 いつもの如く、ミリアムに飛びついて頬ずりをする勢いだったエミリオは周囲にいた侍従によって取り押さえられた。


「ふふふ、エミリオ様もとても素敵ですわ」

「ミリィ、エミルだ」


 婚約式からのこの一年で、エミリオはミリアムを愛称で呼び始めた。ミリアムにも自分を愛称で呼んでほしいと求めたが、なかなか定着しない。


「ああ、申し訳ありません…エミル様?」


 恥ずかしそうに頬を染めて自分を呼ぶミリアムを見て、エミリオは「あーー!」と両手で顔を覆いながら天を仰いだ。


「殿下、御髪が乱れますのでお控え下さい」


 そしてまた侍従に止められていた。


「さあ、時間だ。行こうか」

「はい」


 ミリアムが差し出されたエミリオの手を取ると、二人は成婚の儀の会場に向かって歩き出した。

 会場となる蒼玉宮の荘厳な扉の前に立つと、エミリオとミリアムは向き合った。


「ミリィ、一年前ただただ政務をこなすだけの日々の中、君と出会えた奇跡に感謝している。一生大切にするよ」

「わたくしも、エミル様に出会えて、自分らしく生きても良いのだとわかりました。わたくしを見つけて下さってありがとうございます。生涯、隣でエミル様を支え続けますわ」


 扉が開き、二人は光が溢れる蒼玉宮へと一歩踏み出した。それは二人がこれから築いていく未来への第一歩でもあった。




 ――――――――――――200年後




「さあ、今年は出会って1000年のアニバーサリーイヤーよぉ」


 アーヴィリエバレイ王国の王城の中心にある、中庭に面した小さな邸。

 救国の魔女の一人ベアトリーチェの邸のテラスで、三人の魔女がお茶会をしている。


「今年はどんな女の子に出会えるのかしらぁ。ワクワクするわねぇ」

「あー、素敵な恋をしそうな子が近付くと現れる“()()()()()()()()”だっけ?リーチェが作ったアニバーサリーイヤーにだけ作動する魔法」


 ヴァレリアが頬杖をつきながら焼き菓子を口に放り込み、お茶をがぶ飲みする。


「んもう!リアったらお行儀が悪いわよぉ!まったく1000年言い続けても直らないんだからぁ」

「あー、直す気がこれっぽっちもないからねー」


 エレオノーラは持っていたティーカップを静かに戻すと、アマレッティを口に運んだ。


「そう言えばミリィはアマレッティが好きだったな」

「800周年の年だったから、もう200年前かー。今までで一番印象的だったから、なんだかつい最近のことみたいに思ってたけど」

「ミリィもとーっても素敵な恋をしたわよねぇ。ハラハラドキドキありの…あら」


 何かに気付いたベアトリーチェは庭園に向かって歩き出した。


「“秘密の薔薇の小道”が開いたわぁ。お迎えに行ってくるわねぇ」


 王城の薔薇園と繋がる“秘密の薔薇の小道”までいそいそと向かおうとしたベアトリーチェだが、急に「あ!」と何か気付くと振り返った。


「二人ともぉ、お茶のおかわりはいかが?」



 〜Completare〜おしまい〜

本編はこれにて完結になります!

初めての長編、初めてのファンタジーで途中執筆速度が遅くなったりして、楽しみにして下さっていた皆様にはご迷惑をおかけしましたが、なんとか完走できましたー(*^^*)


最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます♡


次回作も異世界もので行こうと思っています!

ど天然田舎令嬢が都会に出てきて巻き起こすアレコレな話を構想中ですので、またお付き合い頂けたら幸せです!


そして、おかわりはいかが?もちょこちょこ番外編を上げていく予定なのでブックマークは是非そのままで♡


ありがとうございました!

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