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花嫁の控室にて

 ◇



 シンプルなAラインに純白のオーガンジーを幾重にも重ねた華やかで長いトレーンのオーバースカート。胸元から首元までを包み込むエンブロイダリーレースは一針一針丁寧に刺された可憐な花々の刺繍が美しい一品だ。

 ノースリーブで露出した腕を包むロンググローブと美しく結い上げられた胡桃色にかけられた、ふんわりと花嫁を守るヴェールにも同じ意匠の刺繍が煌めいている。

 花嫁のヴェールの上には王族の象徴たるティアラが光り輝く。


 今日はアーヴィリエバレイ王国王太子と、その婚約者であるカパローニ侯爵令嬢の成婚の儀だ。


「ああ、ミリィ。ついにお嫁に行ってしまうのね」

「お母様…今までありがとうございました」

「今までだなんて…これからもずっとあなたは私の可愛い娘よ」

「はい」


 ここは新婦であるミリアムの控室だが、現在この室内の侍女とメイドの空気はなんだかソワソワしている。そして、予定よりも何故かかなり人が多い。

 元々ここの担当で、タチアナとミリアム母娘のやり取りに思わず涙ぐむ者が半数、仕度を見守るために来ていた女神の化身と侯爵家の精霊姫見たさに担当ではないがチラッと紛れ込んだ者が3割、この後訪れるであろう神々の最高傑作とエルフの如き美貌の次期侯爵を一目でも見たいと言うか、一瞬でもその視界に入れたら万々歳と目論む者が2割だ。


 ――――――――コンコンコン


 扉がノックされ、フェルディナンドとレオナルド、それからロビンが入ってきた。

 ひとたび婚礼衣装姿のミリアムを見つけると、フェルディナンドとレオナルドは泣き崩れた。


「やっぱり嫌だよぉぉ!ミリィ!」

「フェル、ドレスに涙のシミが付くからダメよ!」


 号泣しながらミリアムを抱き締めようとしたフェルディナンドがタチアナによって止められる。

 あまりの号泣ぶりにレオナルドは少し冷静になった。人のふり見てなんとやらである。


「とてもキレイだよ、ミリィ。あー、エミルなんかに嫁ぐなんて勿体無いなぁ」

「エミルなんかなんて…、お兄様、一応王太子殿下ですわよ。まあ、同感ですけれど」


 レオナルドとアレッシアがいつもの如くエミリオをわざと貶める。


「ミリィお姉様!おめでとうございます!とってもキレイだね!真っ白だね!」

「ふふふ、ありがとうロビン!今日のロビンもとっても格好いいですわよ!」

「エヘヘ、ありがとう」


 タチアナとアレッシアによって目一杯めかしこまれたロビンが少し照れながらはにかんだ様な笑顔を浮かべると、周囲の侍女達から「天使?天使なの?」と漏れ聞こえてくる。その言葉にカパローニ家女性陣も「そうだろう、そうだろう」と無言で頷きあった。


「ミリアム、おめでとう。本当に、とてもキレイよ。これからは王太子妃として、殿下をしっかりと支えて差し上げるのよ」

「はい、お姉様…」


 まだまだ幼いと思っていた妹の花嫁姿に、アレッシアは今まで秘めてきた思いが溢れてきた。


「今までごめんなさいね。あなたにはきつくあたってしまう事が多かったけど、本当はミリアムの事が大好きなの。だけど、どうやってそれを表していいかわからなかったのよ…」


 そう俯くアレッシアの手を取り、ミリアムはその顔を覗き込んだ。


「お姉様、大丈夫ですわ。わたくしちゃんとわかっています」

「え?」

「お姉様は厳しい事をおっしゃいますが、それは全てわたくしを思ってのことだということも、ドレスを仕立てる時、自分に自信が持てなくて地味な装いばかりになりがちなわたくしの為に、いつもこっそり似合うドレスを頼んでくれていたことも、お茶会や夜会で一人になりがちなわたくしをさり気なく見守っていて下さっていたことも。全部ちゃんとわかっていますわ」

「ミリアム…」

「わたくしこそ、ごめんなさい。それがわかるまで、お姉様に嫌われていると思っていましたの。お姉様はわたくしの自慢でしたから、お姉様の様に出来ない自分が悔しくて、自信が持てませんでしたの」

「ミリアム、そんなことないわ」

「ええ、でもエミリオ様と魔女様方に出会って、わたくしわかったんです。自分らしくいることが、一番自分を輝かせることだと。自分に自信が持てて、周りが見えてくると、わかったんです。お姉様にどんなに愛されていたのか」


 ミリアムの言葉に、アレッシアは目頭が熱くなった。


「わたくしもお姉様の事が大好きですわ」


 二人がギュッと抱きしめ合うと、侍従が「そろそろ移動致します」と呼びに来た。

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