エミリオの忘れ物
◇
「ミリアム、こっちを向いて?」
「でしたら、おろして下さいませ」
「それは出来ない相談だ。――チュッ」
「…うう…んん」
馬車に乗るやいなや、膝の上に座らされ、羞恥のあまり顔を逸らすミリアム。その耳や首筋にエミリオはキスをする。擽ったさや恥ずかしさのあまり、ミリアムは身を捩る。すると腰に添えられていただけの腕に力が込められ、さらに抱き寄せられる。
先程から延々とこの様なやり取りが繰り返されている馬車の中は、まるで砂糖や蜂蜜、チョコレートにクリームなど、ありとあらゆる甘味をすべて混ぜたかの様に甘ったるく時間が過ぎていく。
「せ、節度はどこに置いてきたのですか?エミリオ様…んん!」
やっと顔を上げたミリアムのその唇に、エミリオはすかさず口づける。何度も角度を変えて貪るような口づけに、ミリアムは息も絶え絶えだ。
そんなミリアムの様子にエミリオは「ふふ」と少し微笑うと、最後のオマケとばかりにその可憐な下唇をパクッと口に含み、わざと音を立てて離した。
「節度か…、翡翠宮あたりに置いてきたかな?」
額と額を合わせて見つめ合う。
「王都では取りに帰れませんわね?」
「そうだな。どうしたものか…」
「ご自重下さいませ」
またプクッと膨らませたミリアムの頬をエミリオが指でツンッとつつくと、二人は微笑み合って再び口づけた。
「まずい、このままだとうっかり手を出してしまいそうだ」
エミリオは「はぁ〜…」と深く溜息を吐くと、名残惜しそうにミリアムを自分の隣に座らせ、肩に手を回し、そっと引き寄せた。
「それは…困りますわね。耐えてくださいませね?」
「君はなんて酷いことを言うんだ。悪い子だね?」
そしてまた口づけると、エミリオはミリアムの背中に手を回しゆっくり馬車の椅子に押し倒し、閉じ込めるように顔の両横に手をついた。
ミリアムが驚きのあまり「え?」とエミリオの顔を見上げると、仄かに情熱を宿した碧い瞳が見下ろしていた。
「ごめん、我慢できそうにないから少しだけ…」
そう耳元で囁くと、エミリオはミリアムの額から順に耳元、頬、鼻先、唇、首元…と口づけを落としていき、詰め襟のドレスの襟元のボタンをはずし、露わになった白い胸元にも口づけた。すると、時を同じくして馬車がガタガタッと停車した。
「残念、目的地に着いてしまったようだ」
悪戯っぽく微笑むエミリオは、ミリアムの襟元を直すと起き上がらせ、乱れた髪の毛もそっと撫でて整えた。
真っ赤に染まったミリアムは口をパクパクさせながら何か呟いている。
「うん?どうした?ミリアム?」
エミリオの問いかけにカッと目を見開いたミリアムは「節度ー!!」と叫びながら、エミリオの手の甲をつねり上げた。
馬車の外では車内のただならぬ雰囲気に扉を開けようかどうか戸惑う従僕がウロウロと扉の前を往復していた。




