王子様のお迎え
「お話のところ申し訳ございません。カパローニ夫人…」
カフェの支配人がやってきてタチアナに何かを告げる。不思議そうに耳を傾けていたタチアナは「あら、まぁ」と小さく溢すと、何かを指示する。それからニッコリと微笑んでミリアムの方を見た。
「噂をすれば何とやらね。ミリィ、王子様のお迎えよ」
「え?」
――――ガチャ
従僕が扉を開けると、支配人に案内されて黒髪に碧い瞳の青年が入ってきた。お忍びなのだろうか、一見商家の子息の様な装いだが、洗練された所作に明らかに上質な衣服を纏った長身の青年。
「入室の許可をいただき感謝する。カパローニ夫人」
「いえ、特にお断りする理由もございませんから」
タチアナに挨拶をすると驚くミリアムの手をスッと握る。
「会いたいかったよ、ミリアム」
「エミリオ様?」
「ふふ、何で疑問形?」
エミリオはミリアムの手をそっと引き、立ち上がらせると、思わずギュッと抱きしめた。
タチアナをはじめ、大勢の人間の前ということもあり、ミリアムは顔を真っ赤にして慌ててエミリオから離れる。
「ひ、人前ですわ…エミリオ様!」
プクッと頬を膨らませ、上目遣いで見上げてくるミリアムを見て、エミリオはその衝撃に目眩で倒れそうになる。
(くっ!なんっっっって可愛いいんだ!この破壊力たるや!あー、すぐにでも抱きしめたい!膝に乗せてこの可愛らしい顔の隅から隅までくまなく口づけたい!)
危うく欲望が溢れ出して無言で抱き去りたくなる衝動を何とか抑え、小さく柔らかなその手を握るに留める。
「カパローニ夫人、ミリアム嬢をお借りしても?」
必死で理性を保ち、タチアナに外出の許可を請う。そんなエミリオにタチアナは「フフフッ」と笑う。
「構いませんよ。夕餉の時刻までにはお戻し下さいまし」
「感謝します。さあ、行こうミリアム!」
エミリオはミリアムの手を引いて走り出そうとした。
「ただし、婚姻前の節度はお守り下さいませ。信頼しておりますわよ?殿下」
微笑みながらクギを刺されたエミリオは「もちろんです!」と背筋を伸ばした。




