兄として友として
ヴァレリアが去った後の応接室にはお茶を楽しむレオナルドと、未だ立ち直れずソファに倒れ込んだままのエミリオが残されていた。
レオナルドはぼんやり空を見つめる第一王子をチラッと見る。
「ミリアム…やっと会えると思ったのに…ミリアム…やっと会えると思ったのに…ミリ…」
何やらブツブツ同じ言葉を繰り返している。さすがに哀れかとため息をつき、ティーカップとソーサーをテーブルに置くと、エミリオに向き直り「あー、ゴホン」と咳払いをした。
「…ミリィに会いたいか?」
レオナルドの言葉にエミリオは飛び起きると、ガシッとレオナルドの両肩を掴む。
「会いたいに決まっている!」
「落ち着け!近い近い!」
真剣な眼差しでグイグイ詰め寄ってくるエミリオの手をどかすと、レオナルドはメイドを呼び筆記用具を持ってこさせ、サラサラと何かを書くとそれをエミリオに渡した。
「これは?」
「今夜母上とミリアムが泊まる予定の宿だ」
「…いいのか?」
「ミリアムの兄としての嫌がらせは済んだからな。このメモは親友としてだ。そうだな、第一王子殿下はせっかく遠方まで来たのでお忍びで視察に出たことにでもしておくか?」
レオナルドはさらっと今回の件は嫌がらせだったと認めたが、そんな事は一切気にもせずエミリオは泣きながらレオナルドに抱きついた。
「ああ!心の友よ!」
「暑苦しい!離せ!」
ギュウギュウと抱きついてくるエミリオを引き剥がそうと必死になっていると――――コンコン!
扉をノックする音がするが、気付かず「おい!」と騒いでいると、それを是と取ったのか扉が開く。「一応、殿下にご挨拶に…まあ…」と声がすると、レオナルドと同じ金の髪に紫水晶の瞳が訝しげな目で二人を見ていた。
「可愛いミリアムを誑かしておきながら、お兄様にまで…ここ最近は少し見直しておりましたのに、裏切られましたわね」
アレッシアは汚物でも見るかのような視線をエミリオに投げかけると、踵を返して立ち去った。
ポカンとしていたエミリオだったが、ハッと我に返ると「誤解だ!私はミリアムだけを愛しているんだ!アレッシア嬢!」と叫びながらその後を追った。
「いつ名前を呼ぶ事をお許ししましたかしら?覚えがございませんけれど!」
廊下の向こうでアレッシアの怒声が響く。
レオナルドは肩をすくめると、助け舟を出してやるかと立ち上がろうとした。
するとその時、瑠璃色の魔法陣が現れ、ヴァレリアが戻って来た。
「ごめんごめん。渡すものがあったのをすっかり忘れてたわ」
ヴァレリアはローブから一通の手紙を取り出すと、それをレオナルドに渡してきた。
「新入りから頼まれたわ。上の妹宛よ」
「新入り?」
レオナルドの問いかけにヴァレリアはフッと微笑うと、ピッと人差し指を立てて口元に持ってくる。
「それは秘密。あ、勝手に読むんじゃないわよ。じゃーね!」
瑠璃色の魔法陣と共に再びヴァレリアは去っていった。




