ちょっとした嫌がらせ
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時を同じくしてカパローニ侯爵家本邸にて、エミリオの予想通り、ミリアムは張り切っていた。
先日、夕餉の席でフェルディナンドからロビンを養子に迎えるという話を聞いたからだ。
ロビンの滞在する部屋の準備に、衣服や身の回りの品の手配、少しでも早く馴染んでもらいたいからと、好きそうな食事やお菓子などを厨房の料理人達に用意させたりと、何かと動き回っていた。
そしてフェルディナンドをはじめとしたカパローニ家の面々はそんなミリアムを「初めての義弟にウキウキするミリアム、なんて可愛い」とニヤニヤしながら愛でていた。
「ロビンはとても活発な子ですから、普段着はお兄様の幼少期のもの以外にも新たに用意した方が良さそうですわね。先日は剣の稽古もしたいと言っておりましたし、子供用の木の剣などもあったら喜ぶかしら…」
ミリアムが何気なく発した“剣の稽古もしたいと言っていた”と言う言葉にフェルディナンドが目を煌めかせて食い付く。
「ミリィ!それは本当かい?ロビンは剣に興味があると?」
「はい、お父様。将来は騎士になりたいと言っておりましたわ」
「なんだって!?素晴らしいじゃないか!」
フェルディナンドは立ち上がると、その勢いのままミリアムに詰め寄った。
「いやー、レオが騎士団ではなくて、第一王子殿下なんかの側近なんかになったから内心つまらないなーなんて思っていたんだよ!私もお祖父様も元騎士団長だっただろう?本当は憧れていたんだ!親子三代で騎士団長!これは義父上にも連絡しなくては!」
「お、お父様…“第一王子殿下なんかの側近なんか”なんて、不敬ですわよ」
ミリアムの忠告を右から左へ聞き流したフェルディナンドは、さっそく子供用の木剣や練習着の手配に走り出した。
「ふふふ、お父様はミリィがお嫁に行ってしまうのが寂しくてしょうがないのよ。見逃してあげてちょうだいね」
一連のやり取りを見ていたタチアナが微笑みながらやって来ると、ミリアムが広げていたレオナルドが幼少期に着ていた服を手に取る。
「小さな男の子なんて久しぶりだわ。仲良くできるかしら?楽しみね」
小さなシャツや靴に愛おしそうに触れながら「ね?」とミリアムに問いかける。金色の髪を緩く纏め、澄んだ紫水晶の瞳を優しく細めたその微笑みは、まさに女神の化身だ。
「はい。ロビンは誰とでもすぐに打ち解ける、本当に可愛らしい子なんですの。お母様もきっと仲良くなれますわ!」
「まあ、そうなの。それは楽しみだわ」
「早く会いたいですわ!いつこちらに着くのかしら!」
「そうねぇ。フェルが知ってると思うのだけど…」
実は今日到着するのだが、ミリアムには伏せられている。なぜならエミリオが同行しているからだ。これからミリアムにはタチアナと一緒に沢山の護衛をつけた上であえて別地区の仕立て屋までロビンの服などを見に行かせる予定だ。せっかくなので宿泊もさせる。ロビンにすぐ会えないのは可哀想だが、これからは毎日一緒にいられるのだからよしとされた。
フェルディナンドは静かに怒っている。
ただでさえ、溺愛する娘の一人が王子に見初められ、断れない縁談が舞い込み、さらに当のミリアムもその王子を慕っているなどと言う大変面白くない状況だった。
それに加えて今回の誘拐だ。白昼堂々と王城から誘拐されるなど、前代未聞だった。まさに王家の手落ちだ。これくらいの嫌がらせは許されて然るべきだろう。
そんな大人げない事を言うフェルディナンドに、タチアナは「しょうがない人ね」と微笑みながら反対はしなかった。アレッシアもまた然り。レオナルドももちろん知っている。知らないのはエミリオとミリアムだけだ。
しばらくして、ミリアムとタチアナは馬車に乗っていそいそと別地区へと向かった。
入れ替わる様にエミリオ達の乗った王家の馬車が到着した本邸では、ロビンの紹介や今後についての話し合いもそこそこに、ソワソワしだしたエミリオに事実が告げられ、膝から崩れ落ちる様をフェルディナンドがほくそ笑み、レオナルドからはそんな親友 兼 主に哀れみの目が向けられていた。




