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男三人、馬車の旅

 夏も終わりに近づき、秋の気配が顔を見せ始めたとある日。

 未だかつてない速さで書類の塔を攻略したエミリオは、意気揚々と馬車に揺られていた。


 カパローニ侯爵領の一つ、ラットフォレスタは隣国との境、国を囲む樹海に面した土地だ。

 アーヴィリエバレイから隣国へ抜ける唯一の街道が通っているため、交通及び貿易の要所であり、守りの要でもある。それ故にカパローニ侯爵家は『樹海の番人』とも呼ばれている。


 ラットフォレスタの領都コンフィーネは、商業地域と居住地域を有するいくつかの近接する街が街道で結ばれ、それぞれの街が長い時間をかけて拡大して繋がっていった都市で、かつての街の括りはそのまま地区となった。

 王都クオーレに次ぐアーヴィリエバレイの第二の都市だが、国境のため王都からそれなりに距離がある。

 一番王都寄りの地区でも馬車だと途中宿泊と休憩を挟みつつ2日程、街道に沿うように拡がっている為、一番遠い地区だと3〜4日程かかる。今回は馬車に慣れていないロビンがいる為、さらにゆとりを持った旅程を予定していた。


(もうすぐラットフォレスタに入る。ミリアムに会える!)


 窓の外を眺めながら最愛の婚約者の姿を思い浮かべ、思わず頬を緩ませる。


(よく手入れされた胡桃色の髪の毛に陶器のような肌、薄桃色の頬と唇、長い睫毛に縁取られたヘーゼルの大きな瞳、『エミリオ様』と呼ぶ可愛らしい声、力を込めたら壊れてしまいそうな華奢な身体…ああ、いっそこの腕の中に閉じ込めてしまいたい!)


「おい」


 美貌の親友の声によって現実へと引き戻される。


「うん?」

「顔が気持ち悪いぞ。何か邪なことを考えていただろう」


 ミリアムの兄レオナルドはここの所、エミリオが頭の中で行っている溺愛する妹(ミリアム)への妄想を察知する能力が高まりつつあるのか、よくこういったやり取りが行われている。


「フフン。いつもならばカチンとくる場面だが、今日の私は違うぞレオ。何せ今日この後ミリアムに会えるからな!今の私の心は樹海よりも、大渓谷の向こうの魔境よりも広い!」


 “魔境よりも広い心”と言う意味のわからない迷言にレオナルドは一瞬この国の行く末を案じた。


「…そう簡単にミリアムに会えればいいがなぁ…」

「うん?何か言ったか?」

「いや、なんでもない」


 ボソリと呟いたレオナルドの言葉はエミリオには届かなかった。


「ねぇ、レオお兄さん。よこしまってなに?」

「ああロビン、ここにいる第一王子殿下がいつも考えているような、あまりよくない考えの事を“よこしま”と言うんだ。覚えておくといい」

「ふぅん。デンカお兄さんがいつも考えていることが“よこしま”なんだね!ミリィお姉さんにも教えてあげようっと!」

「レオ!ロビンになんて事を吹き込んでいるんだ!ロビン、私は決して“よこしま”な事など考えていないぞ。そして、私の名前はデンカではなくて、エミリオと言うんだ!覚えるならこちらを覚えるといい」


 レオナルドが吹き込んだ都合の悪い言葉を必死に否定するエミリオ。そんな二人を楽しそうにニコニコと見守るロビン。

 こうして三人を乗せた馬車はラットフォレスタの領都コンフィーネにあるカパローニ侯爵家本邸に向かって街道を進んでいく。

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