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執務室にて

 ◇



「あああ!何故だ…」


 エミリオは頭を抱えながら執務室のソファでのたうち回っていた。


 ――――ガチャッ


「エミルこの書類なんだが……随分と楽しそうなことをしているな?」


 書類の束を手に執務室に入ってきたレオナルドは、溜息をつきながら持っていた書類の束を執務机に積み上げていく。

 エミリオはそんなレオナルドをジロリとひと睨みすると、拗ねたように膝を抱えてソファに座り直した。


「全くもって、全然、微塵も楽しくない!ミリアムが!王都にいない!もう1週間も会えていない!」


 ミリアムは今カパローニ侯爵家の領地の一つ、ラットフォレスタにある本邸に滞在している。


 1週間前に起きた誘拐事件。無事に救出されたミリアムだったが、フェルディナンドがしばらく療養させると言い出し、解放されたその足で本邸に移動した。王城での側近の仕事があるレオナルドのみを残し、タチアナとアレッシアも一緒だ。

 そして、ミリアムを見舞いたいと言うエミリオからの連絡はのらりくらりと躱され、夜会や茶会も全て欠席。タチアナとアレッシアという()を失った社交界は何となく寂れた雰囲気すら漂っている。

 短期間で愛する娘二人が立て続けに誘拐され、両方とも原因が王家にあった為、フェルディナンドの怒りに触れたのだった。街道封鎖などはされていないものの、軽い籠城を決め込んでいた。

 レオナルドの話では、フェルディナンドの怒りが冷めない限り戻ってこないだろうとの事だった。ミリアム自身がエミリオを慕っているため婚約が破棄される事はないが、最悪の場合、婚約式で一度戻ったとしても再び籠もり、婚姻まで自由に会えないかもしれないとの事だった。


「あああああ!ミリアムが足りない…ミリアムに会いたい…ミリアム…」


 レオナルドは俯きながら膝を抱えてブツブツと呟く親友を呆れた目で見る。


「落ち込むのは結構だが、手は動かしてくれ。お前の決裁待ちの案件が溜まってきている」


 非情な美貌の側近にエミリオはさらに落胆し、膝を抱えた態勢のまま横に倒れる。


「無理だ。なんにもやる気になれない…」


 その様子に「はぁ…」と溜め息を一つついたレオナルドは、エミリオの向かいのソファに腰を下ろす。


「実はロビンなんだが、我が家で養子に迎えようと思っている」


 レオナルドの話にエミリオはムクリと起き上がり、姿勢を直した。


「【真・救国神教】の件も片付いた事だし、そろそろ身の振り方を考える時期だろう」

「ああ、そうだな」

「ヴァレリア様とも既に話はついている。まだ幼いし、保護が必要だ。ヴァレリア様はこのまま面倒を見ても良いとおっしゃって下さっているが、将来的な事を考えるとどこかの家に養子に入るのがいいだろう。幸いロビンもミリアムに懐いているし、ヴァレリア様としても今後も定期的に見守りたい意向を示しておられるから、我が家だと何かと都合がいいらしい」

「そうか。まあ、いいんじゃないか?」


(可愛がっているロビンが義弟になるなら、ミリアムはきっと喜ぶだろうな…。きっと張り切っていろいろ世話を焼くに違いない…。喜ぶミリアムに張り切るミリアム…ああ、可愛い…想像でも可愛い…)


 エミリオは義弟の世話に張り切るミリアムを想像して顔をニヤけさせる。


「お前、絶対に今良からぬ想像をしているだろう?」

「いや?」


 慌てて表情を引き締めるエミリオにレオナルドはまた溜め息をついた。


「それでな、近々ロビンをラットフォレスタの本邸に連れて行くが、書類を終わらせることが出来たら連れて行ってやらん事もな「すぐやろう、さあ、どれだ!?」」


 かぶせ気味でやる気を出したエミリオは素早く執務机につき、ペンを取った。


 その日、翡翠宮のエミリオの執務室は灯りが消えることはなかった。

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