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囚われのミリアム

「う…うーん」


 ミリアムが目を覚ますと見知らぬ部屋の寝台に横になっていた。


「ここは?…ロビン!ロビンはどこ!?」


 辺りを見回すが、室内にロビンの姿はない。部屋には天蓋の付いた豪奢な寝台に一人がけのソファが一つ、扉が二つ。窓は天井にはドーム型のもののみ。


「扉には当然鍵が掛かっていますわね」


 二つの扉を確認するとどちらも鍵が掛かっている。壁面に窓がない所を見ると、ここは高貴な身分の人間を閉じ込める為の部屋なのかもしれないとミリアムは推測した。

 ひとまず一人がけのソファに腰を下ろすと、扉の一つからガチャガチャと開錠される音がし、紅玉宮でお茶を運んできた年若い侍女が現れた。


「お目覚めになりましたか?」


 侍女はニコリと貼り付いたような笑みを浮かべると、ミリアムに隣の部屋に来るように促す。


「待ってちょうだい!ロビンはどこに行ったのです!それにここはどこですの?」


 ミリアムは侍女に問いただすが、侍女は何も答えずただミリアムが部屋から出てくるのを待っている。埒が明かないので渋々ミリアムが部屋から出ると、隣は応接室の様な所で二人がけのソファが向かい合い、その間にはローテーブルが置かれている。

 そして、そのソファには見覚えのある青年が座ってこちらを見ていた。


「あなたは…」

「やあ、カパローニのまぼろし姫」

「…イヴァン第二王子殿下。ご機嫌麗しゅう…」


 カーテシーを行うミリアムに、「よしてくれ」とイヴァンは声をかける。


「先に謝っておく。この度の事、申し訳ない」


 なぜか頭を下げてくるイヴァンにミリアムは戸惑いを隠せない。


「お、お顔をお上げくださいませ。なぜ殿下が謝罪など…」

「この誘拐劇、黒幕は私の伯父のサンタンジェロ公爵だ。私も先程軟禁されていた郊外の離宮から連れ出されたんだ」


 イヴァンがそう語ると音を立てて扉を開き、身なりの良い中年の男性が入って来た。


「イヴァン殿下、ご無事に到着された様で何よりです」


 男は恭しくイヴァンに挨拶する。


(ノックもせず勝手に入ってくる無礼をはたらきながら恭しく挨拶するなんて、よくわからない方だわ)


 ミリアムがチラッとイヴァンの方を見るとイヴァンは首肯して答える。この男がサンタンジェロ公爵なのだろうとミリアムが察し、一応挨拶をと思ったその時、公爵が口を開く。


「今タチアナ様のお声にそっくりな声が聞こえてきたものですから、嬉しさのあまり慌ててしまいましたぞ。で、カパローニ侯爵家の令嬢はどちらに!?」


(ここにおりますわよ。目の前に)


 ご多分に漏れず、ミリアムはカパローニ家の人間とは認識されなかった様で…目の前でどこにいるのかと聞かれた。


「こちらのご令嬢がカパローニ侯爵家が次女、ミリアム・ファリナ・カパローニ嬢です。伯父上」


 公爵はミリアムに視線を向けると、眉をひそめる。


「いやいや、馬鹿を言ってはいけませんぞ。それなりに可愛らしいご令嬢だが、カパローニの令嬢とはとてもとても。イヴァン殿下はタチアナ様やアレッシア嬢を見かけた事は?子息のレオナルド卿もあの美貌!一般の者とは格が違う!」


 イヴァンの気まずい視線を受け、ミリアムはため息を一つこぼす。


「間違いなくカパローニ侯爵家が次女ミリアムですわ」


 その声を聞き、サンタンジェロ公爵は目を見開く。


「姿はとても似つかないが、その声!その声はタチアナ様そのもの!ああ!なんと残念な!」


 あんまりな言い草にミリアムはポカンと時が止まり、イヴァンは遠い目をした。


「イヴァン殿下…。わたくしあまり人のお身内を悪く言いたくはございませんが、…公爵はずいぶんと失礼な方ですのね」


 ミリアムが小声で囁くと、イヴァンは申し訳なさそうな顔で首肯する。


「その点に関しては大変申し訳ないとしか言いようがない」


 その様子を見ていたサンタンジェロ公爵は「ふん」と小馬鹿にしたように鼻で笑う。


「さっそく仲が良くなったようで何よりです。わざわざ第一王子が付けた護衛を掻い潜ってお連れしたかいがあったというもの。あの異世界の子どもの身が大事ならば変な気は起こさないことですぞ」


 異世界の子どもと聞いてミリアムはカッとなり、公爵に詰め寄る。


「ロビンは!?ロビンはどこにいるのです!無事なのですか!?」


 公爵は目を瞑りながらその声を聞き、恍惚とした表情で明後日の方向を向く。


「ああ、目を瞑りながら聞くとまるでタチアナ様に詰め寄られているようだ…」


 ボソボソっと呟いた言葉にミリアムとイヴァンはドン引きした。


「無事ですとも。貴女が大人しくしている限りは」

「な!子供を盾に取るなんて!今すぐロビンに会わせてくださいませ!」

「フン、何とでも言えばよい。せいぜい二人の仲を深めることですな。第一王子を亡き者にしてイヴァン殿下の婚約者となっていただくのだから!」


 掴みかかろうとするミリアムをイヴァンが止める。とんでもない事を口にして公爵は部屋を出て行った。

 すかさず部屋の前には監視の者が立ち、扉には外から鍵が掛けられた。


「なんて事を…。ああ、エミル様…!」


 ミリアムは両手で顔を覆うと、その場にしゃがみ込んでしまった。イヴァンは困った様に髪をかき上げると、「ひとまず座ろう」とミリアムをソファに促した。

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