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飲みかけのティーセット

   ◇



 時は遡る。

 ミリアムはロビンと共に王城の紅玉宮にある客室でエミリオ達の帰りを待っていた。

 兄のレオナルドや近衛隊、それに加えて救国の魔女三人もついているので何も心配はないと分かってはいるものの、とにかく怪我なく無事で帰ってほしいと祈るような気持ちだった。


「ミリィお姉さん、みんな大丈夫かな?」


 不安げなロビンにミリアムはフワリと笑いかける。


「きっと大丈夫よ。皆様とてもお強くていらっしゃるからね」

「うん。あのね、ミリィお姉さんのことは僕が守ってあげるからね!」

「まあ!本当に?頼もしいわね!」


 最近王城に来る事が多く、間近で騎士を見る機会が増えたロビンは騎士に憧れているらしい。

 樹海ではよく拾った木の枝などを腰に差して騎士の真似事をしているとヴァレリアが言っていたのを思い出し、得意げに自身の胸を叩くロビンをミリアムは微笑ましく思った。


「ロビンは大きくなったら騎士になりたいの?」

「うん!騎士になってリアお姉さんやミリィお姉さんを守るんだ!」

「うふふ。それは嬉しいわ!」


 騎士になるにはある程度の身分がなければ難しい。異世界から召喚され、身分どころか家族もいないロビンが本当に将来騎士を目指すのであれば、どこか然るべき家の養子になるのが一番良いだろう。

 稀にいる異世界から転移してきた人々は、ヴァレリアが保護し、国で行く末を決めるのが通例だが、ほとんどは市井で家と職を斡旋し、平民として暮らしていくものだ。だがしかし、ロビンは偶然転移してきたのではなく人為的、しかも私欲のために一貴族が犯した罪だ。例外的に貴族の養子として迎えられる可能性もある。


(もし、貴族の養子に入るのであれば我が家はどうかしら…。お父様もお祖父様も騎士団に所属していらしたし、お兄様に相談してみようかしら。何より、ロビンみたいな弟が出来たら、わたくしとても嬉しいわ)


 そんな事を考えていたら扉をノックする音がした。


「失礼いたします。お茶をお出しするように指示を受けましたので、お持ちいたしました。入室してもよろしいでしょうか?」


 侍女の言葉に、ミリアムは安心して入室を許可すると、年若い侍女がティーセットを載せたワゴンを押して入室してきた。

 侍女は手早くお茶の準備をすると、窓際にあった2人用の小さな円卓にそれを並べる。


「ロビン様にはこちらをどうぞ」


 そう言ってジュースの入ったグラスと小さな焼き菓子をロビンの前に置く。

 ロビンはホクホクとした顔で焼き菓子を頬張り、ミリアムは淹れたてのお茶に口を付ける。

 薫りを楽しみ、お茶が喉を潤したその時、ロビンが虚ろな目で円卓に倒れ込んだ。


「ロビン!?どうした…の?…あ…ら…」


 ロビンに駆け寄ろうとしたミリアムもまた、視界がグニャリと歪み、意識を手放した。


 それを眺めていた年若い侍女はニヤリと怪しい笑みを浮かべると、懐から黒い宝石と紐飾りのついた杖を取り出し、二人の頭上に魔法陣を展開させ、自らもその魔法陣の下に入る。

 光が部屋を包み込むと、三人は忽然と姿を消した。


 窓辺の円卓には飲みかけのティーセットとジュースが残された。

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