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アニバーサリー

 テラスの中央には大理石の円卓が置かれ、卓上には色とりどりの菓子類や淹れたてと思われるティーセットが置かれていた。

 そしてその円卓を囲むようにさらに2人の女性が座っている。一人は頬杖を突き、腰まであるふわふわの金の髪に瑠璃色の瞳をした小柄な美少女。もう一人はスッと伸びた背筋に一つに束ねた絹のような黒髪を前に流し、涼し気な切れ長の瞳は銀色をした中性的な麗人であった。


「リーチェ、誰よ?そのちんちくりんの地味娘は」


 目の前の美少女から発せられたとは思えない言葉遣いに、ミリアムは唖然とした。


「んもう、リアったらお口が悪いわねぇ。この子はミリィよ。カパローニ侯爵の娘ですって」

「ミリアム・ファリナ・カパローニと申します」


 ミリアムは再びカーテシーをした。


「ほう、フェル坊の娘か。あいつはもうこんなに大きな娘がいるのだな」

「えー!フェルの娘にしては地味すぎじゃない?」

「でもぉ、眉毛の形と瞳の色はフェルと同じだし、お鼻の形はアナにそっくりよぉ」

「確かに。よく見るとフェルにもアナにも似ているな」


 彼女達がフェルと呼ぶのはフェルディナンド・ロッシ・ルイジ・カパローニ侯爵。アナと呼ぶのはタチアナ・ガエターナ・カパローニ侯爵夫人。

 ミリアムの両親である。


(え?この方達はどう見てもお父様とお母様よりお若いのではないかしら?)


 思わず訝しげな表情をするミリアムに、ベアトリーチェは優しく微笑みかけた。


「うふふ、あなたのご両親の事はよぉーく知っているのよぉ。ご結婚された時とっても騒ぎになったからねぇ。世紀の美男美女カップルとかなんとか…」

「父と母が結婚した時って…、失礼ですが、皆様はまだお生まれになっていらっしゃらないのでは?」


 ミリアムが疑問を口にすると3人は吹き出した。


「ごめんなさいね、そうよねぇ。私たち時が止まってるから若く見られがちなのよね」


 ベアトリーチェは扇を口元で開きながらクスクスと笑った。


「二人をまだ紹介していなかったわね。このふんわり金髪娘がヴァレリア、黒髪のとんがり耳がエレオノーラよ。私の事も知っていたんだから、名前くらいは聞いたことがあるんじゃなぁい?」

「え、ええ。樹海の魔女・ヴァレリア様と最果ての魔女・エレオノーラ様でいらっしゃいますね」

「あったりー!よく知ってんじゃないの」


 そう言うと、ヴァレリアが円卓に肘を突いたまま焼き菓子を一つ口に放り込む。


(まあ、せっかくの美少女が台無しだわ…)


「今、美少女が台無しとか思ったでしょ」


 ヴァレリアの指摘にドキリと背筋を伸ばすミリアムを見て、3人はさらに笑う。


「リアが台無しなのは昔からだ。気にするな」

「そうよぉ、もっとお淑やかにしてればお人形さんみたいに可愛いのにぃ。もったいない」

「えー。マナーとか言葉遣いとかさー。堅苦しいのは嫌いなんだもん。だから普段は樹海に引っ込んでんのよ」

「あの、話がずれていらっしゃいます!皆様はわたくしとそうお年も変わらないようにお見受けしますが、違うのですか?」


 3人は顔を見合わせると、「あー」と言った雰囲気でミリアムを見た。


「ねぇ、ミリィも王国史はお勉強してるわよね。序章に出てくる3人の魔女を覚えているかしら?」

「もちろんです。3人の魔女様の結界のお陰でこうして平和な暮らしが出来ていますもの」

「そうね。それでね、その3人の魔女の事は他にどんな事を知っているかしら?」


 ミリアムは家庭教師に習った王国史を思い出してみる。


「結界を維持する為に、それぞれ王宮、樹海、渓谷に居を構えて代々お名前と共に受け継がれていらっしゃるのですわよね」


 そう答えるとヴァレリアが頭の上に両手でバツを作り、エレオノーラがフッと鼻で笑った。


「ブッブー!半分不正解でーす!」

「え?どの部分が…?」

「あのねぇ、実は私たち代替わりなんてしてないのよぉ。肉体の刻が止まっているの。天啓にもあったでしょ。“永遠の刻を刻む”って」


「ええええーーーー!」


 驚きのあまり口をパクパクさせるミリアムをみてヴァレリアが爆笑する。


「あはは!餌待ちの魚みたいよ!ミリィ!」

「で、では皆様のご年齢って…」

「あらぁ、レディに年齢を聞くなんてマナー違反よぉ。でもいいわ、教えてあげる。私は821歳」

「あたしは817歳よ」

「私は820歳になる」


「一応機密事項だから、他の人にはお話ししないでちょうだいねぇ。そして、これが1番重要なんだけど…」


 ベアトリーチェはぐぐっとミリアムに顔を近づけ、満面の笑みを浮かべた。


「何と今年は出会って800周年のアニバーサリーイヤーなのよぉ」


 ベアトリーチェは自身の両頬に手を充て、嬉しそうに身をよじらせる。

 ミリアムは混乱しながらも、「最後の情報は割とどうでもいい」と少し冷静になった。


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