襲撃
「何人いる?」
「窓から見える範囲だと…7、あー8人っすかね」
エミリオはミリアムの肩を抱き寄せ、安心させるようにもう片方の手で震えるその手を包み込む。
「エミリオ様…何が起きているのでしょうか?」
ガタガタと震えるミリアムの頬にそっと口づけを落とすと、エミリオは少し屈んで目線を合わせる。
「何があっても大丈夫だ。私も、ここにいるディーノもそこそこ強いし、実は護衛もいる」
「え?」
ミリアムが店内を見回すと、他の客だと思っていた者たちは護衛の近衛騎士だったようで、各々警戒態勢に入っていた。
「爆発音はなんだったんだ?何か見えるか?」
ディーノは窓からつぶさに外の様子を観察する。
(10メートル程離れた場所にあった馬車が燃えているのが見える。恐らくこれを爆破した音だろうか。赤いローブの集団の人数は8人。一見7人かと思ったが、向かいの建物の屋根に1人いるのがかろうじて見える。見張りか何かか?)
「少し離れたところで馬車が燃えているっす。爆破音はそれじゃないっすかね。近付いてくるっす!」
そう言うやいなや、店を取り囲んでいた赤いローブの集団が次々と店内に押し入ってきた。
エミリオはミリアムを背に隠し、護衛たちがその周りで臨戦態勢に入る。
「エミリオ第一王子とお見受けする!」
赤いローブの集団のうち一人の男が前に出てくる。
「お前たち、何者だ!?」
エミリオが叫ぶと、男はバッと両腕を広げる。その手には黒い紐飾りと魔石で飾られた杖が握られていた。
「我々は真の救国神に仕えし、神の使いだ!遥か遠き昔、我々から救国神たる聖なる竜を奪った憎き魔女に与する卑しい王子よ!貴殿にはここで消えていただく!」
男がその手に持った杖を上に掲げると、翠緑の魔法陣が現れ、小さな火球がクルクルと魔法陣を廻る。轟々と燃え盛るそれは中心に近づくにつれ、大きさを増していった。
それを合図にその他の者たちも一斉に襲いかかってくる。
「そんなものを出して、周辺も巻き込むつもりか!」
ジリジリと男が近づき、いよいよ最大級に到達した火球を解き放とうとしたその時、火球の真上に瑠璃色の魔法陣が現れ、雷鳴と共にいくつもの閃光が周囲を走る。眩い光が一瞬にしてあたりを包み込むと、燃え盛っていた火球が跡形もなく消えた。
そして、エミリオたちと赤いローブの男の間に金の巻き毛に瑠璃色の瞳の人形の様な少女が降り立ち、嫣然と微笑んでいた。
「ヴァレリア様!」
一見すると儚げなその姿に安堵する。樹海の魔女ヴァレリアは自身の白銀の杖を構え、赤いローブの集団を一瞥する。
「せっかくのミリィのデートを邪魔するなんて無粋な奴らねー。…せっかく覗き見してたのに台無しじゃないのよ」
最後の不穏な一言をエミリオは聞き逃さなかった。
「覗き見とかいいませんでしたか!?」
「今そこ食いつくんすか!?」
赤いローブの集団も、全員が全員魔力があるわけではないらしく、剣やナイフ、メイスなどの武器を持った者たちは護衛の近衛騎士とディーノが交戦中であった。
ディーノはブレードナイフを両手に持ち、向かってくる者を体術も織り交ぜながら沈めていく。
「いやだって、覗き見されるのはちょっと嫌だろう?」
斬り込んできた剣を横に受け流し、剣の柄で相手を昏倒させながらエミリオが答える。
「エミリオ様!危ないですわ!」
エミリオを後ろから狙っていた者をミリアムがその辺で拾った燭台で殴打する。
「やんじゃないのミリィ!でもあんたは下がってなさい!こいつらを拘束するわ!」
ヴァレリアはゆっくりと杖を旋回させながら瑠璃色の光の渦を創ると、自らの頭上に魔法陣を展開させた。
『カットゥラーレ!』
ヴァレリアの言葉に反応するように、瑠璃色の光が矢のように降り注ぎ、赤いローブの者たちに向かって飛んでいく。突き刺さるかのように見えた光の矢はそのまま光の拘束具となり、襲撃者たちを見事に鎮圧したのだった。
「ありがとうございます!ヴァレリア様!」
三人はヴァレリアに駆け寄った。ヴァレリアはパンパンッとローブの裾を直すと、金の巻き毛をかき上げた。
「フン。別に大したことないわよ。こんなやつら」
「でもどうしてここがわかったんですか?」
エミリオが疑問を口にすると。ヴァレリアは目を逸らしながら答える。
「…レオのやつがあんたたちのデートを監視してほしいっていうから、便乗して覗いてたのよ」
とんでもない発言にミリアムは唖然とした。
「の、覗いていた?どこからでございましょうか??」
「全部よ」
「もしかして、皆さんで?」
「当たり前でしょ」
「いやぁぁぁぁぁ!」
顔を押さえて逃げ出そうとしたミリアムを後ろからエミリオが抱きしめて捕らえる。
「他の皆さんは?」
「エリーは外のもう一人を捕らえに行った。リーチェとレオは何か調べることがあるって言って、王城に残ったわ」
「調べること?」
「そう」
その時、ドアからエレオノーラが入ってくる。
「すまない、屋根の上にいた者は逃してしまった。ただ、一瞬フードが取れた後ろ姿は白銀色の髪だった」
“白銀の髪”ということはジルだろうか?
一同に緊張が走った。
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