聖なる竜と悪しき竜
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「つまり新たな救国の魔女を創り出して、入れ替えようとしてるってことぉ?」
「そんな事が可能なんですか?」
エミリオの問いに、三人の魔女は首を横に振る。
「それは無理ねぇ。聖なる竜そのものがもういな
いからぁ」
「そもそも聖なる竜は実在したのですか?」
「800年前には実在していたんだ」
「うーん。王国史はだいぶ脚色されたり、端折ったりしてんのよねー。詳しく話すと長くなるけど、聞きたい?」
魔女たちが言うには、王国の歴史として編纂されているものは、史実も含まれはするものの、800年の時の流れの中で時代の者の手によって脚色されたり、端折られたりしてしまっているらしい。
エミリオとレオナルドは神妙な面持ちで頷いた。
―――真実の物語―――
遥か以前、神々がまだ地上にいた時代、双子の白銀の竜がいた。
双子の竜はそれは仲が良く、いつも二匹で遊んでいた。
ある日、とある神に悪戯をした双子の竜だったが、その時、兄が神に見つかり、弟は上手く隠れた。
神は罰として見つけた兄を人間の姿に変え、人里近くの森の中に飛ばしてしまう。
それを見ていた弟は兄を戻してほしいと必死に神に赦しをこうが、聞く耳を持たれなかった。
兄が森の中で倒れていると、一人の娘がそれを見つけ、自身の家に連れ帰った。
神に森へと飛ばされた時に負ったのか、身体中が傷だらけだった。
僅かながら癒やしの力を持っていた娘は、毎日少しずつ兄の傷を癒やした。
美しい娘の献身的なその姿に、兄はすぐに恋に落ちた。来る日も来る日もその娘に愛を囁き、ついに二人は結ばれる。
二人の間には子供が一人産まれた。兄の人間の姿と同じ、白銀の髪に金色の瞳をした美しい子供だった。
一方、弟は兄を竜に戻す為に神に赦しをこい続けた。来る日も来る日も必死に赦しをこいに来る弟に、神はついに根負けし、兄を竜の姿に戻して弟の元へ還した。
弟は兄の帰還を喜んだが、愛する妻と子供と引き離される結果となった兄は嘆き悲しんだ。
『なぜ、放っておいてくれなかったのだ!』と。
変わってしまった兄のその言葉に弟は傷ついた。
『あんなに仲が良かったのに、生まれた時から、いや生まれる前からもずっとずっと一緒にいたのに、なんで変わってしまったんだ!』と、兄を変えた人間を憎むようになるまでに時間はかからなかった。
憎しみの心が膨大な魔力と結びつき、弟は日に日に変化していった。
白銀の身体は黒くなり、身体からは瘴気が溢れ出した。
やがてその瘴気が世界を包み込もうとすると、神々は弟の息の根を止めようとした。
しかし、弟の変化は自分のせいだと嘆いた兄は、弟を地の果に封印すると、自らも封印の番としてそこに留まった。
『もう離れることはない』と約束して。
時は流れ、神々は地を去り天に昇った。地上には人や動物が溢れ、平和な時が長く続いた。
しかし、永久には続かない。弟の封印に力を使い続けた兄の命の灯火は、静かに消えようとしていた。
それに伴い、弟の封印が解けてしまう。
兄は再び弟を封印する為、三人の人間を呼び寄せる。人間にして膨大な魔力を持っていた王妹ベアトリーチェ、異世界の少女ヴァレリア、二つの種族の血をその身体に宿すエレオノーラ。
兄は自分の血を介して、三人にその力を分け与えると、最後の力を振り絞って自らの姿を魔石に変えた。三人はその魔石を使い、杖を創り出し、悪しき竜と化した弟を再び封印したのだった。
―――――――――――
「これがその時創り出した杖よ」
三人は各々の杖を卓の上に置く。どの杖も白銀の芯材に色とりどりの石が飾り付けられている。
「魔女様の杖は聖なる竜から作られていたのですね」
「そうよぉ。杖がなくても魔法は使えるけど、やっぱりあった方が安定するわねぇ。聖なる竜が支えてくれてるのかしらねぇ」
ニコッと微笑みながら杖を再びローブにしまう。
「兄の竜と人間の間に生まれた子供がフェリーネ家の祖先にあたるのでしょうか?白銀の髪に金色の瞳…」
レオナルドの言葉に魔女達は頷く。
「恐らくそうだな。だから、奴らは正しく聖なる竜の末裔ではあるんだ。だから祖先が自ら行ったのだとしても、その血を身体に取り込み、骸を杖に変えた私達を受け入れられないんだな」
「魔女様がたのお身体の刻が止まっているのは、聖なる竜の加護とか祝福みたいなものなのですか?」
エミリオのその言葉に三人は自嘲気味に笑う。
「聖なる竜の『祝福』だと思う?こんなのは『呪い』よ。身体の刻が止まる。なんて残酷なのかしらね。友も愛した人も、皆等しく年老いて死んでいくのに、私たちはいつまでも若いまま。『呪い』と言わずに何と言うの?」
重苦しい空気が室内を支配する。
パンッ!とベアトリーチェは手を叩くと、華の様な笑顔を浮かべる。
「はぁい。暗い話はおしまいにしましょ!話をまとめるとぉ、新たな救国の魔女を創り出すことが目的なら、またアレッシアちゃんが狙われる可能性があるわねぇ。ま、他の貴族令嬢を拐う可能性も捨てきれないけどぉ」
「まあ、今回の誘拐自体、最初からアレッシア嬢狙いっぽいしね。警戒した方がいいわ」
話がまとまりかけたところで、ロビンがサロンの扉を開け、一目散にヴァレリアのもとへ駆け寄ってくる。
「リアお姉さん!お腹空いたよー!」
「こら!扉を開ける前にはノックする!こないだ教えたでしょうが」
すっかり子育てが板についたヴァレリアに一同は目を細める。…ただ一人を除いて。
「ズルい!リアったらズルいわぁ!私だってロビンに駆け寄ってもらいたぁい!ほらぁ、ロビンお菓子がここにあるのよぉ!私の隣にいらっしゃいなぁ」
すっかり魔女としての威厳を無くしたベアトリーチェに重苦しい空気は霧散した。




