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薔薇園の秘密の小道

 ◇



「まぁ、本当に綺麗…」



 薔薇園に辿り着くと、その圧巻の美しさに思わず嘆息する。

 色とりどりの大輪の薔薇は王妃が嫁いできた際にその御名を冠して特別に作られた品種で、この薔薇園のみに咲くものだった。

 匂い立つ様な凛とした美しさにミリアムはしばし目を奪われた。

 その他にも陛下の御名を冠したものや、二人の王子殿下のものもある。


「素晴らしいわ…。庭師の方々が丹精込めてお世話をされているのね」


 ミリアムが大小様々な品種が植えられた薔薇園をゆっくり見てまわっていると、薔薇と薔薇の間に人が一人通れる程の小道を見つけた。


「どこかに続いているのかしら?」


 興味をひかれ、そっとその小道を進んでいく、小道は本当に人一人がやっと通れる程の狭さで、両脇にはやはり薔薇が植えられていた。しばらく進んでいくと、急に視界が開け、薔薇園とは趣の違う庭園が見えてきた。

 小さな池をぐるりと囲むように様々な種類の植物が植えられている。

 薔薇のような華美なものは少なく、小さく可憐な花を付けたものや、薬草などがあるようだった。

 不思議なことに同じ季節に咲くはずのない花や、実を付ける時期が違うものなども見られた。


「薔薇園の中にこんな場所があったのね。あの花はもっと寒い時期に咲くものだし、あの木になっている果実は夏の終わり頃のもののはず…あの花なんて朝方に咲いて昼前には閉じてしまうはずなのに…。不思議な庭園だわ」


 そう呟きながらその庭園にミリアムが足を踏み入れようとしたその時、「ビリリッ」と何かが引き裂かれる音がした。

 ハッとしたミリアムが自身のドレスを確認すると、スカート部分の裾が薔薇の枝に引っ掛かり少し裂けてしまっていた。


「ああ、どうしましょう…。これではお茶会に戻れないわ」


 ミリアムがオロオロとしていると、庭園の奥から一人の女性が現れた。


「あらぁ、お客様かしらぁ?」


 少し間の伸びた話し方をした、長身で燃えるような赤い髪に夜明けの空の様な瞳をした美しい女性。特筆すべきは全身を真っ黒なローブですっぽりと包んでいる所だろうか。


「私はベアトリーチェ。あなたはどなた?どこから来たのぉ?可愛らしいお嬢さん」


 ベアトリーチェと名乗る女性は微笑みながらミリアムに問いかける。


 しばし女性に見とれていたミリアムはベアトリーチェと言う名前と、王宮という場所から女性が誰かを推測し、慌ててカーテシーをする。


「わたくしはカパローニ侯爵が次女、ミリアム・ファリナ・カパローニと申します。本日は王妃殿下主催のお茶会に出席するため、登城しておりました。中央の魔女・ベアトリーチェ様とお見受け致します、ご挨拶が遅れまして申し訳ございません」


 ミリアムが挨拶をすると、ベアトリーチェはニッコリと華の様な笑みを浮かべてミリアムの周りをぐるりと回った。


「侯爵令嬢ちゃんだったのねぇ。ミリアムだからミリィかしらねぇ。うふふ。それにしても…」


 ベアトリーチェはミリアムを頭からつま先まで視線を動かすと、持っていた扇をバッと口元で広げた。


「あなた地味ねぇ~。モスグリーンも悪くないけど、初夏なんだからもっと爽やかな色味の方がいいんじゃなぁい。ミントグリーンとかレモンイエローとか。それに、あら?あなた裾が裂けてしまっているじゃないの」


 ミリアムは己のドレスの惨状を思い出し、俯いた。


(ああ、見られてしまったわ。恥ずかしい…)


「お、お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ございません。薔薇園を散策中に素敵な小道があったので、興味を惹かれて夢中で歩いておりましたら、枝にひっかけてしまいまして…」

「あらあら、小さな子供の様なレディなのね。でも、それじゃあお茶会には戻れないでしょう。ついていらっしゃいな」


 ベアトリーチェはそう告げるとミリアムの手首を掴み、庭園の奥へと連れていく。入口からは見えなかったが、奥には小さな邸宅があり、庭園を臨むようにガラス張りのテラスがあった。


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