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鈍感娘

 ◇



「これは深刻だわぁ…」


 王城の中庭の一画、薔薇園に面する薬草園の中の小さな邸。ここは中央の魔女・ベアトリーチェの邸である。

 王族の薬箱と称されるこの邸では、ベアトリーチェが王族に使う薬を管理している。調合室からヨロヨロと出てきたベアトリーチェは壁の棚にしまっていた水晶玉を取り出すと、目的の人物に繋げるべく魔法をかける。


『なーにー?今、鍋火にかけてんだけど』


 気怠げに応答した目的の相手は樹海の魔女・ヴァレリア。


「かなり深刻な状況なのよぉ!すぐに来て欲しいわ!」


 いつも掴みどころのないベアトリーチェにしては珍しく、余裕のない様子にヴァレリアは驚く。


『な、どうしたのよ?なんかあった?』

「…不足してるのよ」

『…は?』

「深刻な…ロビン不足だわ!」

『…はぁ?』

「リアばっかりずるいわぁ!ロビンに会いたいわぁ!スベスベでプニプニのあのほっぺ!」

『…切ってもいい?』



 そんなやり取りがあり、粘りに粘ったベアトリーチェにヴァレリアがついに根負けする形でお茶会をすることになった救国の魔女3人とロビン少年。


「今日はミリィお姉さんはいないの?」

「呼ぶわぁ!今すぐに!」


 ロビンの一言でミリアムも呼ぶことにしたベアトリーチェは杖を一振りして空間転移の魔法陣を展開する。

 暁色の光と共に、何かを食べようとしていたのかデザートフォークを片手にはにかんだ笑顔を浮かべたミリアムが現れる。


「…」


 悲しげな表情になるミリアム。


「あらぁ〜、タイミング悪かったかしらぁ…?」

()()のタイミングですわ」


 涙目になったミリアムは手に握ったデザートフォークを眺めながら訴える。


「ようやく入手しましたのよ…。パスティッチェリーアで数量限定の“トルタリモーネ”…旬の時期に収穫したレモンの砂糖漬けをたっぷり使って、生地にはあえて大小様々な大きさに砕いた胡桃とドライフルーツをしっかりと練りこんだ…うううっ」

「何それおいしそぅ」


 ヴァレリア邸へのお泊り以降、ミリアムは何度もこうして魔女たちに強制召喚されていた。

 毎回予告もなしに突然魔法で召喚される為、ミリアムも家族も最初こそ驚き、慌てて捜索されたりもしたが、回数を重ねるとさすがに慣れてきた。帰りも馬車で送られてくるので今ではあまり気にされていない始末だ。


「きちんとご連絡頂ければ持参いたしましたのに…」


 まだ涙目のミリアムにロビンが駆け寄り、そっと手を重ねる。


「泣かないでミリィお姉さん。ボクが呼んでって言っちゃったんだ。ごめんね」


 ミリアムはシュンとするロビンを見て、その仔犬のような可愛らしさに思わず天を仰ぐと、ギュッとその小さな身体を抱きしめる。


「いいんですのよ!ロビンは悪くありませんわ!」

「こないだリアお姉さんにホットケーキの作り方を教わったから、今度食べさせてあげるね。ゆるしてくれる?」

「なんでも許しますわ!ありがとうロビン!慰めてくれるなんてなんて可愛らしいの!」


 コテンと首を傾げたロビンにさらに頬ずりをする。


「ああーん!ずるいわぁミリィ!ロビンこっちにいらっしゃい!美味しいお菓子も用意したのよぉ」


 ベアトリーチェはロビンを手招きし、自分の横に座らせると甲斐甲斐しく世話を焼き始める。


「ところで、ミリィはエミルとどうなったんだ?何か進展は?」


 エレオノーラの問いかけにミリアムは首を傾げる。


「どうなるも何も、エミリオ様にはいつもよくしていただいておりますわ。毎回邸まで送ってくださって、お花を下さったりお手紙を下さったり…。親友の妹だからでしょうか?同志とは言え、こんなに良くしていただいて、恐縮しております」

「!?どういうこと?あんたたち、好きあってるんじゃないの?」

「私もそう認識していたが…」


 明らかに困惑するエレオノーラとヴァレリアに、ミリアムは何故だか分からないという表情でこちらも困惑する。


「いえ、エミリオ様とは特に何もございません。もちろん、お互いによく似た悩みを抱えておりましたので、唯一無二の同志ではありますけれど、それだけですわ。エミリオ様もきっとそうお考えのはずですわ」


 言い切ったミリアムに背を向け、エレオノーラとヴァレリアはこそこそと話す。


「ねえ、この子かなりの鈍感娘?あんな明らかな好意を向けられてこれっぽっちも気付かないとかある?」

「いや、エミルが哀れに思えてきたな。はは」


 と言うのも、エミリオはミリアムがこうして魔女たちに召喚されるたびに、毎回いそいそと馬車に同乗して送り届けている。そのたびに、小さな花束や手紙、ミリアムの好む焼き菓子などを渡しては兄のレオナルドに睨まれている。

 エミリオ自身も“ミリアムは同志”と言ってはいるものの、好意があるのは明らかだ。だがしかし、その想いは微塵もミリアムに伝わっていないようだった。


「ねえ、ミリィ。エミルが自分のことを好きかもとか全然…思わないわけ?」


 ヴァレリアの問いにミリアムは「まさか!」と笑う。


「エミリオ様にはもっとふさわしい方がいらっしゃいますわ!そう、例えばお姉様とか…わたくしでは地味過ぎてとても…」

「本当に1ミリも伝わってないのねぇ。エミルったら残念」


 三人の魔女は顔を見合わせ、第一王子に思いを馳せた。

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