プロローグ
初めての異世界ものです。
のんびりになるかもですが、お楽しみください!
――ああ、どうしてこんな事になったのかしら
「あらぁ、暗い顔しちゃって。どうしたのミリィ?ほらほら、お茶でも飲みなさいな」
アーヴィリエバレイ王国カパローニ侯爵家の次女ミリアムは困惑していた。
己の目の前でお茶を勧める女性…燃える炎の様な癖のある赤毛に夜明けの空を想わせる暁色の瞳。
中央の魔女・ベアトリーチェ。
ここはアーヴィリエバレイ王国の王宮の中にある彼女専用の邸宅だ。
ベアトリーチェの右隣にはフワフワの金髪に瑠璃色の瞳、陶器のようなかんばせが眩しい小柄な美少女。樹海の魔女・ヴァレリア。
左隣には黒い絹糸の様な漆黒の髪に、涼しげな切れ長の瞳は銀色。血筋のせいか少し尖りぎみの耳。最果ての魔女・エレオノーラ。
さて、この三人の魔女について語るには、まずアーヴィリエバレイ王国の歴史から語らなければならない。
それでは少々お付き合いいただこう
――800年前、それまで平和だった世界に悪しき竜が目覚め混沌の時代を迎えた。
世の中には魔物や魔獣が蔓延り、人々の生活は恐怖に晒されていた。
時のアーヴィリエバレイ国王はこの状況を打破すべく、悪しき竜の討伐を行うが尽く失敗。
美しい海や山脈、豊かに広がる農地などを有する広大な国土も、徐々に魔境に侵食され、底の見えぬ大渓谷と人も魔も寄せ付けない深淵の樹海に囲まれた首都を残すのみとなっていた。
いよいよ人類が終わるかと思われたその時、魔女でもあった国王の妹姫に天啓が下った。
“高貴なる者”
“遠きところより遣わされし者”
“混ざりあいし者”
三者が集いし時
聖なる血を以てこの者らに永遠の刻を刻もう
其の血を以て悪しき血を静め
哀しき黒き竜に悠久の眠りを
天啓を受けた王妹・ベアトリーチェは異世界より召喚された少女ヴァレリア、ダークエルフと人間を親に持つエレオノーラと共に聖なる竜の血を飲み、悪しき竜を封印。
その後、ヴァレリアは深淵の樹海へ、エレオノーラは最果ての渓谷へ、ベアトリーチェは中央の城に残り結界を張った。
アーヴィリエバレイ王国は3人の魔女の加護を受け、永遠の平和を手に入れたのだった。
(アーヴィリエバレイ王国史 序章より抜粋)――
そう、ミリアムの前で微笑みながらお茶を楽しむ三人の女性こそ、800年前その身に永遠の刻を刻んだ救国の魔女たちであった。
そしてそんな魔女たちのお茶会に参加している侯爵令嬢ミリアムは困惑している。
なぜなら、彼女が身に纏っているのが訪問用のドレスでも普段着用のドレスでもない、たっぷりレースの付いた柔らかな肌触りがお気に入りのナイトドレスだからだった。
「…ベアトリーチェ様、こうしてお茶会にお招きいただけることは大変身に余る光栄なのですが」
「私もミリィがこうして来てくれて、とても嬉しいわぁ」
苦笑いのミリアムにベアトリーチェが華の様な笑顔を向ける。
すると、彼女の右隣から「ぶふっ」と吹き出す声が聞こえる。
「あははははは!もうダメぇ!ミリィ!あんたなんで寝間着なのよ!」
腹を抱えてヴァレリアが笑い出す。せっかくの美少女が台無しである。
よく見ると左隣のエレオノーラも目線を逸らし、笑いを堪えている。
「だから!いつも申し上げているではありませんか!前もってご招待いただければ、きちんと正規の道で登城いたしますのに!なぜ!いつも!魔術で強制召喚なのですか!」
目の前の円卓をバンッと叩きながら、ミリアムは顔を真っ赤にして叫んだ。
その様子を三人の魔女は笑いを堪えながら見つめている。
「わたくしは今まさに眠ろうと寝台に入ったところだったのです!そりゃあ寝間着でしてよ!ガウンも着ていませんわよ!だいたい、こんな夜更けにお茶会なんて開かないでくださいまし!」
ふん!っと鼻息を荒くするミリアムをよそに、三人は談笑し始める。
「お茶会をいつしたくなるかなんてわからないから、事前に知らせるなんて無理よぉ。ねぇ?エリー?」
ベアトリーチェは左隣に声をかける。
「そうだな。この様に夜も更けた頃に人と語らいたくなる日もある」
やや男性的な話し方をするエレオノーラは、その中性的な美貌をこれでもかと振り撒きながらティーカップを持ち上げて見せる。
「そ、そもそもお茶会とは日中に催されるべきではなくて!?」
「え~。お茶しながら語り合うのが目的なら、昼間だろうが夜更けだろうがお茶会でいいんじゃなーい?」
「そうよぉ。私たちがお茶を飲みながらおしゃべりしたいなぁと思ったら、それはもうお茶会よねぇ」
ミリアムの投げ掛けた訴えに、なんとも自分勝手な言い分を返しながら魔女たちは笑う。
「あらやだ!いけない!」ふと何かを思い出したようにベアトリーチェがポンッと手を打った。
「ミリィをお茶会に召喚する時は教えてくれって言われてたのよぉ。すーっかり忘れてたわぁ。ごめんなさいねぇ。すぐ呼ぶから!」
そう言うとベアトリーチェは人差し指を立てた右腕でクルクルっと円を描く。するとそこには暁色の光の線が浮かび、だんだんと魔方陣の形を成していく。
「え!?一応伺いますけれど、どなたを…?…まさか!」
ミリアムはある人物の顔を思い浮かべ、慌てふためきながらベアトリーチェに問いかけた。
「もちろんエミルよぉ」
その瞬間、魔方陣の中から白いシャツにトラウザーズというラフな姿の青年が現れた。
エミルと呼ばれた青年は、エミリオ・ヴィットリオ・ベゲット・アーヴィリエバレイ。この国の第一王子である。
何が起きたのかとキョロキョロするエミリオはミリアムとバッチリ目が合うと、顔を赤くし慌てた様子で目を逸らす。
「す、すまない!見てはいないからな!」
「え?何を…」
言いかけてミリアムは思い出す。…自分がナイトドレス姿であった事を。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ミリアムの叫び声と、魔女たちの笑い声で今日も王宮の夜は更けていくのであった。




