王家のお家事情
ブックマークありがとうございます!
少々遅くなって申し訳ありませんm(_ _)m
「異世界転移者が現れた?」
午前から続いていた会議がようやく終わり、執務室に戻って一息つこうとしていたエミリオは、美貌の側近レオナルドから報告を受けると執務机に突っ伏した。
「樹海の中を彷徨っていたらしい。今は樹海の魔女・ヴァレリア様の所で保護されている」
「なぜこうも次々に問題が起こるのか…」
突っ伏したまま、会議中に机に積み上げられた書類をパラパラとめくり、嘆息する。
ヴァレリアの名を聞き、ふと先日の邂逅を思い出す。その後、特にベアトリーチェから何の音沙汰もないが、あの日出会った同志は息災であろうかと考える。
目の前にかの少女の兄がいるが、近況を尋ねても良いものだろうか。いや、妹を溺愛してやまないこの美貌の男の先日の様子から考えると得策ではないかなどと考えたが、一応聞いてみる。
「ところでレオ。その、なんだ、ミリアム嬢は最近どうしている?」
突然溺愛する妹の近況を尋ねられ、レオナルドは訝しげな視線をエミリオに向けた。
エルフの如き美貌と称される男の凍るような視線を受け、エミリオは逡巡するも、やっと見つけた同志とどうにか交流出来ないものかと思案した。
(ここは魔女たちの茶会にミリアムが招かれるまで待たず、自らお茶に誘ってはどうだろうか。いや、しかし婚約者でもないのに城に呼び出すのもおかしいか…)
「あの日から明るい色のドレスを着るようになった」
「え?」
「ミリアムだ。近況が知りたいんだろう?」
ベアトリーチェの邸で出会った時、かの令嬢は初夏に相応しいミントグリーンのドレスを身に着けていた。
それはやや小柄で色白の彼女にとてもよく似合っていて、彼女の兄は妖精のようだと言っていたがエミリオも完全にその意見に同意であった。
ただ、あの装いはそれは珍しいもので、聞くところによるとそれまでの彼女はその年齢の割には落ち着いた、平たく言うとかなり地味な色や形のドレスを好んで着ていたそうだ。
地味な装いの上に、常に美貌の家族に囲まれ、まるで絵画の背景の一部の様に周囲に溶け込んでいた令嬢。
本来の彼女はとても愛らしい装いの似合う可憐な少女だと言うのに、本人がそれを認めないようだった。
社交界にデビューしてからその傾向は強まり、彼女の家族は常に一歩引いてしまうそんな様子にひどく心を砕いていた。それもあって、常に誰かがついて回っていたのだが、第三者的な視点からすると逆効果であった。
家族が良かれと思って、茶会や夜会に連れ出すほど、周囲の声が聞こえてくる。自分との違いを認識させられる。
(これまで、辛かっただろうな)
エミリオはあの日、『同じですね』と微笑みあった彼女の笑顔を思い出して、少し胸が傷んだ。
「もし良かったら、今度お茶でもしないか?その、レオも一緒に」
気付くと先程自分で却下したはずのお茶に誘っていた。レオナルドは嘆息すると、執務机の上に積み重ねられた大量の書類を一瞥する。
「これだけ仕事がありながら、余計な事を考えられるとは。随分余裕だな。エミリオ王子殿下」
紫水晶の切れ長の瞳がエミリオを冷たく貫く。
「うっ!これは今から手を付けようとだな…」
「婚約者探しの真っ最中の第一王子が、城に貴族令嬢を一人招いて茶の席を設ける。この意味を周囲はどう受け取るかよく考えることだな。ましてやカパローニ侯爵家は建国より続く王国の中でも最古参。交通や貿易の要所を有する領地は広く、王太子の後ろ盾となってもなんら遜色のない家系だ。先日の話だとミリアムを婚約者にと考えている訳でもないのだろう?得難き同志?だったか?」
レオナルドの言葉は最もだった。エミリオの現状を考えると、今城に呼び出し、兄も同席とはいえ茶席に誘うとなると、婚約者候補と周囲は考えるだろう。今までどの縁談も上手くいかなかった事もあり、周囲はやや焦り始めている。知られれば全力で纏め上げようとしてくるかもしれない。
(それだけならいいが、ここ最近の第二王子派の動きを見ると、必ずしも安全とは言えないか…)
アーヴィリエバレイ王国では国王のみ側妃が認められている。
現国王には正妃の他に側妃が一人いるが、正妃は伯爵家出身。やや身分が低いが、国王とは珍しく恋愛結婚であった。それに対して、後ろ盾として嫁いだ側妃は公爵家出身。完全な政略結婚であったが、側妃は国王を慕い、国王もまた側妃の事も尊重し、大切にしていた。
そんな二人の妃の身分の違いが、後に悲劇を生むことになった。
第一王子エミリオは正妃の子。
一つ年下の第二王子イヴァンは側妃の子。
年が近い二人の王子は幼少期より周囲から比べられた。知識、剣技、マナーに執務能力、側近の人選、何から何まで比較の対象となったが、どれもエミリオがやや優勢であり、長子で正妃の子でもある為、当然次期国王はエミリオであるはずだった。
しかし、貴族の中には伯爵家出身の正妃の子より王の後ろ盾として嫁いだ公爵家出身の側妃の子の方が次期国王として相応しいと言い出す者もいた。
年々その声は拡大していき、今では第一王子派、第二王子派と議会を二つに割ってしまう事態になってしまっていた。
王子本人達の兄弟仲も然程悪い訳でもなかったのだが、今は表立って交流することもなくなってしまった。
そして、第二王子イヴァンの周囲の動きが最近怪しいと報告が入っていた。良からぬ団体と接触したとか、怪しい薬を仕入れているとか、どれも噂の粋を出ないが、後ろ盾となりうる家の令嬢と婚約が決まったなどと言う噂が流れれば、それが真実であろうとなかろうと何か動きが出てくるかもしれなかった。
(誤解でミリアム嬢を巻き込むわけにはいかないか)
エミリオは己の現状を考え、がっくりと肩を落とすと、それを見ていたレオナルドが顎を押さえて何かを考えながら天を仰いだ。
「城に呼び出すのは勧めないが、親友を訪ねて友人の邸に来るというなら何もおかしくはないんじゃないか?」
思ってもいなかった提案にエミリオは瞠目した。
「いいのか!?」
「この書類を片付けたらな」
エミリオは早速姿勢を正し、ペンを手に取った。




