存在感について
「しかし、参加していた母上主催の茶会のことをすっかり忘れてしまうとはなかなか豪胆なご令嬢だな」
「ももも申し訳ございません!」
エミリオの言葉にミリアムはまたアワアワと慌て出し、ソワソワとドレスのスカート部分を握ったり離したり忙しなくしていた。
そんな様子を見て、エミリオは思わず吹き出す。
「ははは、冗談だよ。君は素直なんだな」
ミリアムは、胸に手を当てるとホッと安堵の表情を浮かべた。
「茶会は好きではない?」
「えっと…そうですね、あまり得意ではないかもしれません」
「一緒だな。私もあまり得意ではない」
「殿下もですか?」
「ああ。ついでに夜会も苦手だ」
「わたくしもです」
「一緒ですね」と微笑み合うと、ふとエミリオは気になっていた事を聞いてみようと思った。
レオナルドによれば茶会や夜会に割と出席していると言うミリアムだが、何故か社交界では“まぼろし”と称される。
『確かにそこにいるのに認識されない』という現象は自分でも身に覚えがあるので、あわよくば、この気持ちを共有できる相手が見つかるかもしれないと言う希望もあった。
「レオに聞いたのだが、カパローニ嬢は割と茶会や夜会には出席しているそうだな」
「ええ、そうですね。家族が出席するものには大抵同行しております」
「そうか、それならば以前カパローニ侯爵家の末の娘は病弱で、ほとんど人前に出てこないという噂を耳にしたのだが、どうやら誤りなのかな?」
自分の不名誉な噂がまさか王族にまで届いていようとは、ミリアムは視線を落とし、落胆する。
すっかり落ち込んでしまったミリアムに、エミリオは慌てて問いかける。
「すまない!落ち込ませるつもりはなかったんだ。ただ、貴女はとても元気そうに見えたから。なぜ、そんな話になってしまったのだろうかと思ったんだ。なにか身に覚えはあるか?」
ミリアムは美貌の自身の家族を思い浮かべ、ため息を一つついた。
「恐らく、わたくし自身に原因があるのでしょう。わたくしがこんな事を言うのも非常におかしな話なのですが、我がカパローニ家の人間はとても美しい容姿をしております。わたくしを除いて」
「いや、君も充分に美しいと思うが…」
エミリオはお世辞でも何でもなく、純粋な気持ちでそう言ったし、実際にミリアムはそこそこ美少女なのだが、ミリアムは内心不敬かと思いながらもそれを強く否定した。
「いいえ、殿下。自分のことは自分が1番わかっております。これは純然たる事実なのです。わたくしは美しくありません」
毅然たる態度のミリアムにエミリオは閉口し、ひとまず様子を見ることにする。
「例えば、わたくしが母と姉と共にお茶会に出席しますわね。連れ立って参加しておりますので、当然お席も近くになります」
「そうだな」
「母を挟んで両隣に姉とわたくしと言うように、3人並んで座っていたとしても、同じテーブルについた方にはなぜか母と姉しか認識されないのです。2人の圧倒的な美貌の前では、わたくしなど霞んで何の印象も残らず、存在していたことさえ忘れられてしまうのですわ」
「わかる!ものすごくわかるぞ!」
ミリアムが話し終わるやいなや、エミリオはものすごい勢いで立ち上がり、ミリアムの両手を自身のその両手で掴んだ。
「え!?あ、あの殿下…手を…」
「ああ!すまない!感動のあまり不躾に触れてしまった」
「い、いえ…」
パッと手を離すと、エミリオは再びソファに座り直す。ミリアムは初めて家族以外の異性に触れられ、思わず赤面する。
「そ、それでわかる…と言うのは?」
俯きながらもなんとか尋ねる。
「いや、妹の君にこんな事を話すのもあれなんだが、レオナルドは私の側近だろう」
「ええ、そうですね」
突然兄の話になり、ミリアムは不思議に思うが、エミリオは気にせず話し続ける。
「常に共に行動しているんだ。それこそ、夜会や茶会でも」
「そうなのですね」
「ああ、するとレオナルドのあの美貌のおかげなのか、私は周囲に気付かれない事がままある。一応第一王子なのだがな」
「そ、それは兄がとんだご迷惑を…」
そう言いつつ、ミリアムはなんだか親近感をおぼえる。とても他人事とは思えない。
「一国の王子として、存在感が薄いと言うのも本当に情けない話なのだがな」
「いえ、殿下のお気持ちはとてもよくわかりますわ。身につまされます」
今度はミリアムが思わず立ち上がり、エミリオの両手を自身の両手で包み込む。
「そうか!わかってくれるか!」
エミリオも立ち上がると、ミリアムに包まれていた両手で包み返す。
初めて同志を見つけた。そんな想いで2人はしばし見つめ合った。
ガシャーン!
けたたましい音がしたので振り返ると、ベアトリーチェと共に薬草を採取したレオナルドが戻ってきており、手に持っていた採取用の器具を落として怒りの形相でエミリオを睨んでいた。




