侯爵令嬢、王子と出会う
「はぁい、どなたかしらぁ?」
声を掛けると、ミリアムにも聞き覚えのある声がした。
「エミリオ殿下付きのカパローニです。王子殿下をお連れしました。入室の許可を」
「はぁい。どうぞぉ」
(この声は、レオお兄様?)
扉が開かれると、そこには二人の青年がいた。
そのうちの一人、輝くような金色の髪に、切れ長の紫水晶の瞳をした目も眩むような美青年はミリアムを見つけると、とたんに破顔する。
「誰かと思えば、可愛いミリィじゃないか!」
「お兄様!」
青年はミリアムのもとに駆けつけると、ヒョイと抱き上げてしまう。まるで、幼い子供にするそれだ。
「ああ、素敵なドレスを着ているね!どうしたんだい?まるで若葉の妖精のようだよ!」
「お、お兄様!恥ずかしいですわ!降ろしてくださいまし」
「ははは、すまんすまん」
レオナルドはミリアムを降ろすとそっとその頭を撫でた。
「散策中に薔薇の木の枝に引っ掛けてしまって、ドレスの裾が裂けてしまったのです。困り果てておりましたら、ベアトリーチェ様がこちらへ連れてきて下さって、ドレスは皆様が見立てて下さいましたの」
「そうだったんだね。ああ!それにしてもすごく
よく似合っているよ!ミリィにはこういう明るいドレスが似合うと常々思っていたんだ!なんて可愛いんだ!」
「あー、取り込み中の所申し訳ないが、紹介してくれるかな?レオナルド?」
「おっと、これは申し訳ございません。こちらは私の末の妹、ミリアムです。ミリアム、こちらは第一王子であらせられるエミリオ・ヴィットリオ・ベゲット・アーヴィリエバレイ殿下だ。ご挨拶を」
エミリオの事をすっかりほったらかしにしていたレオナルドは、3人の魔女と王子とは初対面の自身の妹がいるため、表向きの恭しい口調でミリアムを紹介する。
「ご挨拶が遅れましたことをお詫び申し上げます。わたくしカパローニ家が次女、ミリアム・ファリナ・カパローニと申します。お会いできて光栄に存じます。以後、宜しくお願いいたしますわ」
ミリアムはレオナルドに促され、ゆっくりと深く膝を落とし丁寧にカーテシーをすると、そのまま視線を落とし、エミリオに挨拶の言葉を述べた。
「そう、堅くならなくても良い。第一王子のエミリオだ。カパロー二嬢、どうか顔を上げてくれ」
「仰せのままに」
スッと姿勢を正したミリアムは真っ直ぐにエミリオを見つめた。
エミリオもまた自身にしっかりとした視線を向けてくるミリアムを見つめていた。
しばし、二人の視線が重なり合う。
「あー、ゴホン。ちょっと見つめ合いすぎじゃあないかな?殿下?」
レオナルドがエミリオの脇腹に肘を当てる。顔は一応笑顔を 作ってはいるが、目が笑っていない。ミリアムは兄の不敬な行為に顔を青ざめ、慌てて止めに入った。
「お、お兄様!不敬ですわ!王子殿下、兄が大変失礼致しました。どうかご容赦下さいませ」
レオナルドの腕を掴み、エミリオから引き離すと、エミリオに向かって深く頭を下げる。
エミリオはその様子を見ながら微笑んだ。
「ありがとう、だが構わない。レオは昔からの友人でもあるからな」
「左様でございましたか。出過ぎた真似をして申し訳ございません」
「気にするな。ここだけの話、誰の目もない所ではもっと酷い扱いを受けている」
「まぁ!何てこと!お兄様!」
冗談めかして言ったエミリオの言葉を真に受け、ミリアムがレオナルドに詰め寄ると、堪えきれなくなったエミリオは声を上げて笑ってしまう。
「ははは!冗談だ!君の兄上にはいつも助けられている。そう怒ってくれるな」
「ミリィは怒っても可愛いだけだがな」
「お二人とも、揶揄わないで下さいませ」
揶揄われたのだと気付いたミリアムは少しむくれたような視線を二人に向けた。




