大変なモノを拾いました
全6話完結です
今日も今日とて絶賛ぼっち高校生ライフを満喫中の“僕”こと奥村真一は、現在ある出来事が原因で激しく途方に暮れていた。
先に言っておくが、やれ友達の作り方だの、休み時間中の居場所だの、そういう類の悩みではない。
僕は集団生活の中においても、一人きりでいることに一切苦痛を覚えない筋金入りのぼっち気質なので、その件に関して同情や心配はご無用だ。……いや、強がって孤高を気取っているとかではなく、本当に。
閑話休題。では僕が何故困っているのかというと、それは昨日の学校帰りに、ひょんなことからとんでもなく厄介なブツを抱え込むことになってしまったからだ。
……うん、引っ張るのはいい加減このくらいにして端的に結論を言おう。
僕は学年、いや学校内でも1,2を争うレベルの美少女がこっそり所有していたエロ小説を、偶然拾ってしまったのである。
その女子生徒の名は鷺沢麗奈。容姿端麗・頭脳明晰・品行方正と、三拍子そろったまるでどこかの物語や漫画の世界から出てきたかのようなハイスペックの才女だ。
当然、学年を問わず異性からの人気が非常に高く、彼女に告白した男子生徒は数知れない。
しかし当の本人は異様なまでにガードが堅く、男性に対して常に塩対応なことでも有名だ。
事実、女子たちからの黄色い声援が絶えないサッカー部エースの先輩や、成績も学年トップなうえ、学校一のイケメンといわれているザ・秀才君でさえ、彼女に告白し、あっけなく撃沈したという話である。
そんな学園のアイドル的存在である彼女が、ひそかにエロ小説を読んでいるなんていうことがほかの生徒や教師にまでに知れたら――
……はい、十中八九ロクでもない事態に発展するでしょうね。間違いない。
特に今の時代、SNSというツールのせいで、噂や悪評は本当にあっという間に拡散されてしまうからなあ。
ともかく、この件が表沙汰になれば、学内の平穏が崩壊することはまず避けられないだろう。
そして、僕がそんなメガトン級の爆弾を抱えることになった経緯はこうだ。
昨日の放課後、僕は学校からかなり遠ざかった地点で、置いてきた体操着のポケットに自宅のカギが入ったままになっていることに気付き、泣く泣く来た道を戻って教室へ取りに帰った。
そして、学校に戻り急いで教室に入ろうとした時、僕はちょうどそこから出ようとしていたクラスメイトの鷺沢麗奈と、出合い頭にぶつかってしまったのである。
その際、ぶつかった衝撃で彼女のカバンの中に入っていたノートやら教科書やらが教室の床にぶちまけられてしまった。
僕はすぐさま彼女に謝罪し、当然拾うのを手伝おうとしたが、本人に一言「あ、結構ですから」と不愛想に拒絶されたので、再度ごめんと謝ったのち仕方なくその場を離れ、自分の席へカギを取りに行ったのだった。
しかし、体操着のポッケの中にあると思っていたカギはなかなか見つからず、ようやく探し当てたころには、鷺沢さんはとっく帰ったあとだった。
そして自分も教室を出ようとしたとき、彼女とぶつかった現場からは少し離れた机の下に、あるものが落ちているのが目に入った。
拾い上げてみると、明らかに不健全な雰囲気のカバーイラストが目をひく、小説と思しき本だった。
表紙はというと、ヒロインらしき女性キャラクターが、蠱惑的な笑みを浮かべながら堂々とM字開脚をしていた。スカートなのでむろん下着も丸見えである。おまけに、不自然なほど胸を強調した扇情的な出で立ちをしている。
タイトルに関しては、あまりにも直球が過ぎるのでもはや言いたくもない。
これはもう、中を読むまでもなくというか……誰がどう見たってエロ小説である。
付け加えるなら、官能小説というよりは表紙のデザインやタイトル的に、エロラノベといった方が正しいだろう。
そう、これこそ今まさに僕の悩みのタネとなっている、鷺沢麗奈秘蔵のエロ小説だったのである。
何故彼女のものと言い切れるのかというと、本に挟まれていたしおりの隅の部分に、女の子らしい丸みを帯びた字で小さく “鷺沢麗奈”とご丁寧に記入されていたからである。
(……いや、本のしおりに名前なんて入れないでしょ普通。しかもその挟んでる本がエロ小説って……変態アピールかな? そして何故この表紙でブックカバーをかけないで良いと思った? それとも何か? これもアピールの一環なの? )
あまりにもツッコミどころ満載だったため、つい脳内で激しくツッコんでしまった。
茜色の夕日が差す放課後の教室で僕は一人、彼女の置き土産のエロ小説を片手に天を振り仰ぐのだった。