コスト。
森の中を歩いていると、リゼルが立ち止まる。
お腹に手を当てて首を傾げていた。
「あれ? お腹が空かない」
≪竜星と繋がっているからな。栄養不足は解消されるぞ≫
「へぇー。楽で良いね」
食事の時間を短縮出来る。
リゼルにとって嬉しい報告だった。
山菜を採りに行かなくても良いし、罠を張って小動物が掛かるのを待つ必要も無い。
食事の準備が面倒で、食事を抜く事もよくあった。
そのせいで華奢な身体になってしまったのだが…
≪今は無駄な戦闘は控えた方が良いかな。容量が低い≫
「容量?」
≪竜星を使うにはコストが必要なんだよ。リゼルの容量を3としたら、【炎】【氷】【雷】【成長】がコスト1。俺に至ってはコスト5だ≫
「えー…じゃあ容量を増やすには?」
≪竜星を使いまくるか、魔物を倒して魔石から力を得るか、リゼル自身が強くなるか…だな≫
「……むぅ」
リゼルにとって、竜星を使うのは良い。
だが魔物は戦った事が無い。
魔物は魔石というエネルギーの塊を体内に内包した生物の総称。
戦闘力は、最低50。
戦闘力が5のリゼルにとって脅威な存在。
例え竜星があったとしても普通の女の子だ。
恐いものは恐い。
それにリゼルは竜変身以外の努力をした事がほとんど無い。
せいぜい家事程度。
腹筋は一度も上がらない。
腕立て伏せも同じく一度も上がらない。
武器なんて解体用のナイフくらいしか持っていない。
≪リゼル…頑張れ≫
「努力…怖い」
リゼルが顔を顰めている。
余程嫌なようだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……」
森を抜け、リゼルの目の前には大地の裂け目のような崖。
もう夕方に差し掛かる時間。
低い角度から射し込む太陽の光が、崖の底を更に暗くしている。
向こうの場所へは百メートル程。
一メートル飛べるかどうかのリゼルにとって、絶望的な幅だった。
≪……リゼル、竜星変身使えば良いんじゃないか?≫
「……えっ」
リゼルは衝撃を受けた。
先に言えよと。
そうすればわざわざ森を歩く事も無かった。
恨みがましい視線をカイに向けるが、カイは黙ったまま。
リゼルはもう、どっと疲れてしまったので木の上で眠る事にした。
「カイ…魔物が来たら教えて…疲れた。寝る」
≪はぁ…了解≫