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双子の流星  作者: はぎま
竜星の力
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竜星の力。

 

 族長の家に避難していく少年少女達。

 皆焦りと不安の入り交じった表情で走っていく。途中転んだ者を皆で助け合う場面があったが、その中にリゼルは居ない。


 立ち尽くしていた。

 茫然と…そして、頭の中で反響する人間という単語。

 憎むべき…敵。


 そんなリゼルにデリカが呼び掛ける。

 しかし反応は無い。


 痺れを切らしたデリカがリゼルの肩を掴み声を荒げる。


「――おいリゼル! ボーッとしてんじゃねぇ!」


「…あ……ぁあ…ごめんなさい。避難するんだね」


 リゼルはフラフラと歩きながらデリカに付いていく。

 人間…人間…母を拐っていった人間。

 黒い感情が湧き出してくるが、今立ち向かったところで殺されるのは目に見えている。


 自分が今出来る事は、身を隠す事だけ……それがとても悔しかった。

 拳を握りながら、林に挟まれた砂利道を進む。


 後方から聞こえる戦闘音……

 大人の竜人が竜変身し、人間達に竜のブレスを浴びせている音。

 何か金属が擦れ合うような音。

 そして…誰かの叫び声。



「お前達で最後か!」

「は、はい。俺達が最後だと思います!」

「早く中へ!」


 族長の家に到着。

 大きな屋敷の中に入ろうとした時……


 後ろから大きな爆発音がした。


 爆風が背中に当たり、よろけながらも後ろを振り返る。


 振り返った先…


『にゅふぁふぁふぁ! 竜のブレスが効かないなんて…やっぱりボクは天才だぁ!』


 虫唾が走るような嫌な笑い声をあげる…真っ黒い金属の塊。

 二階建ての屋敷を超える高さを誇る、異様な人型。

 その後方には変わった杖を持った同一の鎧を着た者達…人間の兵士達の姿。


「何だ…あれ……」


 丸太のように太い右腕には、少し焦げた大きな盾が装備され…左腕の先には、煙の出ている筒のような物が装着されている。

 重厚な脚部からは煙が噴き出し、金属の擦れ合う音が響く。

 装甲の表面に張り巡らされた白いラインが淡く光り、まるで生きているかのような存在感を発していた。


 人間の技術の粋を集めて造られた魔導機兵。

 竜のブレスをも弾く防御力。

 兵器並みの攻撃力を誇る魔導機械。

 圧倒的存在感。


『戦闘力が千程度じゃあボクのバンダーウォックは壊せないよぉー! にゅふぁふぁふぁ!』


 リゼル達は初めて見るバンダーウォックと呼ばれる魔導機兵に…ただただ茫然としていた。

 自然と共に生きる竜人にとって、あまりにも非現実的な存在。

 人間が開発した魔導機械という武器は聞いていた。聞いていたが、これ程までに無機質で…圧倒的な強さを誇るなんて聞いていない。


『さぁて、この家が最後だねぇ。もう研究は最終段階だから…戦闘データが取れれば良いや』


 魔導機兵が左腕を屋敷へ向ける。


 左腕に装着された筒が前後に駆動。


 左腕内部の回転音が響いた時…


「デリカ! リゼル! 無事か! 遅れてすまない!」

「親父!」


 デリカが親父と呼んだ赤い髪の竜人…族長のダーグが林から飛び出し、手にしている大きな斧を魔導機兵に投げ付ける。

 魔導機兵が右腕の盾で弾き、飛び出してきたダーグに興味を示した。


『へぇ…変身前で戦闘力が千に届く。お前がボスかい?』

「人間…貴様等を許しておけん! 竜変身!」


 ダーグ赤い光に包まれ、光が大きくなっていく。

 そして光が形を変え、魔導機兵に匹敵する大きさの赤竜に変化した。


「親父が来たらもう安心だぜ!」

「……」


 デリカは安心した表情で父親を見る。屋敷に籠っていた子供達も窓から覗いている状態…族長が居れば安心だという雰囲気が周囲に拡がった。


『ひゅふふ、戦闘力が四千…良いねぇ良いねぇ』


『灰になるがいい…フレイムブレス!』


 ダーグが口を開き、真っ赤な炎が吐き出される。

 ドラゴンの代表的な攻撃…ドラゴンブレス。

 この世の上位に君臨するドラゴンが放つ攻撃は、人間が使う魔法などとは比べ物にならない威力を誇る。

 まして族長ダーグのドラゴンブレス…

 それが解っている里の者達は、人間達が灰になる光景を思い浮かべる。


『ひゅひひ…魔導砲』


 だが、それは幻想だった。


『がっ…はっ…』


 魔導機兵の左腕から放たれた白い砲弾が、赤竜となったダーグを貫いた。

 本当に、一瞬の出来事だった。


「……えっ」


 ダーグが貫かれ、竜変身が解ける。

 そこには、倒れ伏したダーグの姿があった。

 里の者達は、現実が受け入れられない様子で茫然としていた。


 駆動音を響かせながら、魔導機兵がゆっくりとダーグに近付く。


『流石はボク。戦闘力四千程度なら余裕余裕。兵士達ー回収よろしくぅー』

「「はっ!」」


 魔導機兵がビシッと指揮し、敬礼をした人間達がダーグを連れ去ろうとしていた。


 リゼルは、竜人が連れ去られるこの光景を見るのは二度目だ。

 母が人間に連れ去られた光景が頭に浮かぶ。


「くっ…にん…げん…」


 激しい憎悪と、激怒。

 負の感情が次々と湧き出してきた。

 その時…


≪リゼル…≫

「……?」


 リゼルの頭の中に声が響く。

 聞いた事の無い声だが、何処か懐かしくリゼルの頭にスーッと入り込む透き通った声が、憎悪を少しずつ溶かしていく。


≪力が…欲しいか?≫

「ちから…」


≪俺の願いを叶えてくれるのなら…お前に力をやる。お前が望んだ力だ≫


 何故、頭の中に声が響くのか…リゼルは混乱しながら首に下げている袋をギュッと握る。

 すると、袋が熱い。


 まさかと思い、袋を開けてみると…竜星と呼ばれる石が淡い輝きを発していた。


「竜星? なの?」

≪あぁ、お前が成人するまで待つつもりだったが…状況は変わった。俺の願いは簡単…竜星を集める事だ。どうする?≫


 竜星を集める事を了承すれば、力を得られる。

 にわかには信じられない事だが、母が竜星は力になると言われた事を思い出す。

 母が言っていた事ならば、信用できる。


 どちらにせよ、待っているのは死。

 それならば、この得体の知れない声に任せてみるのも良いだろうと思う。どうせ自分は弱い存在だから…と、半ばネガティブな思考の中…リゼルは声の願いを聞く決心を持つ。


「解った…力を、頂戴」

≪…交渉成立だ。お前の頭に竜星の使い方を叩き込んでやる≫


「ぅっ…くっ…」

 頭に沢山の情報が流れてくる。

 竜星の基本的な使い方が……基本的と言っても情報量が多く、リゼルが苦しむ程に負担が掛かっていた。


『ひゅひひ、ボスを捕まえたからもう良いかなぁ。この家ごとぶっ壊そうっと』


 魔導機兵が再び左腕を向け、愉悦を含んだ笑い声を上げる。

 機械音が響いた時…


『ん? なんだガキ、先に死にたいのかなぁ? ひゅふっ、戦闘力は五…ゴミだねぇ』


 屋敷と魔導機兵の間に、真っ白い少女…リゼルが立つ。

 言葉を発する事も出来ずに茫然としていたデリカが気付いたが、族長ダーグを簡単に倒した相手に畏れを抱くばかりでリゼルを止める事が出来なかった。


「人間、あなた達は…私が倒す」


 リゼルが首に下げている袋から、淡い光を放つ竜星を取り出す。

 赤、青、黄、透明、黒の石。


「竜星解放」


 リゼルの言葉で、竜星の中に文字が刻まれた。

 赤は【炎】、青は【氷】、黄は【雷】、透明は【成長】、黒は文字が浮かばずに変化は無かった。


≪最初だから二つ…炎と成長だ。黒は俺だから…まだ使えない≫

「……解った。【炎】【成長】…竜星変身」


 炎と成長の竜星が輝き、赤い炎にリゼルが包まれる。

 燃え盛る火炎に包まれているが、決して熱くなく…リゼルの身体を優しく包んでいた。


 そして、炎が晴れると外見に変化が起きていた。


『千…二千…なんだ…このガキ…戦闘力が上がっていく……こんな変身は知らない』


 真っ白い髪は赤く染まり、瞳も赤く染まっている。

 白い服も赤いドレスに変化。

 背中には緋色の竜翼が広がる。


 一番の変化は……華奢な身体とは打って変わって、身長が伸び女性特有の丸みを帯びた身体つき。

 18歳程の…大人の状態へと変わっていた。


「…緋炎・スカーレットドラゴン」


 リゼルは相変わらず、完全な竜に変身は出来ない。

 出来ないが、竜星の力で補えば竜をも超える力を得られる。


『戦闘力…七千…なんと…素晴らしい』


 戦闘力を測定する魔導機械が示す数値は…魔導機兵と互角。

 魔導機兵に乗り込む魔導技師ラムダは、自然と口角が上がっていた。


「これが…竜星の力…」


≪…悪いなリゼル。さぁ、共に覇道を歩もう≫



 この少女…リーゼルロッテ・クラウンが手にした力…竜星。


 この力が、運命を…そして世界を変える。

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