六話
「よし、お前ら!用意は出来ているか!」
「へい、ボス!」
夜中の一時半。良い子ならもう寝ている時間。そんな時間に何やっているのかというと、抗争のための準備である。
「もう一度簡単に作戦を確認するぞ。クレイジー、地図を広げろ。」
テールは僕に持たせていた地図を広げさせる。先程僕に説明するために使っていた地図ではなく、ここら一帯のみを拡大させたものだ。たしかにこちらの方が見やすい。
「今回の作戦は、A班、B班に分かれて行う。A班は外から、B班は中から攻撃する。そして、B班は中に入ったら西棟と東棟に分かれる。それだけだ。あとは現場で俺が指示するとおりに動け。いいな?」
「へい、ボス!」
今回攻める場所はネール。A班11人、B班11人に別れての作戦となる。A班は窓から銃で撃ったり、援護に来るであろうナルナーテと対峙する役割。B班はしょっぱなから中に入っていってネールとドンパチやる役割。ネールの拠点は西棟と東棟に別れているらしく、B班は中に入ったあとすぐに半分に別れる。ちなみに今回テールも行くらしく、僕も同行するはめになったので二つ銃を渡された。
なんて考えているうちに作戦の最終作戦を終え、他の人たちは出ていってしまった。テールも出ていこうとするが、ふと動かない僕に視線を止め、訝しげにみやる。
「どうした?」
「ね、ねぇ、本当にいくの?死ぬかもしれないのに、本当に?僕も戦わなくちゃ駄目?殺さなきゃ、駄目?」
ふと思い付いた不安を一気に吐き出せば、テールは少し目を見開いた。
「…そうか。お前、まだ殺したこと、ないのか。誰も。…そうか。すまない、忘れていた。」
ぼそりと呟いたテールは、こちらに正面を向けて、しっかりと目を合わせてこう言った。
「…無理なら、誰も殺さなくてもいい。ただ、作戦には参加してくれ。全体の士気に関わる。いいな?」
「…うん。」
僕はそう言うしかなかった。
ネールの本部についた僕たちは、ついに作戦を実行していた。
扉を思いきり蹴り破り、鳴り響く警音になど気も止めずに廊下を走り抜ける。
でも、僕は未だに誰一人殺すことが出来ずにいた。人を殺すのが怖くて、撃つことすらできない。ひたすらにテールに着いていくだけの僕は、本当に来た意味があったのだろうか。
ちらりとテールを見やれば、大量の返り血が美しい顔を彩っていた。吐き気がしてきたので視線を横にそらすが、そこにもまた死体が転がっている。もう限界が近かった。吐きそう。
口元を押さえた瞬間、僕に当たるか当たらないかのスレスレの位置に銃弾が飛んでいった。後ろを振り返れば、テールが仕留め損なったネールのやつが赤に染まる腹を強く押さえながら銃を撃っていた。テールはそれに気付き、僕の腕をつかんで自分の後ろにやったかと思うと目にも止まらぬ早さでその人間を殺した。
そして、こう尋ねたのだ。怖いか?と。
何にたいして?
抗争のこと?人を殺すこと?テールのこと?殺されること?
怖いさ。
でも、そう呟いたテールがあまりにも悲しげで、僕は気づけばううん、と言っていた。テールは少し驚いた表情をしたけれど、すぐに新しい敵が来てその話はうやむやになった。
…夜、血、月、死。
ああ、そのどれもが嫌いになってしまいそうだ。
いいや、本当は、昔から。
…昔から、大嫌いだったんだ。